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トランプ大統領回顧 2017  “戦い”と“孤立”の一年

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ氏にとって、大統領就任一年目の2017年が間もなく終わろうとしている。選挙時、数々の公約をしたトランプ氏だが、2017年はトランプ氏にとって、どんな一年だったのか?

 まず、「戦い」に明け暮れた一年であったと言えるだろう。大陸間弾道ミサイルの実験を繰り返す金正恩氏と舌戦を繰り広げ、弾劾の可能性もあると言われている“ロシア疑惑”では激しい糾弾を受けた。終結していないこれらの戦いは、2018年に持ち越される。

 「孤立」という二文字が浮かび上がる一年でもあった。“入国禁止令”や“不法移民の子供の受け入れ禁止”に見られるような“反移民政策”と、“パリ協定からの脱退”や“エルサレムの首都認定”に見られるような“反国際政策”で、アメリカの孤立は確実に深まったからだ。

 内政的には、活性化したアメリカ経済に拍車をかける大型減税法案を成立させたものの、問題が多いオバマケアの廃止には頓挫した。

 トランプ大統領の2017年を振り返ってみよう。

 

入国禁止令を発令

 1月、就任間もなく出した大統領令で、7カ国のイスラム教国の人々に対し、90日間の入国禁止令を発令。また、難民は全面的に一時受け入れを停止、シリア難民は無期限受け入れ停止とされ、空港では旅行者が拘留されるなどの混乱や反対デモが起きた。

 禁止令は連邦裁判所で違憲と判断されて差し止められ、3月には、変更された2回目の入国禁止令が発令されて、入国禁止対象国からイラクが外された。シリア難民への無期限受け入れ停止も取り下げられた。

 9月に出された3回目の入国禁止令には、6カ国のイスラム諸国以外に北朝鮮とベネズエラが加えられ、10月半ばに有効になる予定だったが、連邦裁判所の介入で差し止められた。しかし、12月5日、最高裁が全面的な執行を認める判断を下した。

 120日間入国停止されていた難民については、10月、イスラム教徒が多く、リスクが高い11カ国の人々を除いて、受け入れを再開する大統領令を発令。

 トランプ大統領は入国禁止令は“宗教とは関係なくテロ防止のため”と主張したが、入国禁止対象国はイスラム諸国が中心であるため、“イスラム教徒差別”であると批判や反発が起きたり、イスラム教徒に対するヘイトクラムも起きたりした。3回目の入国禁止令では、アフリカで“テロとの戦い”をしているチャドが入国禁止対象国に加えられたことも問題視された。また、12月、シアトルの連邦地裁判事は、受け入れを拒否されている11カ国の難民でも、米国内に繋がりのある人や組織がいる場合は入国拒否をしないと、一部執行を阻止している。

規制緩和を推進

 2月、公約していた「雇用の創出」をするため、オバマ政権下で施行された金融規制強化のための金融規則改革法「ドッド=フランク法」の見直しを行う大統領令を発令するなどして、様々な規制緩和を推進した。

 規制緩和やFRBによる金融緩和の推進により、平均株価は最高値を更新し、不動産価格も上昇、アメリカ経済は好景気となった。雇用市場も回復し、失業率も低下している。しかし、景気の拡大は、リーマンショック後、2009年から堅調に続いており、前政権からの流れを引き継いだものともいえる。また、トランプが雇用を拡大すると公約した製造業や石炭業では、雇用の改善はあまり見られていない。

ロシア疑惑で渦中の人に

 共和党候補だったトランプ氏が大統領選で有利になるよう、ロシアに選挙介入させたとされる”ロシア疑惑”で渦中の人となった。5月、トランプ大統領は、ロシア疑惑と関わりがあるとみられていた前大統領補佐官マイケル・フリン氏を調査していたFBI長官のコミー氏を解任。コミー氏はトランプ大統領に「この件は忘れてほしい。フリンはいい奴だ」と圧力をかけられたと話した。その後、FBI特別検察官に任命されたムラー氏が調査を引き継ぎ、10月には、トランプの選対本部長を務めたマナフォード氏とビジネスアソシエイツのゲーツ氏を、外国の政府のために不法なロビー活動をしていたという理由で起訴。12月、フリン氏は、昨年、当時のロシア駐米大使と接触したことについて虚偽の供述をした容疑で起訴され、罪状を認めた。

 フリン氏の起訴により、捜査の手がトランプ大統領自身まで及ぶかが注目されている。トランプ大統領がロシアと共謀したということが立証されたり、司法に圧力をかけて共謀の証拠をもみ消そうとしたりすれば、ウォーターゲート事件で弾劾発議が出て辞任に追い込まれたニクソン大統領のように、弾劾発議が出る可能性がある。

パリ協定から脱退

 6月、気候変動対策の国際的な枠組みである「パリ協定」からの脱退を表明、世界中から批判を浴びた。経済界もトランプ大統領を批判し、大統領諮問委員会のメンバーを務めていたテスラモーターズCEOのイーロン・マスク氏は辞任した。

 「パリ協定」は地球の気温上昇を1.5度C未満に抑えるのを目標としているが、世界の15%の二酸化炭素を排出するアメリカの脱退で、目標達成が困難になるかもしれない。また、アメリカは、気候変動問題では、リーダーとして発展途上国への経済技術支援を行ってきた。今後は、中国とEUがリーダーシップを取りながら再生可能エネルギーへの移行を進めていくことになるだろう。世界の大企業の多くがグリーンエネルギーへの移行を進める中、それに逆行する動きをしたアメリカは、ビジネス的にも難しい立場に置かれることになる。

オバマケア廃止に失敗

 議会が共和党に牛耳られているにも関わらず、“オバマケア”と呼ばれる国民皆保険制度の廃止に失敗。“オバマケア”は、保険料を高騰させ、規制が多いことから保険会社が撤退するなど多くの問題点を抱えていた。オバマケア廃止を公約していたトランプ大統領は代替案を提案したが、それは十分に保険料を下げるものではなく、高齢者の保険料増に繋がる問題もあることから、7月、否決された。

 代替案の法制化に失敗したトランプ大統領は、10月、省庁に、オバマケアを骨抜きにするような措置を検討するよう大統領令を発令、保険商品の規制を緩和して、購入の選択肢を増やすよう指示した。また、トランプ大要領は、州またぎで保険商品を購入することも容認しているが、医療保険を規制する権限を持っているのは州政府だ。そのため、州政府は、連邦政府による州政府の権限侵害を訴え、訴訟に発展する可能性が高いと言われている。

不法移民の子供たちの受け入れを禁止

 アメリカには、子供を連れて不法入国した者も少なくない。そんな子供たちの米国在留を認める制度が、オバマ元大統領が導入した「DACAプログラム」だ。不法移民の取り締まりを選挙公約としていたトランプ大統領は、9月、このプログラムの撤廃を発表、大きな議論が起きた。現在、約80万人の若者たちがこのプログラムの恩恵を受けているが、子供たちの中には大学で勉強中であったり、アメリカの企業に就職したりしている者もいる。プログラムが撤廃されれば、アメリカで学び、育った若者たちは国外追放に追い込まれるため、来年3月までに代替案を作成する猶予期間が与えられた。

 問題は、親が不法入国したとしても子供たちにまでその責任が及ぶかどうかだ。何も知らずにアメリカに連れてこられた彼らを国外追放することは人道的問題でもある。彼らはアメリカで学び、職について、アメリカ社会に貢献しようとしている。アメリカは、アメリカン・ドリームを抱いて移民してきた人々の“移民パワー”に支えられ、それが経済成長と技術革新を生み出してきた。トランプ大統領の“鎖国政策”で、長期的には、アメリカの社会的経済的発展が遅れをとることになるかもしれない。

北朝鮮危機で、金正恩氏と舌戦

 大陸間弾道ミサイルの完成に向けて、ミサイル打ち上げや核実験を続ける金正恩氏と激しい舌戦を繰り広げ、挑発しあった。金正恩を“リトル・ロケットマン”と呼び、”北朝鮮を完全に崩壊する”と警告。北朝鮮は経済制裁やテロ支援国家再指定などの圧力が加えられたが、金正恩は圧力に屈していない。12月、ティラーソン国務長官が一時、“無条件対話”という軟化な姿勢を見せたことで、外交的解決ができずにいるアメリカの焦りが露呈した。

 トランプ大統領は対話による外交的解決へと北朝鮮を導くことができるのか、何らかの軍事行動に踏み切るのか、あるいは、核所有を容認して封じ込めを強化するのか、来年の動きから目が離せない。

アジアを初歴訪

 11月、アジアを初歴訪し、北朝鮮の非核化に向けて、東アジア諸国との同盟強化に努めた。日本では、安倍首相の手厚いもてなしをうけて“蜜月”を演出したものの、“経済は日本が2番”とアメリカ経済がナンバー1であることを自賛。1月にTPPから永久離脱する大統領令に署名したトランプ大統領は、2国間交渉による貿易協定を推進しようとしており、日米の貿易不均衡を是正すべく、日本の自動車メーカーにアメリカで車を製造するよう呼びかけた。中国では、対中貿易赤字問題を解決すべく28兆円もの商談を成立させ、番外としては、習国家主席に頼んで、ルイヴィトンの財布を万引きして逮捕されたUCLAのフットボール選手を解放することに成功した。

 中国で成立した大型の商談が最終的に具現化するかはまだ未知数だ。“対北朝鮮”では、日本との強い同盟関係は確認できたものの、解決の要となる中国や左翼的な韓国のムン大統領は圧力による解決に積極的な姿勢を示していない。

エルサレムを首都に認定

 エルサレム全域を実行支配しているイスラエルと、東エルサレムを首都とした独立国家の樹立を目指しているパレスチナ。イスラエルとパレスチナはエルサレム問題を巡って、長らく対立してきた。これまで、米国の大統領は和平交渉による解決を目指してきたが、イスラエル寄りの姿勢を見せてきたトランプ大統領は、イスラム諸国や欧州などの反対を押し切ってエルサレムを首都に認定。背後には、来年の中間選挙を睨んで、キリスト教右派やユダヤ教信者から支援を得ようとする思惑があると思われる。この認定を受け、国連総会は緊急特別会合を開き、米国に方針撤回を求める決議案の採決を実施、日本を含む128カ国の賛成で採択された。

 トランプ大統領は決議に先立ち、賛成票を投じる国には財政支援を行わないと“脅しの警告”をしていた。警告通り、支援を行わないのか注目されるところだ。パレスチナで起きた認定に反対するデモや抗議活動が他のイスラム諸国に波及し、中東はいっそう不安定化するだろう。トランプ大統領はこの独断的認定でアラブ諸国はもちろん世界からの信頼もなくした。アメリカの孤立はいっそう深まることになる。

税制改革法案を成立

 クリスマスを前に、選挙公約していた税制改革法案を成立させた。大統領就任後、初めて成立させた法案で、約170兆円という歴史的な大型減税が行われる。中間所得者層のための税制改革を謳っていたトランプ氏だが、蓋を開けてみたら、中間所得者層はわずかな減税しか受けられず、10年後には減税効果が見られなくなる一方、法人税が大きく減税された大企業やウォール街のヘッジファンド、富裕層、海外投資家などには有利な減税となっていた。

 大型減税により、2018年は、さらなる景気拡大が予想されているが、20兆ドル(約2,200兆円)を超える連邦財政赤字を減少させるほどの急速な経済成長を望めるかは疑問だ。また、試算では10年間で連邦財政赤字が増大するため、リセッションや戦争などの有事に対処できなくなるのではないかという懸念もある。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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