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トランプ大統領は誰にクリスマスプレゼントを贈ったのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領が、2018年から10年間で約170兆円を減税するという税制改革法案に署名した。議会が共和党に牛耳られているにもかかわらず、公約していた法案を一つも成立に至らせることができなかったトランプ大統領にとって、初めて成立にこぎつけることができた法案である。

「2月になれば、法案の成果が見えるようになるだろう。この法案で手取り給料がより多くなる。一生懸命に働いているアメリカ人にとっては信じられないクリスマスギフトになるだろう」

と豪語したトランプ大統領。しかし、本当に、この法案は、アメリカ国民にとって、“クリスマスプレゼント”と言えるような素晴らしいものなのだろうか? 

 アメリカでは様々な批判の声が上がっている。大企業やトランプ大統領自身を含む富裕層が中心に恩恵を受けられる内容だからだ。

大企業はボーナス支給と株の買い戻し

 まず、この大型減税では、法人税率が現行の35%から21%へと大幅に引き下げられた大企業が“大きなクリスマスプレゼント”をもらった。“プレゼント”に早速反応したのはAT&Tだ。同社は、20日、法案が成立したら、20万人の従業員に1000ドルのボーナスを支給し、1ビリオンドルの投資をすることを発表した。ホームデポやT-Mobile、ファイザー、マスターカードなどの大手企業も、減税分で株の買い戻しをすると発表している。それにより得られた利益は、多くが、従業員への給料というよりもむしろ、株主への配当や重役へのボーナスに当てられることになるだろう。

 米国の企業の95%は、個人事業主やパートナーシップにより運営されている“パス・スルー企業”と呼ばれるものだが、彼らも“クリスマスプレゼント”をもらった。パス・スルー企業は法人税を払わず、その企業のオーナーが所得税申告をする際に税を払っているが、その税率が最高39.6%から29.6%へと引き下げられることになった。しかし、アナリストたちは、この減税は実際にはパス・スルー企業にはあまり恩恵を与えず、トランプ大統領のような高所得者層が高い連邦所得税を回避するために“パス・スルー企業”を設立して、利益を得ようとする“税の抜け道”になるのではないかと懸念している。

より多くの遺産が相続人たちへ

 また、トランプ大統領の相続人たちも“クリスマスプレゼント”をもらった。故人の遺産を遺族などの相続人に移行する際に課される遺産税の非課税限度額が引き上げられたからだ。現行では、結婚しているカップルにつき11.2ミリオンドルの遺産までは非課税で、それを超えた分には40%が課税されているが、この減税では、倍の22.4ミリオンドルまでが非課税となった。これにより、トランプ大統領の相続人たちが得られる遺産は4.5ミリオンドル増えるという。

 さらには、ウォール街でマネーゲームをしている人々も“クリスマスプレゼント”をもらった。トランプ大統領は選挙戦時、ヘッジファンドマネージャーたちには儲けに対してわずかな税金しか払う必要がない“税の抜け道”があることを指摘し、彼らにとって優遇となっている税制措置を撤廃することを主張していたのだが、結局、彼らの”税の抜け道”は撤廃されなかったからだ。

海外ファースト?

 加えて、トランプ大統領は海外投資家たちにも“クリスマスプレゼント”を贈った。大企業優遇の減税のため、米国企業に投資している海外投資家たちは、2019年には、減税により約48.5ビリオンドルの棚ぼた式利益を得られるという。ちなみに、トランプ大統領を支持した州の勤労者世帯のボトム80%は減税により合算で約43.3ビリオンドルが棚ぼたで入ることになるが、これは海外投資家たちより約5ビリオンドルも少ない。“アメリカ・ファースト”を主張してきたトランプ大統領だが、その税制改革は“海外・ファースト”となってしまった。

https://www.americanprogress.org/issues/economy/news/2017/12/19/444363/final-tax-bill-bigger-win-foreign-investors-entire-working-middle-class-trump-states/

  “海外・ファースト”は企業のアウトソーシングでさらに拍車がかけられる可能性もある。あれほど工場の海外移転を非難していたトランプ大統領だったが、この税制は、逆に、工場の海外移転を誘発する内容になっていると指摘されているからだ。例えば、アメリカに100ミリオンドルで工場を建てて20ミリオンドルの利益を得た場合、海外の工場で利益を得る場合の4倍の税金が課されることになるという。工場の海外移転が誘発されれば、トランプを支持している労働者層が職を失うのは必至だ。

10年後には、貧富の格差がいっそう拡大

 では、トランプ大統領が税制改革で助けると豪語していた中間所得者層の税金はどうなるのか?

 タックスポリシーセンターの分析によると、2018年、中間所得者層は平均900ドル減税されるのに対し、トップ1%の富裕層は平均51000ドル減税されることになるという。また、10年後の2027年には、高所得者層の税は減少するものの、9000万人を超える、年収20万ドル以下の中間所得者層の税金は逆に上昇し、減税分の83%がトップ1%の富裕層へ行くことが予測されている。つまり、この減税では、低所得者及び中間所得者層は“わずかなクリスマスプレゼント”しかもらえず、10年後には、低中所得者層と高所得者層では減税から得られるベネフィットの差が拡大することになるのだ。

http://www.taxpolicycenter.org/feature/analysis-tax-cuts-and-jobs-act

 結局のところ、トランプ大統領は、彼を当選に導いた“アメリカの繁栄から置き去りにされた人々”ではなく、自身やトランプ一族のような超富裕層、彼自身が批判していたウォール街でマネーゲームをする人々や海外投資家にクリスマスプレゼントを贈ったのである。

トリクル・ダウンは機能しない

 トランプ大統領は、企業や富裕層を税制的に優遇することで、経済成長を促し、より多くの仕事を生み出して、貧困層にも恩恵を与えるという、いかにも共和党らしい“トリクル・ダウン”での成長を目指しているのだろう。インタビューした、ノーベル経済学賞受賞学者のロバート・シラー教授の言葉が思い出される。

「現在、世界で経済的不平等が拡大しているのは、トリクル・ダウンが機能していないからです」

 貧富の格差がいっそう拡大している10年後のアメリカが、目に見えるようである。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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