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ネットカフェ追われた女性はどこへ? コロナによる失業・DVで住まい失う

飯島裕子ノンフィクションライター
緊急事態宣言下の東京(写真:ロイター/アフロ)

緊急事態宣言発出から1週間。休業により、ネットカフェを出ざるを得なくなった人の中には女性もいた。長期にわたり利用していた人に加え、コロナウイルスの影響で家賃が払えなくなった人、家族関係が悪化した末、逃げてきた人など、ネットカフェには通常時よりも多くの人がいたはずだ。彼女たちは今どこにいるのだろう?

支援に繋がったはずなのに

「あれは本当に痛恨の極みです。彼女と一緒に役所に行くべきだった。今も気になって、携帯にかけているけれど繋がらない。何とか無事でいて欲しい」

こう話すのは安定した住まいを失った人を支援してきた一般社団法人つくろい東京ファンドのスタッフの一人だ。つくろい東京ファンドをはじめ、貧困問題に取り組む団体には、東京都に緊急事態宣言が出され、ネットカフェの休業により行き場を失った人々からの相談が殺到している。

所持金が尽き、すでに携帯電話も止められている人が多いという。最後の頼みはフリーwi-fiだが、いつ電池切れになるかもわからない。ネットの問い合わせフォームに書き込まれた乏しい情報を頼りに彼らを探し出し、支援につなげるのは容易なことではない。

その女性はそんな細い糸をたぐりよせ、支援に繋がったはずだった。緊急事態宣言が出されたのは金曜日だったため、土、日はホテルに宿泊し、月曜日に役所に相談することになったのだという。

家も所持金もない状態のため、生活保護を受給し、アパート入居までスムーズに行くだろうと考えたスタッフは他の案件もあり、役所に同行しなかった。しかし女性が役所に行くと「滞在していたネットカフェのある区役所へ行くように」と取り合ってもらえなかったという。それでも粘り強く交渉した結果、唯一認められたのが、婦人相談所の一時保護施設での宿泊だった。しかし、東京都は住まいを失った人々に対し、一時的に宿泊できるホテルを用意している。そこに入るという選択肢はなぜ提示されなかったのだろうか?

施設が悪いわけではない。しかしDVから逃れてきた人が利用することから携帯電話を利用できず、行動が制限される場合も少なくないという。大半の人にとって、携帯電話は社会と繋がる唯一の命綱といっても過言ではない。一人ぼっちで、知らない場所で、携帯もない生活など耐えられないと思うのも当然だろう。

見ず知らずの人と共同生活を送ることになれば、コロナにかかるリスクも高くなるかもしれない。精神的に耐えられないと感じたのだろうか。その後、女性とは一切、連絡が取れなくなってしまったという。

ほかにもDVからネットカフェに逃れていた女性が生活保護を住民票のある居住地で申請したところ、要件を満たしているにもかかわらず、「前日泊まったネットカフェがある区役所で申請しろ」「仕事を辞めなければ受けられない」と水際で追い返されたケースもあったという。

支援に繋がり、ようやく安心して眠ることができる……と思われた矢先に突きつけられた現実。彼女たちの絶望は想像するに余りある。

DV夫の在宅勤務が決まり決断

現在、女性のためのシェルターと居場所くにたち夢ファームJIIKAを運営し、婦人相談員としても長年活動している遠藤さんは「どんな時でも、本人が選べる選択肢を提示しなければいけない」と言う。

 

婦人保護施設や民間シェルターは個室が原則であり、相部屋に押し込められるわけではない。専門スタッフが常駐するなど相談を受けやすいメリットもある。しかし、遠藤さんの元に相談に来る人の中にも、役所や施設など公的機関に対する抵抗感を示す人が少なくないという。

コロナウイルスの影響により、現在、「くにたち夢ファーム」にもDV被害に遭っている人を中心に日本全国から相談が急増している。

「いつもなら『うちにいらっしゃい』とすぐに言えるけれど、コロナで移動も難しいから電話相談が中心になっています。驚かされるのは、彼女たちの多くは以前、役所などに相談した経験があることなんです。でもうまく話が通じなくて手続きしてもらえなかったり、傷つくようなことを言われてトラウマになっている人もいました。だからできるだけ詳細にやり方を説明し、あきらめずに交渉するようにとアドバイスします」

コロナウイルスの影響で、夫の在宅勤務が決まった後、家を飛び出して出て来たという人も増えている。その中には、夫からの激しいDVがあり、シェルターに入ることを何度も勧めていたが、首を縦にふらなかった女性もいた。

「コロナによって、これまでギリギリ耐えて来た人が、究極のところに追い詰められ、決断を迫られています。自分の本当の望みに向き合い、新しい人生に踏み出すならば、今はチャンスだと思うんです。女性たちが一歩踏み出そうとする大切な時にこそ、行政や福祉は力を発揮して欲しい。今やらなかったらいつやるのって思いますよ」

コロナ禍によって……

夫の暴力や不条理に一生耐えなければならなかった人が、新しく人生に踏み出す機会になるかもしれない。仕事と収入が不安定で、ネットカフェでその日暮らしをせざるを得なかった人が安定した住まいを得ることで、生活を立て直すことができるかもしれない。

「楽観的と言われるかもしれないけれど、それくらい思わないとやってられないですよね(笑)。人生をどうするのか、決められるのはその人だけなんです。私たちに出来るのは選択肢を示し、そっと肩に手をかけてあげることだけ。今が踏ん張り時なんです」

つくろい東京ファンド

くにたち夢ファームJIKKA

いずれも住まいを失った人が入居できる空き家、空き室を探しているほか、運営のための寄附を広く募集している。

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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