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当事者1000人超調査にみる ひきこもりにまつわる8つのウソ

飯島裕子ノンフィクションライター
(写真:アフロ)

 ひきこもり当事者団体が実施した大規模なアンケート調査の結果がこのほど発表された。

 1,689名の有効回答のうち、現在ひきこもり状態にある人940人、ひきこもり経験がある人508人となっており、ひきこもり当事者に関する調査としては、過去最大のものとなっている。

 アンケートをみていくと、一般的に考えられがちなひきこもりの人々に対する印象や知見とは異なる結果も出ている。そのいくつかをQ&A形式で紹介したい。

Q1ひきこもりは女性より男性のほうが多い?

 一般的にひきこもりは男性のほうが多いとされてきたが、今回の調査では、女性997人(61%)、男性550人(34%)となっており、従来とは逆の結果になった。調査を主催した団体が「ひきこもり女子会」などを行っているひきこもりUX会議だった影響も多少あるが、1000人近い女性たちが回答していることからも、ひきこもり女性たちが確実に存在するということができるだろう。

 また性別として「その他」を選んだ人も76人(5%)いた。ひきこもりになった原因をたずねた項目では「性自認や性的指向」と答えた人が5%ほどいることから、LGBTとして生きていくことの難しさがひきこもりのきっかけになり得ることもわかった。

Q2ひきこもりの人は親と同居しており、いざとなったら助けを受けられる?

 現在ひきこもっている人のうち、5人に1人が一人暮らしという結果になった。

 親に経済的に頼っている人が9割に達するものの、2人に1人が「生活に困窮している」と答えている。この数値から、同居する親ともども生活に困窮している、いわゆる8050問題が存在することが見て取れる。

 また「急な病気の時に頼れる人がいるか?」という問いには29%が「いない」と回答。家族と同居していてもその関係性ゆえか、頼ることができないと感じている人も少なくない。「精神的な支えがない」と回答した人が57%に達するなど、孤立している様子もうかがえる。

Q3ひきこもりの人は今の状態を”心地良い”と感じている?

 ひきこもりの人は、自室や自分の家から出られない状態を良しとしていると思われがちだ。しかしアンケートでは、現在の状態を「とてもつらい/つらい」と答えた人が6割を占めた。

 また「生きづらさを感じるか?」という問いには92%が「感じる」と答え、「自分のことを嫌いだと感じる時はあるか?」には89%が「常に感じる/時々感じる」と答えている。「生きづらさ理由(複数回答)」として最も多かったのは、「こころの不調・病気・障害」(78%)、続いて「経済的不安」(76%)、「自己否定感」(76%)だった。

 ひきこもりは、自分の殻に閉じこもって甘えている、怠けていると思われがちだが、現状を変えられない自分自身に対し強いストレスを感じ、つらい毎日を送っていることが垣間見られる結果だ。

Q4ひきこもりの人は就労経験がない?

 現在ひきこもりの人のうち、働いた経験がある人が8割を超えている。さらに正社員経験がある人が30%、契約、派遣、バイトなど非正規で働いた経験がある人が53%であった。また累計の就労期間をみると41%が「5年以上」である一方、25%が「1年未満」であった。

 働いていない理由(複数回答)については、「就労する自信がない」が74%で最多。「こころの不調・病気・障害」(65%)がそれに続く。「今後働きたいと思うか」という問いに対しては、「とても思う/思う」と答えた人は約6割となっている。理想の雇用形態として「正社員」を選んだのは22%にとどまっている。就労経験があるものの、うまくいかなかったことから自信を奪われ、働くことに前向きになれない状況にあることがうかがえる。

Q5不登校や学校中退をきっかけにひきこもりになる人が多いため、学歴が低い?

 全体の4割が中退経験者と中退率は非常に高い一方、55%が「大卒以上」であり、大卒の国内平均、52%と比べても高学歴であることがわかった。

 ひきこもりの原因(複数回答)としては、「不登校」(37%)「いじめ」(27%)と学校時代の経験を挙げた人がいる一方、「職場での人間関係」(34%)、「ハラスメント・暴力」(18%)、「退職」(32%)と'仕事にまつわる経験を挙げた人も多くいたことから、必ずしも「不登校」「中退」ばかりがきっかけではないことがわかる。

Q6ひきこもりは若者の問題である?

 これについては、最近中高年のひきこもりについて報道される機会が増えたため、若者だけの問題ではないと感じている人が多いかもしれない。

 今回のアンケートでもひきこもりは全世代にわたる問題であることが明らかになった。現在ひきこもっている人のうち、最年少は14歳、最高齢は71歳。40代以上が37%で平均年齢は36.4歳だった。高齢になるほど長期化する傾向が顕著で、現在、ひきこもっている人のうち、その期間は平均8.8年。40歳以上になると14.2年に及んでいる。長期化するほど抜け出すことは困難であり、若者と高齢ではゴールや支援方法が異なってくることが考えられるだろう。

Q7ひきこもりの人は支援機関に助けを求めることはない?

 ひきこもりの人は外の世界と繋がる機会がない、そもそも繋がろうとしないと考えられがちだ。しかし、アンケートでは現在ひきこもり状態にある人の大半が何らかの支援機関を利用した経験があると答えている。具体的には「病院・診療所による医療サービス」が72%、「ハローワークやサポステなどの就労支援」が56%であった。

 しかし支援機関の門を叩いた経験があるものの、うまくいかなかったケースが非常に多いことも浮き彫りになってきた。就労支援や行政機関からの支援を受けた人のうち、実に9割が「サービスに課題を感じる」と回答。さらに自由記述欄には、意を決して支援に繋がろうとしたもののうまくいかず、失望した経験など、支援機関の問題点が数多く指摘されている。再び助けを求めて窓口に行くまでには長い時間がかかり、その結果、さらに孤立を深めてしまう場合も少なくない。

 ではどのような介入が可能なのか? 最近増えている「当事者の会やフリースペースなどに参加したい」と答えた人が57%に上っており、「似た経験をした人と交流したい」(70%)、「今より人と交流したい」(66%)という声も多かった。こうした結果からも支援者と受益者という関係ではない、新しいつながりに基づいた居場所づくりの可能性'が浮き彫りになってきた。

Q8就労自立こそがひきこもり脱出のゴールである?

 ひきこもりを脱するためには、働いて自立することが欠かせないと考えられ、ひきこもり支援団体の多くもそこを最終目標に設定している。しかし実際の就労支援が当事者に届いていないことはQ7でも明らかになったとおりだ。

 アンケートでは「生きづらさから脱するきっかけ」についてもたずねている(複数回答)。就労に関する出来事が多いと思われたが、「就職したとき」は13%にとどまっており、最も多かったのは、「安心できる居場所が見つかったとき」42%、次いで「こころの不調や病気が改善したとき」41%だった。

最後に

アンケート結果を簡略に紹介するため、Q&A方式をとり、数字の大小で傾向を示すような書き方をした。しかし逆説的な言い方になるかもしれないが、アンケートを読みながら感じたのは、ひきこもりの多様性であり、誰もがひきこもりになり得るという事実だった。

調査を主催したひきこもりUX会議代表理事の林恭子さんは「ひきこもりは百人百様」と語っている。ステレオタイプを押しつけるのではなく、一人ひとりの物語にきちんと耳を傾け、寄り添う姿勢が大切であり、それこそが行政はじめ支援機関に求められていることであると感じている。

ひきこもりUX会議では、結果をもとに、ひきこもりの人に対するよりよい居場所づくりを目指して支援者向けの講習を行うなど、活動を続けていく予定だ。詳しくは、一般社団法人ひきこもりUX会議まで。

※『ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019』は、2019年10月〜11月にかけて一般社団法人ひきこもりUX会議によって実施され、社会学者の新雅史氏が分析し、3月末に公表された。調査はひきこもり経験者を含めたすべて、現在ひきこもり状態にある人、男女別に集計されており、この記事では性別統計以外はすべて現在ひきこもり状態にある人の集計をもとにした。また小数点以下は四捨五入を行った。

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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