LINEマンガを抜き売上日本No.1になったピッコマで2020年最も読まれた作品から見えるもの
株式会社カカオジャパンが運営する「ピッコマ」の年刊ランキング「ピッコマ BEST OF 2020」が発表され、約50,000の配信作品の中、マンガ部門・ノベル部門両方で韓国発の『俺だけレベルアップな件』が1位となった。マンガ版は閲覧回数2億回超。
ひとつの作品がマンガ部門・ノベル部門を制覇したのは初である。
世間的には2020年のマンガといえば『鬼滅の刃』だが、ピッコマでは『鬼滅』は3位。
『俺だけレベルアップな件』はアニメ化もされていないし、コミックスは日本では序盤部分のみしか刊行されておらず、フルカラーで単価も高いためそれほど目立った売上とは言えない。しかしアプリ内では圧倒的に読まれている。ところがコミックスの部数、映画の興収、Blu-rayの売上枚数については報じられるし、コミックス評や映画評は出るが、アプリで読めるウェブトゥーン(縦スクロールマンガ)はレビュー媒体もきわめて少なく、取り上げる媒体自体がまだまだない。
実際に生じている消費者行動と、それを報じたり論じたりするメディア側との乖離が激しい状態にある。
筆者はある雑誌に2010年代前半に音楽レビューを書いていたころ、配信限定作品やSoundCloudなどがそのころすでに無数にあったにもかかわらず「盤以外を取り上げるのはだめ」と言われて理不尽に感じたものだが、おそらくさすがに2020年現在ではその状況は解消されているだろう。
しかしマンガや小説に関しては、いまだパッケージ化されていないものはいくら数字を示したところでなかなか取り扱われない状況にある。
筆者はこういう状況は健全ではないと思って積極的にウェブトゥーンやウェブ小説について記事を書いてきたのだが、ウェブトゥーンについては「数字が取れない」と言われて企画が却下されることも多く、なかなか悩みどころではある……グチはさておき。
■ピッコマがLINEマンガを抜けた理由はどこにある?
ピッコマは2020年夏に、それまでApp Store内の売上で日本のマンガアプリでトップだったLINEマンガを抜いて1位になったから、日本で一番売上の大きいマンガアプリで一番読まれた作品が『俺だけレベルアップな件』ということになる。
ピッコマがLINEマンガを抜いた理由はどこにあるのか。
LINEマンガは近年、NAVERウェブトゥーン作品とLINEマンガオリジナル作品、つまり自社タイトルを前面に押し出し、2015,6年までと比べると日本の各出版社から提供される(とくにLINEマンガ初出ではない)作品の配信に力を入れていない。かつてのような多様な作品が流通する「プラットフォーム」(電子書店)としての役割よりも、今では「コンテンツホルダー」(IPホルダ-)としてのポジションを前に出している。そのため、以前よりも客層が狭まった(または「絞っている」)印象がある。
一方、ピッコマは、親会社のカカオが抱えるカカオページやDAUMウェブトゥーン作品など日本ではピッコマ独占の配信のタイトルもあるものの(『俺だけ~』はこれに該当する)、順調に各出版社からの配信作品を増やし続け、間口を広げてきた。近年ではいわゆる「なろう系」のマンガや小説の配信にも力を入れており(有名タイトルで検索してみれば、LINEマンガとのこのジャンルの配信作品数の差が歴然としていることがわかる)、これらのジャンルの好調さも追い風となっていることは間違いないだろう。
『俺だけ~』は韓国のウェブ小説発の作品だが、ピッコマはこうした韓国のウェブトゥーン、ウェブ小説の翻訳配信にも力を入れている(LINEマンガは韓国ウェブ小説の配信はしていない)。
ピッコマで配信している韓国のウェブ発コンテンツは日本のなろう系と似ている部分(主人公がチート級に強い)もあれば異なる部分もあり、その違いが日本の読者には新鮮に感じられているように思う。
コンテンツホルダーが自社作品を自社アプリで販売すれば利益率はいいが、他社の人気作品も含めて多様なものを配信するよりは売上は下がる。
プラットフォームとして他社作品を広く売ると間口(客数)は増え、売上も増えるが、利益率は低い。
LINEマンガ(前者)とピッコマ(後者)の違いは今ではこのように整理できる。
のみならず、後者のプラットフォーム/電子書店としても、ピッコマは今では日本でも一般化した「待てば無料」モデルを日本で初めて導入した存在であり、その後も「今だけ無料」などアップデートしてさらに使いやすく、また、長く使いたくなるアプリへと進化させてきた。日本のマンガアプリで売上1位であることに不思議はない。
2021年は日本のマンガ界にどんな影響や恩恵をもたらすのか、韓国コンテンツの日本展開でどんな役割を果たすのか(今年は『梨泰院クラス』原作マンガの翻訳配信などがあった)――楽しみに待ちたい。