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サブカル誌の代名詞QJのウェブ版は成功するか?ニュースをマスコミ的にではなく文化的に捉えることの意義

飯田一史ライター
QJweb公式サイトトップページより

 次々とウェブ上のカルチャーメディアが誕生する一方で、紙の雑誌の休刊や刊行ペース減が止まないなか、いまも刊行を続ける太田出版の老舗カルチャー誌「QuickJapan」(クイックジャパン。通称QJ)が、そのウェブ版「QJWeb」を2020年1月15日にオープンした。

 初日に公開された目玉記事は2019年のM-1グランプリ王者ミルクボーイのロングインタビュー

 QJWebの編集長に就任したのは、2000年代にQJ編集長を務め、その後、ヨシモトブックスなどを経て独立し、出版社STAND! BOOKSを立ち上げた森山裕之氏だ。

 数あるカルチャーメディアのなかでQJWebが今、狙うのは、新聞、テレビ的な切り口でもなければプレスリリースの記事化でもない、“カルチャーを軸にニュースを読む”記事の提供だという。その目論見を訊いた。

■紙の雑誌とウェブメディアを両方やる意味

――サイト立ち上げの経緯は?

森山  QJは隔月刊、2か月に1回出る媒体です。QJは雑誌の中では実売で相当がんばっていますが、時代の流れ的に企業の広告効果としても、内容の訴求力としても紙の雑誌+ウェブが必須となっている。

 そこで太田出版が広告代理店とうこう・あいとの共同事業として、QJのウェブ版を作り、タイアップなども含め、一部は本誌とも連動することで、紙とウェブ両方にプラスになるかたちを作ろう、と。「週刊東洋経済」と「東洋経済オンライン」、「週刊現代」と「現代ビジネス」の関係のように、「QJ」と「QJWeb」がそれぞれの良さを活かしながら並立するかたちをつくるイメージです。

 ただ本誌のスタッフは本誌で手一杯だったこともあり、2019年に僕に声がかかり、そこからスタッフを集め、並行して具体的にビジネスモデルや企画を詰め、制作を進めていきました。

――ビジネスモデルは?

森山  基本は無料記事配信のPVに対する広告収入とタイアップ。すでにQJ冠のイベントは開催していますが、今後複合的に展開していく予定です。

■「カルチャーからニュースを読む」――新聞、テレビ的な切り取り方への不満から

――サイトの提供価値は?

森山  コンセプトは「カルチャーからニュースを読む」。PVが基本のビジネスなので時事的な内容をベースとしつつ、「世の中のニュースをカルチャー視点で解説する」ことに力を入れたいと考えています。

「QJ」は1993年、編集者の赤田祐一が、テレビや新聞が報道しない自分が「本当におもしろい」と確信したことだけを活字にする雑誌として創刊されました。1960年代のアメリカ西海岸で起こった、ロックを聴くことと同じように読むことのできるニュー・ジャーナリズムの精神を、1990年代の日本で展開する試みでした。

 その原点に立ち返り、カルチャーにどっぷり浸っている私たちにとって大切なニュースを配信する、生活者として私たちの感覚から世界で起きていることを考えたことを配信するということを考えています。

 ミュージシャン、芸人が世間を騒がすと、新聞、テレビ、ウェブメディア含めて一斉に攻撃を始める。その人たちがそれまで表現してきたこと、私たちに届けてくれたことなど一切視界の外にやり、叩く。そんなとき、既存のメディアで、腑に落ちる記事がほとんどなかった。だから、ライターのツイッターやブログを自分から見に行きました。そういう個人の声には愛情と説得力があったし、既存のメディアにはない視点があった。

――ワイドショー的なというか下世話な関心事とか、糾弾ありきの現象として消費するのではなく、そういう人たちの長年の活動を踏まえるとどう捉えうるのか、みたいな視点でしょうか。

森山  僕は、まだ10代でYouTuberに夢中になっている人や、かつて大好きなミュージシャンの音楽に熱狂した人や、一度でも映画に生きる勇気をもらえた人――つまりカルチャーを愛する人が、その感覚で今のカルチャーについて、同じように社会について、政治について考えたり、語ることができるメディアにしたかった。個人の視点、言葉を何よりも大事に考えています。

■時事をフックに社会とカルチャーをつなぐ

――具体的なサイトの構成は?

森山  現段階では「SPECIAL総力特集」「FEATURE特集」「JOURNAL」「COLUMN」に分けています。

 雑誌でいう「特集」が「SPECIAL」。2020年の1月、2月は総力特集「お笑い2020」とし、今が新しいお笑いの時代に突入したと見立て、あらゆる方向から2020年のお笑いのかたちを考えていこうと思っています。

「FEATURE特集」はインタビューやルポなど、単発の取材記事。

「JOURNAL」は「カルチャーからニュースを読む」というコンセプトを体言化するような時評になります。カルチャーに軸足を置いた活動をしている複数人の書き手が入れ替わりながら平日毎日連載していくというコラム企画です。突然起きた出来事、事件に対しても、僕たちがそれとどのように向き合えばよいのかということも深堀していきたいと考えています。

「COLUMN」はさまざまなカルチャーの紹介記事を毎日配信していくコーナーです。QJが25年間守ってきた視点を持って、現在進行形の映画、マンガ、音楽、本などから生活、伝統芸能などまであらゆるジャンルのものを広く取り上げていきたい。

 それにプラスして、今後は各種連載が入ってくる予定です。

――たんに「こういうのが流行ってますよ」「こんな事件がありますよ」「映像化します」という記事を配信していくのではなくて、社会の流れとカルチャーの動きを紐付けて語っていく、と。

森山  そうですね。たとえば2019年にスタートしていたら新海誠監督の『天気の子』について特集を組んで、新海監督のフィルモグラフィーから掘り下げたり、あるいは社会的な視点から論じたりしていたかもしれない。「世の中の動きとこのアニメのここがリンクしている」といった点を提示したい。

――時事ネタをフックに、特定のカルチャーに関心のある人とない人の両方に届くような、そこをつなぐような記事が充実していくと、すごく意義のある媒体になる気がします。

森山  もちろんまだ始まったばかりで、反応をみながら今後いろいろとマイナーチェンジしていくと思いますが、今はその方向で走っています。まずはぜひ、一度覗いてみてください。

QJWeb

ライター

出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験した後、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材&調査してわかりやすく解説・分析。単著に『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』『ウェブ小説の衝撃』など。構成を担当した本に石黒浩『アンドロイドは人間になれるか』、藤田和日郎『読者ハ読ムナ』、福原慶匡『アニメプロデューサーになろう!』、中野信子『サイコパス』他。青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。息子4歳、猫2匹 ichiiida@gmail.com

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