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『えんとつ町のプペル』や炎上騒動だけ見てもわからない、西野亮廣が「信者」を生み出し離さない理由

飯田一史ライター
映画『えんとつ町のプペル』公式サイトトップページより

 西野亮廣の絵本『えんとつ町のプペル』が映画化される。

 彼が描く「物語の内容」と彼が採用しているクラウドファンディングやサロンという「クローズドなファンビジネス的な手法」、ブログなどの「オープンな場で炎上させ敵を作る手法」はすべて繋がっており、ゆえに熱烈な支持者を生み出している。

■同調圧力に屈しない主人公と数少ない理解者の物語

 西野作品の物語のパターンはこうだ。

 集団から浮いた変わり者である主人公と、そんな主人公に近づいてくるやはり少し変わっている(主人公とは違う社会集団に属した)存在と出会い、友情や愛情を育むが、関係を引き裂く出来事が起こり(または起こりそうになり)、しかし、時を経て感動の再会を果たす。

 周囲にバカにされても同調圧力に屈さず信念を貫くピュアさを持つ存在が、他の誰もできなかったことをやってのける――そんな物語ばかり描いている。『えんとつ町のプペル』もその次の作品『チックタック』も同様だ。

 主人公はお笑い界のレールから逸脱して我が道を行く西野自身に、パートナーは西野が彼がサロン運営やクラウドファンディングなどを通じて距離感の近い付き合いをしているファンに重ね合わせられていると見るのがいいだろう。

■お金がないわけではないのになぜクラウドファンディングで資金調達し、サロンの協力を仰ぐのか?

 西野作品においては、サロンやクラウドファンディングというネット上のサービスの存在が、作品の作り方・売り方と不可分だ。

『えんとつ町のプペル』でも『チックタック』でも、西野は映画で言う「監督」の役割を務め、アートディレクション、絵コンテ、背景デザインその他を集団で制作している。

 制作資金やスタッフはクラウドファンディングやクラウドソーシングで集めているが、これは集団制作によってクオリティを高めるという目的だけでなく、資金調達や制作段階からたくさんの人を巻き込むことで、作品をたくさんの人に「自分の子どもだ」と思ってもらうことにある。

 作家は自作を大事に扱い、たくさんの人に読んでもらいたいと思う。

 だから制作プロセスに関わる人間の数を増やせば同じように感じて購入し、必死で宣伝してくれる人が増え、結果として一人で作った絵本よりもずっと売れるはずだ、という理屈である(より詳しくは西野の著書を参照のこと)。

 その狙いは成功し、『プペル』も『チックタック』もヒットした。

 西野は、ネットでは人の神経を逆なでするような言い方をし、「ディズニーを倒す」というビッグマウスぶりをするがためにアンチが多いが、出版物を読むかぎり、理屈の組み立て方はまっとうである。誰が読んでも6~7割は納得するようなことを書いている。

 西野的な「クラウドファンディングやサロンを使ってファンを巻き込むことで作品を売りやすくする」手法は、別に日常的な炎上がなくても多くのクリエイターや編集者が使えるものであり、もっと注目され、一般化すべきものだと思う。

■成功者が弱い自分を見せるというビジネス書の鉄板手法×リアルでの振る舞い×絵本のストーリー

 一方で、西野の著書を読んでもわからない、西野が成功している理由もある。

 西野の著書(創作物以外)を読むと、自分の失敗や弱いところもさらし、エモみを喚起するという、日本人好みの人物として演出されていることに気づく。たとえばDeNA南場智子の『不格好経営』、SHOWROOM前田裕二の『人生の勝算』、ホリエモンの『ゼロ』など、日本でヒットするビジネス書にはこの手の「まわりからは経歴ピカピカの成功者に見えるかもしれないけど、自分は手ひどい経験をたくさんしてきた、ちっぽけな人間である」という見せ方をして読者の共感を呼び込む手法がよく使われている。

 だから、西野のファンになる人間がいるのはわかる。

 ただ彼の場合は、それで終わらない。

 冒頭に述べたように、絵本の登場人物を西野やファンの姿に重ねる。そしてさらに「地元に『えんとつ待ちのプペル』の美術館を建設する土地を自腹で買った。建てるのを手伝ってほしい」とサロンメンバーに訴え、文脈を知らない人間からは「正気か?」と思われる作業に参加してもらい、好奇の目に晒す。

 つまり「弱いところがあるし、まわりに理解してもらえない俺」というポジションをリアル(現実空間)で示し、物語の主人公も同様の存在にし、読者(と作中のパートナー)にはその理解者という特別な地位を与えた上で、実空間に引っ張り出して体験させ、仲間の存在を実感させる。

 すると西野や西野のファンは叩かれるほどに「俺たちは絵本に登場するプペルやルビッチ、チックタックやニーナと同じで、バカにされてるけど同調圧力に屈しない特別な存在なんだ。少数の人間しか知らない真実を知り、少数者しか知らない楽しみを知っているんだ」という意識が高まる。自分たちは迫害されている選民なのだと思う。

 西野亮廣は、こういうかたちでの「リアル(現実世界)での他者からの攻撃を誘発する奇矯な行動」―「疎外された主人公が数少ない理解者にだけ認められ、最後は報われるという絵本の物語内容」―「クローズドなコミュニティを巻き込む制作手法」―「誰の目にも触れるオープンなウェブでの物議を醸す発言」の連動の設計が巧みなのである。

参考記事:キングコング西野さんの絵本『えんとつ町のプペル』無料公開の驚くべき新しくなさについて

ライター

出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験した後、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材&調査してわかりやすく解説・分析。単著に『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』『ウェブ小説の衝撃』など。構成を担当した本に石黒浩『アンドロイドは人間になれるか』、藤田和日郎『読者ハ読ムナ』、福原慶匡『アニメプロデューサーになろう!』、中野信子『サイコパス』他。青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。息子4歳、猫2匹 ichiiida@gmail.com

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