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鉄道をうまく使って渋滞知らず?阪急・西山天王山駅と「鉄道とクルマの連携」

伊原薫鉄道ライター
阪急電鉄・西山天王山駅。高速道路と直結した駅が、これからの交通を変える?

阪急電鉄に開業した新駅・西山天王山駅。高速道路のバス停と直結したこの駅が、これまで高速バスだけ、マイカーだけを利用してきた人々を、より快適に目的地へ届けてくれるかもしれない。今日は、そんな公共交通の連携について少しご紹介しよう。

ピカピカのホーム。上を走るのが京都縦貫道、右の建物がバス停直結のエレベーター。
ピカピカのホーム。上を走るのが京都縦貫道、右の建物がバス停直結のエレベーター。

平成25(2013)年12月21日、阪急電鉄京都本線に新駅・西山天王山駅が開業した。元々この区間は、両隣である長岡天神駅~大山崎駅間の距離が約4.0kmと阪急全線で2番目に長く(ちなみに1番目は、この近くの高槻市~上牧間(4.3km))、周辺に団地が建設された昭和40年代から新駅設置の要望が上がっていた。長岡天神駅周辺の交通渋滞緩和にも役立つことから、ちょうど駅の真上を通る京都縦貫自動車道の建設に併せて新駅と駅前広場が整備され、約40年を経て実現することとなったのだ。

○高速道路の真下にある駅

西山天王山駅の東口。高架下のため、雨に濡れないのはありがたい?
西山天王山駅の東口。高架下のため、雨に濡れないのはありがたい?
駅2階となるホームから東口を眺める。大きなガラスで明るく開放感たっぷり。
駅2階となるホームから東口を眺める。大きなガラスで明るく開放感たっぷり。

西山天王山駅は、2010年3月に開業した同線の摂津市駅と同様、駅構内のLED照明採用や雨水を利用したトイレなど、省エネやCO2排出量削減を意識して設計されている。前述の通り、この駅は京都縦貫自動車道の高架下にあるため、駅舎内にできるだけ多くの光を取り入れられるよう大型ガラスを多用したのが特徴だ。一方で、駅舎内外の壁面は暖色系でまとめられ、温かみを感じさせる作りとなっている。

○鉄道と高速バスが直結!

駅舎のすぐ隣にある、高速道路バス停への連絡エレベーター(写真は下り線側)
駅舎のすぐ隣にある、高速道路バス停への連絡エレベーター(写真は下り線側)

そして、この駅の最大の特徴は「高速道路バス停と直結した駅」ということである。駅東口のすぐ横にエレベーターがあり、真上の高速道路に設けられたバス停(厳密に言うと、長岡京インターチェンジの接続道路上にあるので「高速道路上」ではないのだが)と直結。高速バスとの乗り継ぎが可能なのだ。このバス停に停まるのは、阪急バスが他社と運行する諏訪・伊那・新宿・東京ディズニーリゾート方面行き、丹後海陸交通の天橋立方面行き、そしてJR夜行バスの横浜方面行きとなっている(いずれも一部の便のみ停車)。これが実に便利で、例えば阪急沿線に住む筆者がJR大阪駅22:00発の横浜方面行き夜行バス「ハーバーライト2号」に乗ろうとした場合、これまでは21時過ぎに自宅を出る必要があったのだが、このバス停を利用すれば、30分遅く自宅を出ても22:52の発車に間に合うのである。今はまだ一部の路線・便のみとなっているが、もっと多くの便が停車するようになれば、地元の方はもちろん沿線の方も格段に便利となり、この駅の利用客も増えるであろう。

こちらは上り線の高速バス乗り場。右下に阪急電車が見える。
こちらは上り線の高速バス乗り場。右下に阪急電車が見える。
高速長岡京バス停の時刻表。現在は1日9便(下りの1便を含む)が停車する。
高速長岡京バス停の時刻表。現在は1日9便(下りの1便を含む)が停車する。

○都心の渋滞を、鉄道で回避

ところで、西山天王山駅のように「駅と高速道路のバス停が直結」というのは日本でも数少ないが、駅とバス停が比較的近いというところは何箇所か存在する。例えば、本州四国連絡高速道路の一つ、明石海峡大橋の神戸側には高速舞子バス停があり、連絡通路を通ってJR・山陽電車と約5分で乗り継ぎができる。高速舞子バス停には本州と四国を結ぶ高速バスの他に淡路島内への路線バスも停車し、またJRに乗り継げば40分弱で大阪市内へ行けるため、多くの方が利用している(ただし夜行バスは停車しない)。また、西山天王山駅と同じ京都府内にある名神高速道路の京都深草バス停は京阪電鉄の藤森駅から徒歩10分程度と近く、高速バス会社でも乗り換え案内がされている。ちなみに京阪電鉄には藤森駅の隣に深草駅というのがあるが、京都深草バス停とは全く逆の方向なので注意が必要だ。

関東では、首都高速道路の八潮パーキングエリアと用賀パーキングエリアで乗り継ぎが可能である。それぞれ、つくばエクスプレス八潮駅と東急電鉄用賀駅が徒歩10分弱の距離にあり、首都高速道路の渋滞で定時到着が見込めない時に限り、運転手に申し出て乗り継ぐことが可能となっている。この場合、高速バスの運賃は終点まで乗った場合と変わらない代わりに、乗り継ぐ鉄道の割引乗車券をバス乗務員から購入することができる。あくまでも渋滞時に限った、また一部路線のみの対応だが、定時性の高い鉄道をうまく組み合わせたシステムとなっていて、多いときには1日500人以上が利用するという。

○鉄道・バス・車、「得意」を組み合わせて便利に

駅舎内の液晶モニタでも、高速バスとの連携がPRされていた。
駅舎内の液晶モニタでも、高速バスとの連携がPRされていた。

これらのケースで、高速バスと鉄道が乗り継ぎできる大きなメリットは「時間の短縮」である。高速バスに乗るときはいったん都心へ出る必要がなく、自宅(もしくは職場)でゆっくりできる。反対に、目的地に近づいたが渋滞に巻き込まれ、いつ到着できるかわからない・・・という時、鉄道に乗り継ぐことができれば定時性を確保することができる。どちらかというと、鉄道とバスはライバル関係といったように思われがちだが、鉄道とバスをうまく連携させ、お互いの長所を組み合わせることで、より便利な交通手段となったのだ。

鉄道とバスの連携、の一つの形・DMV。写真は明知鉄道での実証実験の様子。
鉄道とバスの連携、の一つの形・DMV。写真は明知鉄道での実証実験の様子。

地方の公共交通では、よく「鉄道は動脈、バスは毛細血管」という例え方をする。鉄道を軸に、各駅でバスを接続させることで利便性を高め、地域住民の足として利用してもらおうという考え方だ。これが逆に、都会や都市間では「バスが動脈、鉄道が毛細血管」という考え方もアリかもしれない。都心から少し離れたところに高速バスターミナルや大駐車場を設け、そこから先は網の目のように張り巡らされた鉄道網で目的地へ向かうといった仕組みができれば、今までバスの車内で渋滞にイライラしていた人や、マイカーを使ってきた人たちも魅力を感じるのではないだろうか。

ちなみに、西山天王山駅にはパーク&ライド駐車場も完備されている。高速道路を利用して、マイカーで来た人達がここに車を停め、ここからは列車で京都市内や大阪市内へ。これなら都心の渋滞も不慣れな道も、駐車場を探す心配も無用だ。ローカル線のパーク&ライドとは違った「都会のパーク&ライド」も、これから増えていくのかもしれない。

鉄道・バス・車、うまく使いこなした快適でエコな生活、皆さんも考えてみませんか?

(2013/12/25追記:読者の方からのご指摘により、高速舞子バス停の紹介を一部追加しました)

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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