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背脂ラーメンの聖地・巣鴨で伝説の味が復活! 常連の笑顔と生きがいを取り戻すために

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン

東京都豊島区の巣鴨エリアをはじめとする白山通り沿い「背脂ラーメン」の聖地だったことはご存じだろうか。

1990年代から背脂ラーメンの名店3店舗「白山通り背脂御三家」が隆盛を極め、白山通り沿いには長い行列ができた。同時期の「環七ラーメン戦争」が有名だが、背脂ラーメンという意味では巣鴨エリアも負けてはいない。隆盛を極めた3つの店は次々と閉店し、昨年7月31日をもって名店は巣鴨エリアから姿を消していた。

一方、東京を中心に背脂ラーメンのリバイバルブームが来ており、今までは“ノスタルジック”というイメージだった背脂ラーメンが再び注目を集めている。令和に生まれた新店の中にも背脂ラーメンを提供するお店が出てきている。

「あの店の味が復活。あの2人が帰ってきた。」

店主の井上さん(右)と女将の上地さん(左)
店主の井上さん(右)と女将の上地さん(左)

そんな動きの中で、巣鴨から背脂ラーメンの名店が消えてしまったことに悲しみを隠し切れない2人がいた。井上さんと上地さんだ。

多くの常連客で賑わっていた名店が巣鴨からなくなり、街で出会う常連から寂しそうな声ばかりを聞く日々。その中で2人は巣鴨に背脂ラーメンを復活させるしかないと心に決めた。

麺浪漫
麺浪漫

愛された名店の道のはす向かいに、2023年4月19日、「麺浪漫」は誕生した。

背脂ラーメンの有名店「土佐っ子」「弁慶」「ホープ軒」などの“背脂チャッチャ系”の作り方とは違い、背脂をスープの中に溶かし込むのが巣鴨流。寸胴で取った豚骨スープの中に背脂を溶かし込み、味を作っていくので、朝と夕方でスープの表情が変わるのがポイント。

行列店であればあるほどスープがよく出るので、背脂の甘みが深まり、スープにコクが生まれる。

ちゃーしゅうめん(味玉トッピング)
ちゃーしゅうめん(味玉トッピング)

背脂の量は多いが、スープの中に溶かし込むその製法により、ギタギタ感が少なくお腹にもたれにくいスープに仕上がる。「麺浪漫」ではその製法を応用し、さらに味のブレが出にくく、いつでも同じクオリティを保てるように工夫し、背脂ラーメンを提供している。

製法にこだわる店主・井上さん
製法にこだわる店主・井上さん

その味わいはまさに名店で食べた一杯を思い起こすもので、一度食べたことのある人ならひと口でノスタルジック感を感じる味わいだ。

チャーシューや味玉はさらに改良し、上品にまとめ、特にとろける味わいのチャーシューは絶品だ。

「次男と名店」2つの生きがいを失った女将・上地さん

女将の上地さんは、ラーメン店で働きながら6人の子供を女手一つで育て、常連との会話が日々の癒しだった。

順風満帆と思われた日々の中で、突然27歳の次男を失い、さらには昨年巣鴨の象徴ともいうべきその名店も閉店してしまった。

生きがいを2つも失った上地さん。その中で、息子を失った時、落ち込んでいる上地さんに温かい言葉をかけてくれた常連一人ひとりの顔を思い出した。

そんな常連とまた顔合わせたい。そのためには巣鴨に背脂ラーメンを復活させることが自分のやるべきことなのだ。そう思って「麺浪漫」の開店に踏み切ったのである。

一度終わったと思われた巣鴨の背脂ラーメンの歴史。「麺浪漫」の誕生によりまたさらに次なる1ページが刻まれ始めている。

麺浪漫

東京都文京区千石4-44 8LE-LION1階

※写真はすべて筆者による撮影

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ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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