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“環七ラーメン戦争”から35年以上。いまだに行列の途絶えない「ラーメン一番」は何が凄いのか?

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
「ラーメン一番」の「一番ラーメン 正油味 小辛」

ラーメンブーム。

時代によって流行は移り変わるもの。首都圏においても札幌味噌ラーメンブーム、つけ麺ブーム、鶏白湯ブーム、濃厚豚骨魚介ブーム、煮干ブーム、鶏清湯ブームなど、時代を経ながら様々なラーメンブームがあった。一時代が終わると、一部の店を残して他は淘汰され、次の時代に続いていくのだ。ブームを終えてなお長く繁盛し続ける店というのは、横綱店として名が残っていく。

そんな首都圏のラーメンブームのひとつとして忘れてならないのは「環七ラーメン」ブームである。

東京都大田区を起点として江戸川区まで環状に結ぶ東京都道318号環状7号線・通称「環七(かんなな)」。東京23区内を囲む環状道路の一般道としては最も外側に位置しており、交通量も非常に多い。

1980年代後半から1990年代にかけて、環七沿いに多数のラーメン店が現れ、連日ラーメン店に向かうタクシーや乗用車がひしめき合っていた。代表的な店として語られるのが背脂チャッチャ系の「土佐っ子」と博多豚骨ラーメンの「なんでんかんでん」である。

環七ラーメン戦争は隆盛を極めたが、その後、道路交通法改正により駐車違反取り締まりが厳しくなった2006年頃を境に、徐々に衰退の方向へと向かっていった。

それでも、ブームから30年の時を経て今もなお環七で行列を作るラーメン店がある。

練馬区小竹町にある「ラーメン一番」だ。

東京メトロ有楽町線・小竹向原駅と新桜台駅から徒歩8分。環七と要町通りがぶつかる武蔵野病院前交差点からすぐのところにある。

ラーメン一番
ラーメン一番

1984年12月に創業し、現在は先代の後を継いだ二代目店主が味を守っている。

営業時間は夜のみで18時30分〜深夜3時まで。

当時環七で行列を作っていた店はほとんど閉店してしまったが、「一番」は開店から38年目の現在においても、店の前にはずっと長い行列ができる人気店だ。

『教養としてのラーメン』著者でイラストレーターの青木健氏は、店の近くにある日大芸術学部出身で学生時代から30年以上通うファンだ。

「『一番』は深夜まで営業していたので、大学の放課後に先輩や友達と酒を飲んだ後によく寄っていました。

背脂まみれの『土佐っ子』とはまた違って、スープがサラッと飲みやすいのがよかった。私が注文するのはほぼ味噌で、そこにオロチョンを少し足すのが好みです。今も時々食べに行くようにしています」(青木氏)

「一番」がこれほどまで長く愛されるのはなぜなのか。行列に並び、ラーメンを一杯食べるとその秘密が見えてきた。

味、辛さ、麺のかたさを自由にカスタマイズ。トッピングはすべて50円

店の前にはベンチが置かれ、18時30分のオープン前から行列ができている。

店内はカウンターのみで、目の前の厨房でラーメンが作られる。

一番ラーメン 正油味 小辛
一番ラーメン 正油味 小辛

一番人気のメニューは店名を冠した「一番ラーメン」。トッピングの豪華ないわゆる「特製ラーメン」の位置付けの一杯だ。味は正油、塩、味噌から選べる。

さらに、ここに「オロチョン」を付けて辛味をプラスする。「オロチョン」は唐辛子ベースの辛み調味料で、「一番」は東京のオロチョンラーメンの発祥とも言われている。辛さは小辛、中辛、大辛、激辛と4段階から選べる。

好みに合わせて味や辛さをカスタマイズできるのは、広い世代に愛されるポイントだ。メニューには書かれていないが、麺のかたさもセレクトできる。

メニュー表
メニュー表

そして、トッピングはすべて50円。

味付玉子、メンマ、ニンニク (生おろし)、バター、コーン、モヤシ、ネギとバリエーションも多く、好みに合わせて楽しめる。

とにかく丁寧な仕事が光る

ラーメンは3〜4杯ずつ作っているが、その仕事が非常に丁寧。

タコ糸を巻いた大きな豚ロースの塊を斜めに切り、かなりのジャンボサイズのチャーシューが登場。

丼にはカエシ(タレ)を入れ、豚骨、鶏ガラなどを煮込んだスープをその上に注ぎ、背脂も入れる。

そして驚いたのは、一度ノーマルのラーメンを仕上げてからプラスのトッピングを足していることだ。「一番ラーメン」はコーンが大盛りになるが、一回通常の量のコーンを入れてから大盛り分を足している。2回に分けて入れるとは本当に丁寧な仕事だ。

盛り付けも非常に丁寧
盛り付けも非常に丁寧

具はチャーシュー3枚、味付玉子、大盛りコーン、モヤシ、メンマ、ネギ。麺は中細ストレートの豊華食品製。

ラーメンの見た目は、当時に発売されていたラーメンガイドに載っている写真とほぼ変わらない。

濃すぎず薄すぎないスープに、オロチョンがいいアクセントになっている。背脂の程よい甘味が印象的。麺はスープを吸いやすいように作っているらしく、スープの持ち上げが凄い。

ジャンボチャーシューはスープに沈めながら食べる。噛みごたえがしっかりしていて、しっとりとした仕上がり。ラーメン自体は懐かしい雰囲気なのだが、仕事が随所で光っていて素晴らしい一杯になっている。

大学に通う若い世代にお腹いっぱい満足してもらいたい

「一番」のある小竹町は武蔵大学、武蔵野音楽大学、日大芸術学部と周りに大学が多く、学生の多い街である。食べ盛りの若い人たちにお腹いっぱい満足してもらいたいという先代の気持ちから生まれたラーメンで、チャーシューのサイズ、50円のトッピングなどそこここにサービス精神が溢れている。

しかもそれを一杯一杯とても丁寧に作っていて、今食べてもしっかり美味しい一杯に仕上げているのだ。

学生時代から30年以上通う青木健氏は、「一番」の魅力をこう分析する。

「私が見ていないだけかもしれませんが、『一番』は気軽に入れる雰囲気なのに、食べながらスマホをいじっているお客さんがいないんですよね。夢中で食べさせる力があるんだろうなと思います。

こういうタイプのラーメンで今も美味しいということは、常に味のブラッシュアップをしているのだと思います。丁寧さに磨きがかかっているのではないでしょうか」(青木氏)

店の前には常に行列
店の前には常に行列

ラーメンの見た目は当時と変わらなくても、丼からは見えない部分が変わっているのだと思う。カウンターでラーメンを作る姿を見れば、「一番」が愛される理由が見えてくるはずだ。

当時から長い年月が経っていても、常に進化し続け、時代に合わせて味を向上させてきた「一番」。これからも長く愛されていくはずだ。

ラーメン一番

〒176-0004 東京都練馬区小竹町2-74-8

03-3974-6065

営業時間:18:30〜3:00

休業日:日曜、祝日、年末年始

※写真はすべて筆者による撮影

ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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