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「1つ買うと2つ無料」ごみ捨て場に廃棄されるピザ 疲弊する従業員 どこが持続可能なのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
ドミノ・ピザ(写真:ロイター/アフロ)

週刊文春オンラインが、ドミノ・ピザの「デリバリーでLサイズ1枚を買うとMサイズ2枚が無料でついてくる」キャンペーンで現場が大混乱に陥っていると報じた(1)。このニュースがYahoo!トピックスでも報じられている(2)。筆者もオーサーコメントを書いた(3)。

この類のキャンペーンのピザが捨ててあり、ごみ収集員の方が売り方に疑問を持ったと話していました。

英国では脂質や砂糖の多い食品の「1つ買うと1つ無料」(BOGOF:Buy One Get One Free)は肥満を助長するため2022年4月から政府が禁止しています。

BOGOFは健康を害するだけでなく無駄を生みます。英小売テスコ(TESCO)は調査でパックサラダが最も捨てられている現状を知りバンドルパック(まとめ売り)を止めました。売上だけ考えれば多く売れた方がよくても客が廃棄するならそれはエシカルな(倫理的な)売り方でないということです。

日本の小麦の自給率は15%で米国・カナダ・オーストラリアから輸入しています。膨大なコストとエネルギーをかけ輸入した小麦で過剰に製造し、結局捨てている。従業員は疲弊しているのにあちこちでSDGsを連呼する。どこが持続可能なのでしょう。矛盾しています。(筆者オーサーコメント)

この類のキャンペーンのピザがごみとして捨てられていた

ごみ清掃員の方によれば、この類のキャンペーンのピザがごみとして捨てられている現場を見て、このような売り方に疑問を抱いたとのこと。

お笑い芸人でごみ清掃員の、マシンガンズ滝沢秀一さんは、ごみ捨て現場にさまざまな食べ物が捨てられている現場を、かつて取材で語ってくれた(4)。クリスマスの時期にはホール(丸型)のクリスマスケーキ、おせち料理、メロン丸ごと3個、米びつの中に米が入った状態で捨てられているなど、現場は壮絶だ。ピザがごみ捨て場に捨てられていた話も滝沢さんに教えていただいた。

英国では脂質・砂糖の多い食品の「1つ買うと1つ無料」禁止

このような「1つ買うと1つ無料」キャンペーンは、BOGOF(Buy One Get One Free)と呼ばれる。英国では成人の肥満が多く、脂質や糖分の多い食品に関するこの種のキャンペーンを2022年4月から政府が禁止した(5)。肥満を助長するからだ。

グローバル企業であれば、このような動きは当然把握しているだろうが、日本ではグローバル企業が同様のキャンペーンを大々的に広めている。そこで筆者がニュースレター(5)にこのことを書いた次第だった。前述の滝沢さんは、その記事を読んで「ピザの件でこのようなサービスに疑問を持っていたので共感した」と話してくれた。この企業は、6月7日には「#1本買うと2本目無料」というタグをつけてツイートしていた。夏場が売上の正念場で「かきいれどき」だからだろう。

英国での動きについてはGetNaviWebの記事に詳しく書かれている(6)。

BOGOFは健康被害と無駄を生む 英テスコは2014年に禁止

英国政府はBOGOFが「さらなる肥満を助長する」として、脂質や糖分の多い製品に関するキャンペーンを禁止した。だがBOGOFは健康を害するリスクがあるだけではない。必要以上に食品を入手することで廃棄されるなど、無駄を生みやすい。

英国の大手小売テスコ(TESCO)は、かつて食品ロスの調査を実施したところ、パック入りサラダが最も捨てられていることがわかった。そこで、いわゆるバンドルパックのような、複数個を一度に買わせる「まとめ売り」をやめた。このことは2013年の日経MJ(日経流通新聞)で紹介されていた。

売上だけ考えれば、まとめて買ってもらった方がよいだろう。だが、多く買いすぎて客が捨てているのであれば、それは「エシカルな(倫理的な)」売り方ではない。だからテスコは止めたのだ。

テスコは2014年に「1個買ったら1個無料」キャンペーンも中止している(7)。

日本は最大手コンビニが「1つ買うと1つもらえる」キャンペーンを展開

ひるがえって、日本を見てみると、最大手コンビニが「1つ買うと1つもらえる」プライチキャンペーンを実施している真っ最中で(8)、飲料や菓子などが対象になっている。倫理的な販売をしている英国とは20年以上差が開いている印象だ。

セブン-イレブン・ジャパン公式サイト(筆者がスクリーンショット)
セブン-イレブン・ジャパン公式サイト(筆者がスクリーンショット)

英国では1989年(平成元年)に「エシカル・コンシューマー」というメディア(9)が創刊しており、山本謙治氏の新著『エシカルフード』(角川新書)(10)に取り上げられている。

現地でこのメディアの創始者であるロブ・ハリスン氏を取材した山本氏によれば、英国では、「こういう問題がある」と大きな声で叫ぶ人がいるそうだ。そのような人たちを「キャンペイナー(活動家)」と呼ぶ。英国でも、国民全員がエシカル(倫理的なこと)に関心が高いわけではないが、声をあげることで社会が変わっていくという動きがあるそうなのだ。

「キャンペイナーが問題を発見して声をあげ、メディアが採り上げる。そうすると企業はブランドイメージが壊れてしまう。だからイギリスの企業はエシカルな問題にきちんと取り組まざるを得ないんだよ」(『エシカルフード』山本謙治著、角川新書)

つまり、日本では、キャンペイナーがいない、声をあげる人がいないから、このような体たらく・・・「1つ買えば1つ無料」の類のキャンペーンがグローバル企業や最大手コンビニ、ファストフードで蔓延している状況になっているともいえる。

小麦自給率15%で膨大なコストかけて輸入して廃棄し、従業員が疲弊する愚かさ

日本の小麦の自給率は15%だ(11)。米国・カナダ・オーストラリアから輸入してまかなっている。莫大なコストとエネルギーをかけて運んできた小麦。それを使って、食べきれもしないピザを過剰生産し、結局はごみ捨て場に捨てている。

その「捨てるピザ」を作るために疲弊し、「死んじゃいそう」と言っているデリバリーピザの従業員。こんなことをして誰が幸せになるのだろう。何が持続可能なのだろう。これで「SDGs」(持続可能な開発目標)をアピールしていたら鼻で笑われる。ピザだけじゃない、すべての食品にいえることだ。日本は自国民が食べる食料を自給できていないのだから。

おかしいと思うことには「おかしい」と声をあげないと、毎日の食料すら手に入らない世の中になってしまうだろう。金さえあればいつでも食料が手に入るわけではない。他国にいい条件を出されて日本が買い負ける可能性もあり得る。食料こそ命の綱であるはずなのだ。

追記(2022/6/29 12:55更新)

当初「このキャンペーン」としていましたが、他社も「1枚買うと1枚無料」といった同様のキャンペーンを同時期におこなっていることが判明したため、本記事および冒頭のコメントについては「この類のキャンペーン」に修正いたしました。

参考情報

1)「ドミノそろそろ誰か死んじゃいそう」ドミノ・ピザ“激安キャンペーン”注文殺到で従業員たちが悲鳴 本社は〈反省〉と回答(週刊文春編集部、2022/6/28)

2)「ドミノそろそろ誰か死んじゃいそう」ドミノ・ピザ“激安キャンペーン”注文殺到で従業員たちが悲鳴 本社は〈反省〉と回答(週刊文春編集部→Yahoo!JAPANに転載、2022/6/28)

3)筆者オーサーコメント(Yahoo!JAPAN、2022/6/28)

4)家庭ゴミからおせち、メロン丸ごと3個・・・ゴミ清掃員マシンガンズ滝沢さんが明かす家庭ゴミの中身(上)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/1/7)

5)海外で禁止された施策を日本で奨励する「コカ・コーラの二枚舌」パル通信(50)(井出留美、ニュースレター「パル通信」2022/6/18)

6)タダだからこそ危険!「1つ買うと、もう1つは無料」が英国で禁止に(佐藤まきこ、2022/3/22、GetNaviWeb

7)小売企業が学ぶべき英テスコのロイヤルティ戦略と企業姿勢、食品ロス対策とは?SDGsレポート(75)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/2/1)

8)売れるなら何でもあり?セブンのマーケティング施策 パル通信(52)(井出留美、ニュースレター「パル通信」2022/6/27)

9)Ethical Consumer Official Website

10)『エシカルフード』山本謙治、角川新書

11)小麦の自給率(農林水産省、2020年度)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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