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食品ロス国際会議2022、キーワードは「食料危機」と「賞味期限」

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
食品ロス解決サミット2022(Photo:ReFED)

2022年5月10〜12日、米国ミネソタ州ミネアポリスで「食品ロス解決サミット2022」(2022 Food Waste Solutions Summit)が開催された。その中でも注目ポイントはどの点だっただろうか。

「食品ロス解決サミット2022」は、2022年5月10日から12日にかけての3日間、米国・ミネソタ州のミネアポリスで開催された。食品企業、資金提供者、プロバイダー、イノベーター、政策立案者、非営利団体などが集まり、2030年までに食品ロスを50%削減するという共通の目標(SDGs12.3)に向けて、その解決策の導入を推進する、食品ロスに関する、年間で最大級のイベントだ。

このイベントは米国の非営利組織ReFED(リフェッド)が主催しており、公式サイトにスケジュールと登壇者のリストが掲載されている。ReFEDは、データ主導のソリューションを推進することで、米国の食料システム全体で発生する食品ロスや廃棄をなくすことを目的とした、全米規模の非営利団体だ。

このサミットの中で、開催2日目、5月11日のセッションで、英国の非営利組織WRAP(ラップ)の国際ディレクター、リチャード・スワンネル(Richard Swannell)博士が登壇した。筆者は2017年2月、英仏の視察で、リチャード氏にお会いした。食品ロスを研究する大学の先生方の視察に参加させていただき、その後も、リチャード氏とは何度かメールでやり取りした。

右端がWRAPのRichard Swannell博士、中央は通訳、左端は小林富雄先生(関係者撮影)
右端がWRAPのRichard Swannell博士、中央は通訳、左端は小林富雄先生(関係者撮影)

リチャード氏は、WRAPの調査により、賞味期限の表示があることで消費者が必要以上に食べ物を捨ててしまうことがわかった、と話した。英国では、食品が悪くなっているかどうかを判断するために、においを嗅いだり、見たり、味わったりすることを消費者に奨励する “Look, Smell, Taste, Don’t Waste”(見て、嗅いで、味わって、無駄にしない)食品ロス削減キャンペーンを、昨年2021年1月19日から、英国食品基準庁(FSA)が始めている。

このキャンペーンは、英国政府の支援を受け、食品ロス削減アプリ「Too Good To Go」(英国版)(トゥー・グッド・トゥ・ゴー:捨てるには良すぎるの意)が主催しており、大手食品企業のネスレやダノンなど、30以上の食品ブランドが参加した。キャンペーンの目的は、リチャードさんが話した通り、「おいしさのめやす」に過ぎない賞味期限表示が、食品の安全性を示す「消費期限」と混同されるのを防ぎ、捨てなくていい食品が捨てられている状況を改善すること。消費者が、賞味期限を鵜呑みにして捨てない状況を作る、ということだ。

英国では、購入された食品の約42%が捨てられている。金額に換算すると推定£2,675(約44万6,907円、2022年6月8日現在のレート)になる。

賞味期限表示が食品ロスを増加させてしまう傾向は、日本でも同様だ。

2021年、東京市町村自治調査会からの依頼で、「多摩・島しょ地域における食品ロスの削減に関する調査研究」に関する有識者ヒアリングを受けた。この調査結果は、2022年3月、報告書として発表されている。

この報告書のp54に、「まだ食べることができる食品を捨てた理由」がある。賞味期限が年単位で長い、缶詰やレトルト食品、乾麺などで「賞味期限が切れて捨てた」と答えている人が51.4%と過半数を示している。

まだ食べられる食品を捨てる理由 東京市町村自治調査会「多摩・島しょ地域における食品ロスの削減に関する調査研究」より
まだ食べられる食品を捨てる理由 東京市町村自治調査会「多摩・島しょ地域における食品ロスの削減に関する調査研究」より

缶詰は3年間の賞味期限があるし、乾麺もパスタなども年単位の賞味期間がある。レトルト食品も一年以上保管できる。1年から3年以上の賞味期限がある食品は、多少過ぎたからといって、きちんと保管してあれば、すぐに食べられなくなるわけではない。英WRAPのリチャード氏が指摘している通り、「賞味期限」が「おいしさのめやす」に過ぎないことを理解し、賞味期限が多少過ぎた食品を使い切ることを日々の生活で実践していくことが非常に重要だ。

食品ロス削減の重要性は、なぜ今、注目されているのだろうか。

食品ロス解決サミット2022(Photo:ReFED)
食品ロス解決サミット2022(Photo:ReFED)

食料価格が6%上昇、食料危機で食品ロス削減の重要性

コロナ禍に加えて、ロシア・ウクライナ情勢により、世界的な食料危機の可能性が高まっているからだ。英WRAPのリチャードさんは、このように話している。

“Food waste reduction is more salient now than it has ever been”  “Between February and March of this year, food prices went up by 6% in one month; we’re faced with a cost-of-living crisis around the world. … With the food crisis we’ve got, we need to reduce food loss.” (「食品廃棄物の削減は、かつてないほど重要な課題となっています。2022年2月から3月にかけて、食料価格は1カ月で6%上昇し、私たちは世界中で生活費の危機に直面しています。...このような食料危機の中、我々は食料ロスを減らす必要があります」)

コロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が重なり、食料価格が急増、食料が不足し、世界的な食料危機が叫ばれている。だからこそ、まだ食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らすことが喫緊の課題である、ということだ。

英WRAPは、食品ロス削減に1ドル投資することで、さまざまな面で14ドルのリターン(利益)が見込まれると発表している。

2022年5月14日、インドが小麦の輸出を禁止すると発表した。影響は限定的だが、将来的に他国が同様の措置に踏み切らないともいえない。もしそうなれば、食料自給率37%の日本はどうするのだろうか。食料輸入がストップすれば、大豆や小麦、トウモロコシの輸入ができなくなり、それらに依存している現在の食生活はできなくなる。

すべてを使い切り、循環型にフォーカス

今回の食品ロス解決サミット2022に登壇したパネリストたちは、「2030年までに食品の廃棄を半減させるために、食品メーカーなどの企業は、製品をすべて使い切ることに焦点を当て始める必要がある」と指摘した。食材や製品のすべてを使い切るということだ。

先日、デンマークの八代目の魚屋、Tommyさんに取材したが、同じことを話していた。「すべてを使い切る」ということだ。

メディアでも、食料の値段が上がって手に入らなくなると言われています。ガソリンの値段が上がると、小麦やバターの値段が上がる、生活必需品の不足や価格上昇が見られます。消費者は、高過ぎて手に入れられないので、「食品ロスをなくして全部使う」ことが解決法の1つとして大きく取り上げられています。今は時世も食品ロス問題に注目してきています。時のタイミングが、食品ロス削減を後押ししています。食料を全部使わないと消費者にとって高過ぎて手に入らない、食せないことになってしまうからです。(Tommyさんの言葉)

コロナ禍で注目を浴びた大学の一つが「ジョンズ・ホプキンス大学」(Johns Hopkins University)だ。コロナ禍になり、この大学内にあるコロナウイルス資料センターが「COVID-19 Dashboard」で世界の死者数などのデータを日々更新しており、報道機関はこのデータを報じていた。そのジョンズ・ホプキンス大学のデイブ・ラブ(Dave Love)博士は、

Dr. Dave Love of noted that seafood companies can use grade-C salmon for salmon burgers. 水産会社は、サーモンバーガーに、グレードCのサーモンを使うことができる

と指摘した。グレードの落ちるもの、規格外のものでも、ハンバーガーに入れる分には問題ない。味も遜色ないことがほとんどである。

WWF(World Wildlife Fund、世界自然保護基金)の代表者は、

the World Wildlife Fund’s representatives suggested that farmers should increase efforts to sell still-edible produce, like slightly misshapen heads of cabbage. キャベツの頭の形が少し崩れたものなど、農家は、まだ食べられるものを売る努力をするよう

提案した。

日本だと、大手流通は規格外を受け入れないので、道の駅や農産物の直売所、あるいはポケットマルシェや食べチョクなどのルートを使って規格外を販売する必要がある。

米国環境保護庁の幹部、キャロリン・ホスキンソン(Carolyn Hoskinson)氏は、「米国社会と食品産業は循環型の考え方になる必要がある」と語った。

食品ロス解決サミット2022(Photo:ReFED)
食品ロス解決サミット2022(Photo:ReFED)

世界の食料システムは温室効果ガス排出量の3分の1

WWF(世界自然保護基金)の食品廃棄物担当シニアディレクターのピート・ピアソン(Pete Pearson)氏は、

“How do we not only address [the food waste] issue, but how do we accelerate it? Because, if we don’t accelerate the progress we’re making, then things look pretty dire.” この食品ロスの問題に取り組むだけでなく、どうすればそれを加速できるのか。というのも、もし私たちが行っている活動を加速させられなければ、事態はかなり悲惨になるからです。

と、サミットの聴衆に問いかけた。

食べられることなく捨てられる食品に、毎年、4,080億ドルが費やされている。すべての食品のうちの35%は、毎年、食べられることなく捨てられているのです。

米国にLeanpath(リーンパス)という会社がある。ホテルやレストランの厨房で出る食品ロスを計測し、写真撮影し、余った理由を入力すると自動的にグラフ化してくれる機械を提供し、食品ロス削減に役立っている。大手ホテルのリッツ・カールトンでは、この機械を導入し、食品ロスを54%削減したホテルもある。

リーンパス社のサステナビリティ・広報担当 副社長のスティーヴン・フィン(Steven Finn)氏は、食品事業者に向けて次のように語った。

“The food system accounts for a third of global greenhouse gas emissions; food waste alone accounts for about 10 percent” “So, there are all kinds of powerful stats to bring into play and get consumers awakened and energized about the need to do something about food waste.” (「食料システムは、世界の温室効果ガス排出量の3分の1を占めており、食料廃棄だけで約10%を占めています。食品廃棄について何かする必要性において、消費者を目覚めさせ、活気づけるためのあらゆる種類の強力な統計があるのです」)

ReFED(リフェッド)の役員であるヴァネッサ・ムケビ(Vanessa Mukhebi)氏は「まさに、いまが行動を起こす時です」と語った。

英WRAPのリチャード氏が述べたように、食料危機のリスクが問われる今こそ食品ロスを減らすべきで、あらゆる食材を使い尽くすことが必要、というのが、今回のサミットで最も重要なメッセージのひとつではないだろうか。

*この記事は、2022年5月17日に発行したニュースレター「パル通信」(45)を編集したものです。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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