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日本だけが世界と逆の動き、なぜ?気候危機への意識、1万8千人対象調査

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
COP26 イギリスで開催 会期延長の末「グラスゴー気候合意」を採択(写真:ロイター/アフロ)

世界の食品ロスは世界第三位の温室効果ガス排出 "国”

先日、取材で「日本は世界第何位の温室効果ガス排出国ですか」と質問を受けた。国全体のデータでみると、日本は世界で第5位の温室効果ガス排出国だ。

1位 中国

2位 米国

3位 インド

4位 ロシア

5位 日本

下のグラフは世界資源研究所(World Research Institute: WRI)のデータ(1)。真ん中の黄色い部分が、世界中の食品ロスによる温室効果ガス排出量を示している。もし仮に、世界じゅうの食品ロス(Food Loss and Waste)がひとつの国だと仮定すると、世界第3位の温室効果ガス排出国、ということになる。それだけ、食品ロスは、気候変動に対して影響が大きいということだ。

出典:World Resources Institute
出典:World Resources Institute

なぜ「フードロス」でなく「食品ロス」と呼ぶ必要があるのか?

最近、食品ロスのことを指して「フードロス」という言い回しを耳にする。ただ、これだと誤解が生じる可能性がある。食品ロスの定義は国によって異なるが、国連FAOの定義によれば、フードサプライチェーンの前半で発生するのが「Food Loss(フードロス)」後半で発生するのが「Food Waste(フードウェイスト)」だからだ(2)。「フードロス」だと前半で発生するものしか指さないことになり、後半の、小売や外食、家庭で発生するものは含まないことになる。

FAOの定義によれば、これら2つを合わせて「Food Loss and Waste(FLW)」と呼ぶ。日本語では、フードサプライチェーン全体で発生する無駄のうち、可食部を指して「食品ロス」と呼んでいる。

国連FAOの定義に基づきoffice 3.11制作
国連FAOの定義に基づきoffice 3.11制作

17の国と地域、18,000人対象、気候危機や地球温暖化に関する意識調査の結果は?

2021年9月14日、米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが、気候危機や地球温暖化対策について意識調査を行い、その結果を発表した(3)。対象となったのは、米国やカナダ、欧州、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、シンガポール、台湾など、先進諸国17の国と地域で、18,000人以上。調査は2021年2月から5月にかけて実施された。

この結果が発表された2021年9月当時も国連関係の方から調査結果が発信されていたが、一般の方まで広く情報が届いていないかもしれず、改めてお伝えしたい。

ショッキングなのは、気候危機に関する個人的な影響について、他のほとんどの国では「非常に懸念している」という回答が2015年より大幅に増えている一方、日本は逆に減っているという結果だ。

ピュー・リサーチ・センターのレポートを見ると、下のグラフ、右下にあるのが日本。2015年と比べて、日本では減っている。気候危機に対する問題意識を示しているが、日本は世界的に見てもその危機感が薄い、という結果だ。

出典:Pew Research Center Official Web Site, September 14th, 2021
出典:Pew Research Center Official Web Site, September 14th, 2021

日本だけが大きく減少、なぜ?

気候危機を懸念している人が最も増えているのはドイツで、2015年に比べて19ポイント増加している。英国では18ポイント増、オーストラリアが16ポイント増、韓国は13ポイント増、スペインは10ポイント増、カナダ7ポイント増、フランス6ポイント増、イタリア5ポイント増。

一方、米国では3ポイント減で、日本は米国より減り幅が大きく、8ポイント減。

専門家は、日本でここ数年、毎年のように大雨や洪水、猛暑による死者が増えていることや、2021年に桜の開花が最も早まったことを指し、地球温暖化が原因としている。

Pew Research Center official website, September 14th, 2021
Pew Research Center official website, September 14th, 2021

日本は「気候危機対策のために自分の生活を変えてもいい」人が対象国の中で最下位

気候危機の現状に対して、自分のライフスタイルを変えてもいい、と答えている人が、他国では増えている。一方、日本は、今回の調査対象国の中で「変えてよい」という人が最も少なく、最下位だ。下記グラフの一番下が日本。青に傾いているほど「変えない」という意見が多いということを示している。

Pew Research Center official website, September 14th, 2021
Pew Research Center official website, September 14th, 2021

気候危機対策が自国の経済利益につながると考える人、日本は最下位から2番目

気候危機への対策が、自国の経済利益につながると考える人は、スウェーデンが最も多いという結果になった。スウェーデンは、SDGs世界ランキングで2020年一位を獲得し、過去にも何度も一位になっている国だ。一方、日本は下から2番目だった。

Pew Research Center official website, September 14th, 2021
Pew Research Center official website, September 14th, 2021

化石燃料に依存する米国の対策について世界は批判的

米国の気候危機対策について、どの国も評価しない傾向が見られた。米国が「非常によくやっている」と答えたのは、中間値でわずか3%という結果だった。「非常によくやっている」の回答が最も多いのは米国自身(8%)。

Pew Research Center official website, September 14th, 2021
Pew Research Center official website, September 14th, 2021

中国の気候危機対策「非常に悪い」

米国同様、中国の気候危機対策についても「非常に悪い」と答えた人が78%という結果になった。シンガポールだけは他国に比べて「ある程度よくやっている」と答えた人が多くなっている。

Pew Research Center, September 14th, 2021
Pew Research Center, September 14th, 2021

以上、ピュー・リサーチ・センターの結果から、主なものをまとめてみた。

食品ロス削減は100位中3位の「地球温暖化を逆転させる方法」

食品ロスが、気候変動に影響していることは、まだ多くの人に認識されていない。

「プロジェクト・ドローダウン(PROJECT DRAWDOWN)」は、世界の70人の科学者と120人の外部専門家による検証に基づき、地球温暖化を「逆転」させる100通りの解決策を提示している。解決策は電気自動車、スマートグリッド、環境再生型農業、植林、太陽光発電など100種類用意されており、それぞれが二酸化炭素の削減量、費用対効果、実現可能性でランクづけされている。食品ロスの削減は、その中で3位になっている(5)。

気候変動に影響するのは食品ロスだけではない。世界の食料システムが影響する温室効果ガス排出は、21%から37%、場合によってはそれを上回ると試算されている。気候変動により自然災害が起これば、食料生産に大きなダメージを与えるのはいうまでもない。

今でこそ多くのビジネスパーソンがSDGsのバッジを胸につけているが、2015年9月に国連でSDGsが採択された当初は全く認識されていなかった。それから3年近く経った2018年も、まだ広がってはいなかった。2018年に開催されたセミナーで、SDGsへの取り組みが日本で遅れている要因として、「日本は社会問題、自分の国の外で起きていることに対する感度が低い」と、国立環境研究所の循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏が指摘している(6)。

だが、気候変動による自然災害や異常気象は、すでに毎年のように日本で起きている。気候変動を止めるのは喫緊の課題なのだ。

*この記事は、ニュースレター「パル通信」6号を編集したものです。

参考情報

1)What’s Food Loss and Waste Got to Do with Climate Change? A Lot, Actually.(World Research Institute, 2015/12/11)

2)SAVE FOOD: Global Initiative on Food Loss and Waste Reduction, Definitional framework of food loss, Working paper(FAO, 2014/2/27)

3)In Response to Climate Change, Citizens in Advanced Economies Are Willing To Alter How They Live and Work(Pew Research Center, 2021/9/14)

4)食品ロスは温暖化の主犯格? 知られざる気候変動との関係(井出留美、朝日新聞SDGsACTION!2021/9/21)

5)ポール・ホーケン他、『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』山と渓谷社

6)6月5日は世界環境デー 廃棄物資源循環学会セミナーレポート SDGsで世の中はどのように変わるのか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/6/5)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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