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日本と世界でこんなに違う!「捨てられる食品」トップ10

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

英国の家庭で最も捨てられる食品と、日本で捨てられる食品は違うのだろうか?比較してみた。

英国の家庭で最も捨てられる食品トップ10 日本は?

英国政府が2000年に設立した組織、WRAP(ラップ)は、英国の家庭で最も捨てられる食品・飲料トップ10として、以下を挙げている。コロナ禍の2020年には、これら「最も捨てられる食品」のうち、ジャガイモ、パン、鶏肉、牛乳などの家庭での食品ロスが34%も減った(1)。

ジャガイモ(生)

食パン

牛乳

食事(自家製・調理済みのもの)

炭酸飲料

フルーツジュース・スムージー

豚肉・ハム・ベーコン

鶏肉・七面鳥・鴨肉

ニンジン(生)

ジャガイモ(加工品)

このような調査は各国で実施されている。イタリアでは「最も捨てられる食品トップ5」が次のように発表された(2)。

1位 果物(37%)

2位 野菜(28.1%)

3位 玉ねぎ・ニンニク・塊茎(5%)

4位 サラダ(21%)

5位 焼きたてのパン(21%)

日本でも、ハウス食品グループ本社が食品ロス削減プロジェクトの一環として定期的にアンケート調査を実施し、トップは毎回「きゅうり」か「みかん」が挙がっている(3)。日本の家庭の場合、圧倒的に野菜が捨てられることが多く、農林水産省調査をはじめとしたどの調査でも共通している。2021年9月のハウス食品グループ本社の調査では、次の食品が捨てられるトップ10だった(4)。

1位 きゅうり(10.7%)

2位 キャベツ(6.7%)

3位 パン・食パン(6.0%)

4位 レタス(4.9%)

5位 もやし(4.5%)

6位 豆腐(4.5%)

7位 玉ねぎ(4.0%)

8位 トマト(4.0%)

9位 納豆(3.8%)

10位 牛乳(3.0%)

英国は「ジャガイモ、パン、鶏肉、牛乳」が捨てられる筆頭。イタリアと日本は野菜とパンが捨てられやすく、日本は、そこにさらに大豆製品(豆腐や納豆)が加わってくる。つまり、日本の場合、家庭の食品ロスを減らそうと思ったら、まず「野菜」の買い方や使い切り方、保存方法にターゲットを絞るのが効率的だ。筆者が取材を受ける時も、野菜のロスをいかに減らすか、具体的な対策をメディアの方に説明するようにしている。

家の冷蔵庫に、今、どんな食品がどれくらいの量入っているか、すぐに答えられるだろうか。食品企業であれば、在庫管理や「先入れ先出し」(先に作ったものを先に店頭に出し、売る)は当然のこと。家でも、企業と同じように、在庫管理をし、複数在庫がある食品を「先入れ先出し」できるよう、賞味期限の近づいているものから手前に置く。家庭の食品ロスは、ちょっとした工夫で減らすことができる。そうすれば、単に無駄が減るだけでなく、気持ちがすがすがしくなる。

コロナ禍で、どの国でどんな食品が真っ先に売り切れたか?という調査結果もある(5)。

WRAPは、2022年1月24日のツイートで、次のように投稿している。

家庭の食品廃棄に関するアドバイザー、ヘレン・ホワイトへのインタビューを通して、家庭での食品廃棄が、いかに私たちの家計と環境に影響を与えるか、英ガーディアンのZoe Woodsが強調して述べています。

このツイートに書かれているガーディアンの記事(6)から、注目ポイントである「英国家庭が一世帯いくら分の食品を捨てているか」をピックアップしてみよう。

英国では毎年一世帯11万円の食品を捨てている 日本は?

WRAPの家庭用食品廃棄物の特別アドバイザー、ヘレン・ホワイト(Helen White)は、食品の廃棄を防ぐことで、子どものいる家庭は平均して年間730ポンド節約できる、と述べている。730ポンドは、日本円にして11万円以上に相当する(2022年2月15日のレートによる)。

WRAPの試算によれば、英国の、子どものいる平均的な家庭は、年間244kg、すなわち580食分に相当する食品を捨てているという。個人に換算すると69kgになる。

英国全体では年間660万トンの食品を捨てており、そのうちの450万トン(140億ポンド相当)は、まだ食べられるものだ。

ちなみに日本ではどうかというと、年間570万トンの食品が捨てられている(7)(2021年11月30日、環境省・農林水産省が発表した推計値)。一世帯一年間では6万円分の食品を捨てている(処理費用含む)。これは、日本の政令指定都市で最も家庭ごみが少ない京都市の試算(8)なので、他の自治体では、一世帯年間で10万円を超えている可能性もあるだろう。

英国成人のうち45%が賞味期限を誤解 日本は?

賞味期限の迫った食品などをお手頃価格で販売するアプリ「Too Good To Go」(9)の共同設立者、Jamie Crummie氏は、賞味期限の誤解が100%、食品廃棄に結びついてしまっていると語っている。

最近の調査によれば、英国の成人のうち、45%が賞味期限の意味について誤解していることがわかった。おいしさのめやすである「賞味期限」を表示すればいいのに、食品企業が、品質が切れる期限を示す「消費期限」を表示してしまうことも、廃棄を助長していると、Jamie氏は語っている。

賞味期限と消費期限の混乱は、英国だけの話ではない。日本でも、これを混同している人が多くいる。あるテレビ番組で、街中で50名に「賞味期限が過ぎた食品を買うか」と聞いたところ、過半数の26名が「買わない」と答えた。理由を答えた中に「お腹をこわすから」というものがあった。消費期限と混同していることを表している。日本のアンケート調査では、「賞味期限と消費期限の違いを理解しているか」という問いに対し、「Yes」と答える人の割合は多いが、実生活でそれが実践されているかというと「No」なので、アンケートの答えは目安にしか過ぎないと感じる。

気をつけるべきは、5日以内の日持ちのものに表示される「消費期限」だ。下のグラフは、たて軸に品質、横軸に保存日数を示している。

ピンクの点線で示されたのが消費期限。ピンクの実線で示された食品は、保存日数の経過とともに、急激に品質が劣化していく。このような食品には「消費期限」が表示される。

それに対し、緑の点線で示された「賞味期限」は「おいしさのめやす」。緑の実線で示した食品の品質は、保存日数とともに、ゆるやかに下がってはいくが、賞味期限を過ぎたからといって、安全に食べられる期限は過ぎてはいない。

賞味期限と消費期限のイメージ。消費者庁の情報を基にoffice 3.11制作
賞味期限と消費期限のイメージ。消費者庁の情報を基にoffice 3.11制作

英チェスター大学による牛乳の賞味期限の調査とは?

チェスター大学(University of Chester)の調査によると、英大手小売のテスコ、セインズベリー、アズダ、モリソンズで販売されている牛乳は、未開封のまま、4度に保った冷蔵庫に保管してあれば、使用期限(use-by date)を過ぎても安全に飲めることが判明した。モリソンズは、牛乳パックに表示している使用期限をやめて、2022年1月末から、牛乳および乳製品には、おいしさのめやすである賞味期限を表示し、嗅覚テストをするよう、呼びかけている(10)。

このように、賞味期限表示=おいしさのめやすとして、できる限り、表示による食品廃棄を減らす動きは、欧州で、ここ数年、活発化している。

デンマークでは、2019年に「Too Good To Go」(9)が、食品ロス削減の活動家、セリーナ・ユール(11)とともに、賞味期限の書き方キャンペーンをおこなった。食糧庁のお墨付きのもと、賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」という趣旨を書いた。

また、デンマークにあるオーガニック牛乳の会社は、牛乳パックの4面のうち、1面を使って、賞味期限の意味と、五感を使って飲食可能かを判断する重要性を説明した。デンマークでは、これら複数の取り組みにより、5年間で食品ロスが25%削減できた。

牛乳パックの一面を使い、賞味期限の意味と、五感で判断することの大切さを説いている(Too Good To Go提供)
牛乳パックの一面を使い、賞味期限の意味と、五感で判断することの大切さを説いている(Too Good To Go提供)

一方、いきすぎた賞味期限表示の緩和に対しては、欧州内でも「NO」をあげる声もある。

日本在住でイタリア人の、RITA VIGNALIさんから教えてもらった記事(12)のタイトルには「EU:食品から賞味期限表示をなくすための国民投票」とある。

欧州委員会が推進している「食品に関する情報提供に関するパブリックコンサルテーション」に際し、イタリアの農業起業家からなる組織、Coldiretti(コルディレッティ)は、

“Sì al taglio dello spreco, no a quello della qualità del cibo”(食品の廃棄を削減することには賛成だが、品質を下げることには反対だ)

と述べ、「北欧諸国が、食品廃棄の削減を口実に、ヨーロッパの食品を、低い品質水準に下げて平準化しようとする常套手段である」とまで述べている。

食においては、食品安全と資源活用という2つの要素が、天秤のようにバランスよく成り立っているのが理想だと思う。

*本記事は、ニュースレター「パル通信」32号を編集したものです。

参考情報

1) 「パン・牛乳・鶏肉などのロス34%減」英国、外出自粛中に家庭の食品ロス減:SDGs世界レポ(21)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/5/23)

2)家で捨てる食品、5位パン、4位サラダ、3位玉ねぎ、2位野菜、1位は?イタリア・コロナで食品ロス減(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/5/4)

3)家で捨てる食材6,990名調査 納豆、豆腐、もやし、パン、キャベツ、レタス…1位は?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/9/24)

4)食品ロスに関するアンケート調査結果(第四回)(ハウス食品グループ本社)

5)世界一 パニック買いをした国 コロナの時代の食品ロス(オーストラリア編)SDGs世界レポ(45)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/10/16)

6)Food waste: are you throwing your money in the bin?(The Guardians, 2022/1/22)

7)最新の食品ロス量、過去最少 食品ロス削減推進法が一因か?日本政府に望むこと(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/12/1)

8)京都市の生ごみデータ(京都市)

9)企業の賞味期限表示を改善した!食品シェアアプリの元祖 ヒュッゲの国デンマークのTooGoodToGo(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/10/2)

10)'Sniffing your milk instead of using best-before dates can cut 80m pints of food waste'(Mirror, 2022/1/16)

11)たった5年で食品ロス25%も削減 デンマーク王室をも動かしたある女性の怒りとパワー(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/9/13)

12)Ue: al via referendum per togliere la data di scadenza dei cibi. Coldiretti: “Sì al taglio dello spreco, no a quello della qualità del cibo”(Qdpnews, 2021/12/26)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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