最近の中国はニュースに事欠かない。2021年8月に核搭載可能なスーパーソニック・ミサイルの実験をしたかと思えば、9月にはTPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を申請。10月には、津軽海峡や大隅海峡を中国艦5隻がロシア艦5隻と並んで通過、11月には米国務省に中国は2030年までに1千発の核弾頭を準備しようとしていると暴露された。

中国が隣国であることが怖くなってくるような重いニュースにまじって、ひと昔前の中国を思い出させるような、心温まるニュースもあった。

雲南省、ゾウたちの冒険と帰還

16頭のアジアゾウの群れが、ミャンマーやラオスと国境を接する中国の雲南省西双版納(シーサンパンナ)の自然保護区から、2020年3月に突然北上をはじめた。雲南省を1年半かけて旅してまわり、2021年8月にようやく自然保護区に戻った(1)。

中国・雲南省 大移動中の象の群れが一休み
中国・雲南省 大移動中の象の群れが一休み写真:ロイター/アフロ

このアジアゾウの群れの移動はライブストリーミングされ、母ゾウが赤ちゃんゾウの世話をしたり、仲間が迷子になったときには、引き返して40分以上も待ったり、ドローンの影を追いかけて影踏みをしてみせたりと、群れの行動は、中国国内だけではなく、海外からも注目を集めた。

中国では、アジアゾウは保護動物に指定されている。そのため、地元政府は対策本部を立ち上げ、ドローンを使って群れを追跡し、トウモロコシやバナナなどの餌でたくみに群れを誘導し、人の多い町や村には近づかないようにした。それでも農産物がゾウに荒らされてしまったが、その被害は、地元政府などが加入する野生動物被害の保険でまかなわれたという。

これが日本だったら、おそらく害獣扱いされて駆除されるか、麻酔銃を使って捕獲されてすぐに保護区に戻されるだろうが、様子をそっと見守るという中国の対応は、いかにも大陸的で、人の温もりが伝わってくるような、すばらしいものだった。

中国政府の考える自然保護

ゾウの群れが帰還した2ヶ月後、冒険の舞台となった雲南省の昆明で、中国で初めての、国連環境会議「生物多様性条約締約国会議(COP15)」がオンラインで開催された。

中国の習近平(シー・チンピン)国家首席は、開会式の基調講演で、工業化によって生じた問題を解決しながら地球の限界(プラネタリーバウンダリー)内で生活し、グリーンで低炭素な循環型経済を構築することの重要性を強調した。また、途上国の生物多様性を保護するために15億元(約232億円)を拠出することを表明している(2)。

注)三菱UFJ銀行の2020年の年間平均為替相場(TTM)CNY1=JPY15.48で計算(以下、同様)

気候変動の影響、千年に一度の豪雨

2021年7月、中国河南省で、「千年に一度」という観測史上最高の降水量を記録した豪雨があった。地下鉄が浸水し、逃げ遅れた乗客が12人亡くなっている。中国では、2020年にも、気候変動が原因と思われる豪雨災害がつづき、農作物に甚大な被害が出ている。

2020年の農作物被害については、藤和彦氏(経済産業研究所)の「米作地帯の長江流域で大雨 コメ自給に赤信号か」(3)という記事がわかりやすかったので、引用させていただく。

中国の主要穀物(コメ、小麦、大豆、トウモロコシ)の生産地の重心は北方地域にあるが、コメに限って言えば、生産の中心は南方地域にある。水稲の作付け面積は南方地域が全国の8割、長江流域だけで6割を占める。(中略)中国政府が今年1月に発表した報告書によれば、「昨年南部地域は1998年以来最も深刻な増水に遭遇し、農作物の被災面積は約1996万ヘクタールに達した」。その被害規模は中国の全耕地面積(しょうじょう約1億3486万ヘクタール、2017年時点)の約15%に相当する甚大なものだった。「長江流域がこれだけの自然災害を被ればコメ不足に陥るのは必至である」と判断する者が少なくなかったが、予想に反して中国政府は「全国レベルで引き続きコメの供給は順調だった」と総括している。中国政府が講じたコメ対策は(1)増産(2)食品ロスの削減(3)備蓄米の放出(4)海外からの緊急輸入などである。

中国の穀物自給率、実際は?

中国の食料安全保障白書には、穀物自給率95%を維持、とある。が、日本経済新聞は、愛知大学名誉教授の高橋五郎氏の試算(カロリーベース)から、主要な54品目の食料について、2000年の94%、2005年89%、2010年83%、2018年では約80%と、徐々に低下してきているのではないかと報じている。2020年は天候などの影響でさらに減少し、76%程度になっている可能性もあるという(4)。

注)日本の農林水産省では、各国の食料自給率を定期的に発表しているが、中国は含まれていない。「データが不十分」であるためだという。

豪雨災害後の2020年8月、習近平国家主席が中国の食品ロス問題について、「衝撃的で心が痛む」と言及し、「国民の問題意識を高め、倹約の習慣を養い、浪費は恥ずべきことで、倹約は称賛に値する社会環境を育成する」と異例の声明を出している(5)。

中国の食品ロスに関する動画(出典:New China TVのYouTubeチャンネル)

Campaign against food waste in China | Stories shared by Xi Jinping

どの国でも、国家元首が食品ロス問題について言及することはまれだ。2020年には、豪雨災害のほかにも、コロナ禍やトランプ政権の米国との貿易摩擦もあった。習近平国家主席の言葉を中国の食料安全保障と結びつけて論じる報道が多かったのも無理はない。

2020年の豪雨災害で中国政府のとった4つの対策のうち、「食品ロスの削減」について詳しく見てみよう。

以下、有料記事(6,603文字)