Yahoo!ニュース

五輪ホテル朝食付き 101名中5人しか来ず余儀なく廃棄 / 2019年JOCが送ったメールを入手した

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
ホテル朝食(実際のものではなく、イメージ)(写真:PantherMedia/イメージマート)

2021年8月2日17:03、朝日新聞デジタルは、東京・日本橋のホテル「住庄ほてる」で、組織委員会のスタッフが泊まるために予約されていた合計101名分のうち、5名しか来ず、朝食も廃棄せざるを得なかったと報じた(1)。2021年7月23日から8月1日までの10日間、業務が深夜になり帰宅できなくなるかもしれない大会組織委員会スタッフの宿泊先として確保していたという。人が来るか来ないか確定できないのに、なぜ素泊まりではなく「朝食付きプラン」を予約したのだろう?

大会開会式の本大会会場で4000食の弁当が無駄になった件について、2021年7月31日、国際オリンピック委員会(IOC)と東京五輪組織委員会が都内で報道陣向けに開催している定例会見に、ボランティアの大学4年生が飛び込んだ。質問は報道陣に限られたためできなかったが、会場外でメディアが聞いたところ「弁当を廃棄するくらいなら僕たちに回して欲しい、という思いだった」と語った。配布される弁当は、助六寿司にサラダ、あるいはチョコパン、ソーセージパン、サラダといった内容だそうだ(2)。

2019年から五輪の食品ロス活用目指した大学生がJOCと面会後に受け取ったメール

筆者は2016年に出版した拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』で、真夏に開催され、世界の中でも食品衛生に厳しい日本で開く2020東京大会で食品ロスを防ぐのは難しいのではないか、と指摘した。ただこの時にはボランティアに弁当が配られるとは思っておらず、選手村のビュフェのことしか頭になかった。2012年のロンドン五輪で2,443トン発生した食品ロスは、選手村で一日5回提供されるビュフェの食事だと聞いていたからだ(3)。英ケータリング会社が食事を捨てる様子を動画に撮り、それがBBCの公式サイトに長らく掲載されていたのを筆者は何度も見ていた。9年後の2021年、日本の五輪でボランティアらに10,000食もの弁当が準備され、半分近くが無駄になるとは予想していなかった。

ロンドン五輪の反省を踏まえ、2016年のリオ五輪では、余剰食品を世界から集まったシェフたちが料理して、困窮者のために提供する取り組みが行われた。

この取り組みを「ぜひ2020東京大会でも」と目指していたのが、ある大学生だ。地元の大学を一年間休学して上京し、2019年から、JOCなど関係者にコンタクトをとって、直接、訴えていた。その大学生が2019年11月9日にJOCのある人と面会し、その人物から受け取ったというメールを入手した。

本日はお越しいただきありがとうございました。

学生の皆さまが持続可能性の取り組みに関心を持ち、積極的に行動なさろうとしていることを知り、同じ分野で活動している者として大変心強く嬉しく思いました。大会は時間や予算、決まりごと等々さまざまな条件の中で準備を進めておりますが、立てた計画の遂行に努めてまいります。

みなさまにもどうぞ宜しくお伝えください。

「立てた計画の遂行に努めた」結果、弁当4,000食廃棄、他の会場でも2〜3割が無駄になり、ホテルの朝食まで96食分廃棄とは…。

大学生「意味のある努力ができなかった自分が悔しい」

大学生は、なんとかリオ五輪のような取り組みをしたいと、海外の食品ロス削減活動家や日本の関係者に働きかけていた。が、あまりの困難さにあきらめざるを得ず、地元に帰っていった。

現在は復学している大学生に、今の心境を聞いてみた。

地元に帰ってからの一年半、意味のある努力ができなかった自分に悔しさを感じ、また誰かが動き続けないときっと解決へは近づけないのだと実感しました。

特に、24時間ビュッフェ形式ですし、今回のように無観客になった事でのロスも出ることは予測出来たことで、予測出来たということは未然に防げたということです。一学生としてですがこの問題に2019年から関わってきた身として、情けなさと日本社会(少なくとも東京五輪)では誰か旗振り役がリーダーシップを取って行動しないと、想いや考えがあっても社会に反映されないという事を痛感しました。

筆者は今大会で「人数のズレが出たらどのように調整して食品ロスを減らすのか」という質問を組織委員会に送っていた。2021年5月、組織委員会は「キャンセルできるものはキャンセルし、転用できるものは転用して無駄を出さない」と回答していた(4)。

TABETE代表、川越一磨氏「組織委に提言し複数回会ったが、前進せず匙を投げた」

アプリを通して食品ロス削減を実践している「TABETE(タベテ)」の代表、川越一磨(かずま)氏は、2018年頃から組織委員会に提言していたのに話が前進しなかったとし、「当然の結果」だとツイートした。

結局、できる限り廃棄を出さずに活用して良い方向へ持っていこうとしても、主催者側が聴く耳を持たなかった、食品ロス削減を謳った大会なのに、確実に実践することに対して本気ではなかった、ということだろう。

日本人ボランティアは「昼食代を支給すればいいのでは?」

有観客の場合に国立競技場でボランティアをする予定だった人は、今は五輪関連の別の業務に携わっている。この方にも意見を聞いた。

競技会場での弁当廃棄がテレビで取り上げられていましたが、例えばメディアセンターの輸送拠点もたくさんの人員がいて(毎時100本程のバスが発車するため)一部職員にはお弁当が支給されています。

駐車場にあるプレハブが休憩所のため、お弁当の消費期限もシビアだと思います。しかし大多数の職員には食事提供がないため各自、お菓子や食べ物を持参しています。

過去のイベントや大会のボランティアではお弁当が楽しみでしたが、お金で支給して頂き弁当持参が食品ロスを減らす手法の1つだと強く思いました

開会式関係者「味もひどく自分で持参するので全然手がついていなくて余っている」

筆者と一緒に食関連プロジェクトに参加している人を通して、開会式の関係者にも話を聞いた。

弁当は味もひどく、こんなの食べるくらいならと、自分で持参する人も多く、全然手がついていない。冷凍したのか何なのかわからないが、初めて食べる食感の卵を食べた。

無観客になり、キッチン施設だけ作って、稼働はなくなった建物もあった。もちろん、持続可能でエシカル(倫理的)な食材を使おうなんていう話もなかった。

「おいしい」「まずい」は主観的な問題でもあるが、実際、「見るからにまずそうだったので手をつけなかった」というボランティアの声もある

スポーツ紙「レキップ」の特派員でフランス人男性のフローラン・ダバディ氏は、8月3日にアップされた文春オンラインの記事の取材で「食事がおいしくないので仕事前にコンビニやスーパーで食料を買い込んでいる」と答えている(5)。

昼も夜も、ちゃんと食事をできる環境にないからです。メディアプレスセンター(MPC・IBC)内で提供される食事は、高い上においしくない。

別のフランス人記者も

MPCバーガー。ゴムのような肉、冷たいパン。合わせて1600円

とツイートしている(5)。

イタリア語通訳ボランティア「持ち帰っていいなら家が近いので持ち帰りたい」

今大会で働いている、イタリア語通訳ボランティア2名に、大会での食事事情と余った弁当について話を伺った。

食事は、おかずのみの弁当と、おにぎりまたはパンを選ぶことができます。会場内の写真撮影は禁止されています。

もし、残りの弁当を持ち帰ってもいいなら、家が近いので、家族分は持ち帰りたいです。

食事の支給はありませんでした。

たとえ消費期限が切れていても、余っていて持ち帰れるなら、もらって食べたいです。

この2人との間をとりもってくれたイタリア人の方には、余った弁当をどうすべきだったと思うかを伺った。

オリンピックスタジアムの外にいる人に配布する、あるいはスタンドに残して「ご自由に」とする。無駄にするよりは配ったほうがずっといい。

ウーバーイーツみたいなアプリを使ってオリンピックの食事をオーダーして、配るためのガソリン代だけアプリを使って払ってもらう。

食品ロスのTABETEみたいなアプリで投稿して、スタジアムまで取りに来てもらう。

スタジアム近くの店のスタッフのランチにする。あるいは近くの店でオリンピックの食事を出す。

Amazonや楽天で「オリンピック選手ランチ」みたいなかっこいい名前を付けて売る。

ボランティアに持ち帰ってもらい、家族のおやつやディナーにする。

なお、イタリアは、世界で初めて食品ロス削減の法律ができたフランスと同じ2016年に、食品ロスを減らすための法律が成立している(2016年9月)。余剰食品を困窮者に活用しやすいよう、賞味期限が過ぎても、特定の食品については、ある一定期間は使えるようなガイドラインも発行されている。イタリアでは、食品ロスになりそうなものを活用することを「recover(リカバー)」という動詞で表現していた。

組織委員会に具体的にどう「改善した」のか聞いた

JOC筋の情報によれば、有観客で想定していた時の弁当の数から無観客になって、ボランティアの数が減ってからも「弁当の数は調整していない」(6)。しかも「ある一定量は廃棄する前提だった」と。だったら、大量に余るのも当然ではないか。

組織委員会のスポークスパーソンは、今後は需要と供給の差がなくなるよう、「改善する」と話していた。

では、具体的にどう改善できたのか?

そこで、7月30日、再度、組織委員会に下記について質問した。

1、開会式からスタートして日にちごと、会場ごとのスタッフの人数と、弁当の発注数量を教えていただけますでしょうか。

たとえば

7月23日 本会場 スタッフ4000人 弁当10000個

     ◯会場 スタッフ何人 弁当何個

・・・・

7月24日 本会場 スタッフ何人 弁当何個

。。。。

7月30日 本会場 スタッフ何人 弁当何個

     ◯会場 スタッフ何人 弁当何個

「調整している」ということなのですが、具体的に

どう調整されたのかが明確ではありませんので、

わかる範囲でお願いできますでしょうか。

2、受託事業者の社名は五輪公式サイトで明らかにされていますが

今回の弁当やおにぎりの製造を受託した企業を教えていただけますでしょうか。

回答は次の通り。

お問い合わせいただいた件について、弊会からお伝えできる情報は先日お答えした内容が全てとなります。よろしくお願いいたします。

「先日お答えした内容」については2021年7月28日付の記事に書いた通り(7)。おおむね、組織委員会のスポークスパーソンの会見として報道された内容と同じだ。

そこで、再び、下記メールを送った。

2016年から議論していたワーキンググループは

「食品ロスの計量が五輪のレガシーになる」とおっしゃっていましたので

計量するのは「レガシー」だと思いますが、いかがでしょうか。

ロイターの報道により、日本の五輪で食品ロスが生じたことは

世界じゅうに知られるところとなりました。

何も説明しないとなれば、組織委員会が隠蔽しているとも思われかねません。

組織委員会の返答はなかった。

ちなみにロイター通信の報道は2021年7月28日付で報じられたものである(8)。

何度も記事で繰り返すが、2016年から委員会で議論され、2018年には「食品ロスの計量を五輪のレガシーに」と言っていたのに、数値がわからなければ、レガシーもへったくれもないではないか。東京2020は「持続可能な大会」として宣伝されてきた。公式サイトでも「東京2020は、資源の無駄遣いによる悪影響を最小限に抑えることを目指しています」と述べている。

弁当のリサイクルを請け負っているであろう企業3社に聞いた

組織委員会が数を明らかにしてくれないとなると、いくら納品されて、そのうちのいくら無駄になったのかわからない。開会式に比べて現時点で「改善」されたのかどうかもわからない。そこで、五輪の弁当のリサイクルを請け負っているであろう会社に伺った。

1社目は、「うちは受け入れていないが、A社とB社が受け入れていると思う」と教えてくれた。

そこで、東京都内の食品リサイクル会社であるA社とB社に次の質問をした。

五輪の余った弁当などを御社でリサイクルされていると伺いました。

1、五輪が始まってから、その受け入れ量は増えているのでしょうか。

2、具体的にどの程度の量が入ってきているのでしょう。

A社の回答は次の通り。

本件に関しまして、弊社ではお客様との契約上の守秘義務があることから、お客様の名称を含む契約および委託業務内容に関する事については、一切お答えできません。

B社は次の回答だった。

本件につきましては、申し訳御座いませんがノーコメントとさせて頂きます。

「廃棄でなくリサイクルしている」という言い訳は環境配慮の原則や持続可能性を全く理解していない証拠

組織委員会は、10,000食のうち、4,000食を無駄にしたが「廃棄ではなく、飼料化リサイクル・バイオガス化している」と説明し、廃棄していないと説明した。

だが、環境配慮の原則「3R(スリーアール)」や持続可能性について、基本的な内容を勉強した人なら、食べられる弁当を直接リサイクルするのは最後の手段であり、食べられるのにリサイクルしてしまうことがどんなに資源とコストの無駄遣いか、いかに環境負荷をかけ、持続可能ではないか、よくわかるはずだ。

減らすことが最優先で、次がリユース(再利用)、リサイクルは最後の手段である。食べ物でいえば、食べられない部分(りんごの芯など)や食べ残しなどは、もうリユース(再利用)できないので、リサイクルする。今回の弁当やおにぎりは、まだ十分に食べられるものだった。

3Rの優先順位(筆者作成)
3Rの優先順位(筆者作成)

言ってみれば、「廃棄はしていなくてリサイクルしている」というセリフを聞いた時点で「全くわかっていない人たちだ」ということが露呈してしまった。結局、復興五輪も持続可能な大会もどれもこれも本気ではなく、口先だけだったということだ。

日本はどういう考え方でどういう姿勢の国だと世界に発信したいのか?

2021年8月1日付TBS系列「サンデーモーニング」によれば、長野五輪では招致活動の使途不明金が出たが、会計帳簿が焼却処分されていた(9)。

「食品ロス計量をレガシーにする」なら、今からでも、計量した結果を情報公開して見える化すべきだ。

前週刊文春編集局長の新谷学氏は、2021年8月2日付の記事で

炎上が起きた時、絶対にやってはいけないことが3つある。「逃げる」「隠す」「ウソをつく」だ。企業の広報担当者向けのセミナーでも話すことがある

と書いている(10)。

五輪は、日本という国が、持続可能なはずの世界規模のイベントで「大量の食品ロスを出してしまった」際、再発防止のために、どういう考え方で、どういう姿勢で臨むのかを、世界に向けて発信する場でもある。

逃げるのか、隠すのか、ウソをつくのか。

それとも、包み隠さず、丁寧に説明するのか。

単純に食品ロスの話だけではおさまらない。

本日8月3日(火)TBSラジオ「アシタノカレッジ」22:30〜23:00の生出演をお声がけいただいたので、本件、質問を受けたことに対してお話ししたい。

今後どうすればいい?

今後どうすれば改善できるのか。今回の要因の一つは「食品を捨てても捨てなくても同じだけ儲かる仕組み」だ。だから、お金をもらえる人はいくら大量に捨てようが構わないし、知ったことではない。もし食品を大量に捨てたらその分だけペナルティが発生してお金を損するとなれば、必死で捨てない努力をするだろう。逆に、食品ロスを削減したら税金が安くなるとなれば、今よりロス削減に努めるだろう。前者はフランス方式、後者はイタリア方式。前述の通り、ともに2016年、世界に先駆けて食品ロスを減らすための法律を作った国である。日本も2019年10月に食品ロス削減推進法を施行させたのだから、もっと具体的にペナルティやインセンティブを提示したらどうなのか。「もったいないから大切に」なんていう理想論や性善説では、もはや太刀打ちできないところまで食に対する倫理観が欠如している。

参考情報

1)五輪関係の宿泊予約101人、来たのは5人 朝食も廃棄(朝日新聞デジタル、2021/8/2)

2)「弁当を廃棄するなら僕たちに回して」IOC会見にボランティアの大学生が乱入するハプニング…質問しようと手を挙げるも制止される【東京五輪】(東京中日スポーツ、2021/7/30)

3)ロンドン五輪は2443t廃棄、食品ロスと闘う東京五輪 日本は「責任、安全、真夏」どう対策(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/2/13)

4)五輪で一日数千食の弁当廃棄 組織委員会の答えは?5月には「キャンセルか転用して無駄を出さない」と回答(Yahoo!ニュース、井出留美、2021/7/26)

5)「食事は高い上においしくない」「バスは待たされる」…東京五輪取材中、ダバディ氏が率直に語った問題点 仕事をする上でプレスセンターの運営は素晴らしいが…(文春オンライン、2021/8/3)

6)五輪の弁当大量廃棄 発注数の変更はあったのか?JOC(日本オリンピック委員会)関係者の情報を入手した(Yahoo!ニュース、井出留美、2021/7/27)

7)五輪弁当大量廃棄 改善を約束した組織委員会の具体的回答とは?食べられずに余ってしまった数量は何食分?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/7/28)

8)Olympics Tokyo organisers apologise for food waste, in latest Games headache(REUTERS, July 28, 2021)

9)松原耕二キャスター 五輪組織委に「税金を使っている…検証に耐える文書をきちっと残してほしい」(スポニチスクエア、2021/8/1)

10)「幻の開会式プラン」を報じた週刊文春が五輪組織委の"圧力"に負けずに済んだワケ 「言論の自由」で戦ったわけじゃない(プレジデントオンライン、新谷学、2021/8/2)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事