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五輪弁当大量廃棄 改善を約束した組織委員会の具体的回答とは?食べられずに余ってしまった数量は何食分?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
7月24日放送TBS「報道特集」より廃棄されたおにぎり(Tverより引用)

2021年7月24日にTBS「報道特集」で報じられた、五輪会場で異常な数の弁当やおにぎりが廃棄されているとする問題(1)。7月27日には、内閣官房のオリンピック・パラリンピック事務局が「廃棄はあったと聞いている」と事実関係を認めた。さらに27日、大会組織委員会の高谷正哲スポークスパーソンは、「当然適切な数量が発注され納品されてしかるべき。事態の改善に努めていくということが今伝えられること」と回答した(2)。27日、筆者が交流のある企業の方を通してJOCのコメントを入手したところ、ボランティアの数が減ったものの、弁当の数の調整はなく、廃棄前提で進められていたとのことだった(3)。

5月に筆者が組織委員会に取材した際には「数がずれた場合、食材の無駄を出さないためにどうするか」という質問に対し、「キャンセルもしくは転用して無駄を出さない」との回答だった(4)。今回の現状とずれている。そこで7月27日の昼12:52、大会組織委員会に再度下記の質問をメールで送った。

1、先ほどのニュースで、廃棄されることを確認したと報道されたことが

SNSで流れていましたが、その通りでしょうか。

2、発注数が適切でなかったとすれば、

今後はどのように転用していかれますか。

いま、困窮者に活用してほしいという署名運動も始まっているようです。

開会式当日の余剰分は4000食 飼料とバイオガスにリサイクル

そして7月28日昼12:52、組織委員会から下記の回答をいただいた。

余剰により、多くの会場で食品ロスが生じていたことを組織委内でも確認しました。特に開会式当日のオリンピックスタジアムにおいては、スタッフ等が多かったために発注量が多く、伴って食品ロスも多くなりました。また弁当の発注に対する当日のシフトによる実需との誤差が生じたことも、食品ロスが大きくなっていたことの一因と考えます。今週に入ってから、各会場において発注量の適正化措置が順次とられ始めています。多くの食品ロスが生じていたことについてはお詫び申し上げます。なお、余剰は廃棄ではなく、飼料化リサイクル・バイオガス化しています。なお、開会式当日のオリスタにおける余剰は約4000食です。その他の会場含む全体については、事業委託先との関係もあり明示しかねますが、先週まで概ね2〜3割の余剰が生じていました。今週に入ってからは、適正化措置を順次とりはじめています。

なお、28日深夜には小泉環境大臣からも同様の情報をいただいた。

環境配慮の原則「3R(スリーアール)」は大会組織委員会だけでなくメディアにも認識してほしい

五輪で食品ロスを削減する問題は5年前の2016年からワーキンググループで議論されてきた。だから、なぜ今、このようなことが起きてしまうのかは非常に残念だ。

だが、数が明確化され、公開されたこと、そして単純に廃棄ではなく、飼料やバイオガスへとリサイクルされることは、ポジティブに受けとめたい。

その上で、理想をいえば、環境配慮の原則である「3R(スリーアール)」は、改めて確認しておきたい。

3Rの優先順位(筆者作成)
3Rの優先順位(筆者作成)

まず最優先はReduce(リデュース)。ロスを出さない、ごみを発生させない。リデュースのもっと上に「Refuse(リフューズ:断る)」を置く場合もある。

今回の場合であれば、まず、7月8日に無観客が決定し、ボランティアの数が激減したのであれば、本来なら、あらかじめ、弁当の発注数を減らすべきだった。

すでにキャンセルできない、受託事業者の利益が減るので減らせない、などの事情があるのなら、3Rの2番目の優先順位であるReuse(リユース)。食べ物を必要とする子どもたちや大人に食べていただく。日常であれば、フードバンクやフードドライブに寄付をしたり、期限が接近した食品を値引きして販売したりするのがこの部分だ。今回も、余った弁当を必要な方へとつなぐ導線を求める署名活動が始まっている。

そして3番目の優先順位がリサイクル。今回の組織委員会の回答にあったような、飼料やバイオガス、あるいは肥料へとリサイクルする。ただし、これはエネルギーやコストがかかるので、すでに膨大なエネルギーやコストをかけて作られた食品を、またリサイクルするのは、二重にエネルギーやコストをかけることになる。できる限り環境負荷が低いのが「リデュース」というわけだ。改正された食品リサイクル法も、この原則にのっとっている。

元栓を閉めた方が早道じゃないのか?

京都大学で長年、家庭からの食品ロスの研究に従事してこられた高月綋(ひろし)先生は、環境まんが家「ハイムーン」として、次のような漫画を描かれている。

高月先生のイラストより
高月先生のイラストより

あふれ出る水や資源を、人々が一生懸命、バケツでかき集めて、また戻している(リサイクル)。でも、そもそも、出てくるものを減らす方が早いんじゃないの?ということだ。

マスメディアから取材を受けると、この3Rの優先順位を取り違えていることが多い。どれも大事だが、最優先のリデュースがすっぽ抜けて報じられることがほとんどだ。

まずはリデュース、そしてリユース、最後にリサイクル。

以前、NHK Eテレ 高校講座「第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~」の中で、レギュラー出演者で16歳の高沢英(たかさわ・はな)さんが、ズバッと本質を突いてくれた。リサイクルなど、いろんな食品ロス活用事例が紹介される中、「でも、やっぱり、食品ロスを出さないことが一番大事なんですよね!?」と言ってくれた(5)。

五輪も日常も、これこそが本質だ。

弁当の件については、残りの会期で改善されることを期待している。

参考情報

1) 五輪で一日数千食の弁当廃棄 組織委員会の答えは?5月には「キャンセルか転用して無駄を出さない」と回答(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/7/26)

2)【独自】五輪の弁当大量廃棄 組織委「改善する」(TBS News, 2021/7/28)

3)五輪の弁当大量廃棄 発注数の変更はあったのか?JOC(日本オリンピック委員会)関係者の情報を入手した(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/7/27)

4)五輪の食材、食品ロスはないのか?大会組織委員会に聞いた(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/6/4)

5)テレビの企画は毎回余る前提でうんざり 食品ロス削減の本質が抜け落ちた議論に16歳が放った一言とは?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/1/26)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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