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コロナ禍の困窮者へ食品を 世界の食品寄付の法律や政策が地図で一目でわかるサイト

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
The Global Food Donation Policy Atlasより

世界40カ国以上に存在するフードバンクをつなぐネットワーク、GFN(ジー・エフ・エヌ、Global Foodbanking Network:グローバル・フードバンキング・ネットワーク、本部は米シカゴ)と、ハーバード・ロースクールのFLPC(フード・ロー&ポリシー・クリニック)が、どの国がどんな政策で食品寄付を実施しているか、世界地図上でひと目でわかる「The Global Food Donation Policy Atlas(グローバル・フード・ドネーション・ポリシー・アトラス)」を公開し、新たな国の調査結果を追加した(1)。

世界地図に、政策や基準の有無などが色分けで示されており、詳しく見たい国の上にカーソルを当てると簡単な説明が出てくる。さらに詳しく見たい場合は、クリックすると、その国のすべてのデータを読むことができる。

食品寄付の障壁を明らかにする

このサイトの「COVID-19」の項目には、このサイトは、食品寄付の国ごとの法律や政策の現状や政策提言をまとめた世界初のプロジェクトであると書かれている。概略は次の通り。

毎年、世界では推定13億トンの食品が失われ、無駄になっている。一方、世界では7億2,000万人から8億1,100万人の人々が飢えに苦しんでいる。食品の寄付は、この矛盾を解決する、重要な手段である。安全な余剰食品を最も必要としている人々に届けることができるからだ。しかし、残念ながら、ほとんどの国では、食品寄付がその効果を最大限に発揮できるような法律や政策が整備されていない。

「グローバル・フード・ドネーション・ポリシー・アトラス」は、GFN参加国の食品寄付に関する法律や政策の現状と、食品回収の取り組みを強化するための国別の政策提言をまとめた、世界初のプロジェクトである。各国の食品寄付政策の状況を視覚的に比較したQuick-viewアトラスと、国別のエグゼクティブサマリー、法律ガイド、政策提言のライブラリが含まれている。

寄付食品の安全性について

たとえば、寄付食品の安全性管理については、次のように示されている。

緑は「強い政策(方針)がある」国、黄土色は「弱い政策(方針)がある」国、赤は「政策が存在しない」国、グレーはデータなし。現時点ではグレーが多いが、これが完成形ではなく、ここからデータを集めて完成させていく、という段階である。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

食品安全性の管理について強い政策があるのは、英国(UK:United Kingdom)とシンガポールの2カ国のみ。そこで英国をクリックしてみると、次のような画面があらわれる。国名と国旗の下には人口、GDP、貧困率、世界フード・セキュリティ・インデックス(指標)、食品ロス量が表示される。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

右側には次のような趣旨が書いてある。

英国には、EU法(英国が採択し、EU離脱後も英国法の一部となっている法律)や、国ごとの法律など、食品の寄付に関連する、さまざまな法的枠組みがあります。1990年に制定された食品安全法では、食品の寄付が認められているほか、英国政府とその派生国政府は、非営利団体であるWRAP(Waste and Resources Action Programme)に資金を提供し、余剰食品の安全な再分配などの食品廃棄物対策に、直接、取り組んでいます。

食品の期限表示

日本では、おおむね5日以内の日持ちの食品に表示される「消費期限」と、それ以外の加工食品に表示される「賞味期限」(食品によっては表示の必要なし)の2種類の期限表示がある。これらは、食品の安全性を守るのに一役買う反面、食品ロスにも繋がっている。この期限表示と食品寄付に関して、国によって政策の有無は異なる。ここでも英国にははっきりした政策があるとされている(緑の表示)。

2020年4月、英・WRAP(ラップ)は、賞味期限が切れた食品をすぐ捨てないよう、食品企業やフードバンクのような食品を配分(再利用)する組織、慈善団体など、食品関係者に促すガイドラインを発表した(2)。WRAPは、食品基準庁や環境・食料・農村地域省など、英国政府と共に制定したガイドラインの内容に改訂を加え、賞味期限過ぎた後も再分配(redistribution)できる期間がこれだけある、という内容をアドバイスしている。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を受けての2017年版の改訂である。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

左下には次の趣旨が書かれている。

食品に貼られている日付表示のラベルは、食品廃棄の主な要因であり、食品寄付の障害となっています。ほとんどの食品提供者や食品回収団体は、食品の安全性が損なわれている可能性のあるものを提供することに注意を払っています。でも、「Sell by」「expires on」「best by」などの文言が付された表示が食品の安全性に関連しているかどうかは必ずしも明確ではありません。実際、ほとんどの食品において、日付表示は食品の安全性ではなく、鮮度や品質を反映するように意図されています。

免責(食品寄付者の責任の保護)

食品寄付の大きな障壁となっているのが、食中毒など、食品事故が起きた場合のリスクだ。寄付食品を食べた人が食中毒になった場合、寄付者が責任を問われる、となれば、その責任を負わないために寄付をやめて廃棄してしまうだろう。実際、日本でも、そのような状況が10年以上前から続いており、免責の法制度や条例はまだなく、フードバンクなどが同意書のフォームを準備して食品の授受を行なっている状況だ。

米国をはじめとしたいくつかの国では、この懸念を払拭するために、責任を免れる「免責制度」を採用している。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

英国の経済誌「エコノミスト」の調査部門、EIU(The Economist Intelligence Unit:エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)などによる、2018年の調査報告書「FIXING FOOD(フィクシング・フード) 2018」には、食品ロス削減に関する政策や法整備が整っている国を100点満点のスコアで示されている。ここで、米国は唯一「100」のスコアを取得し、世界トップに立っている(3)。

寄付者に対する税制優遇措置

余剰食品の寄付を事業者に促すためには、万が一のリスクを回避できる免責制度と並行して、寄付することによるメリットが必要だ。その一つが、寄付者に対する税制優遇措置である。

地図上でみると、免責制度と同じく、米国は「強い政策がある」(緑色で表示)となっている。筆者が勤めていた食品企業の米国本社も、米国政府による政策としての税制優遇や免責制度が整っているので、食品寄付を30年近く続けていた。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

なお、日本も、国税庁と農林水産省により、フードバンクなどに寄付した食品は課税対象から除く(全額損金参入)ということが決まっている(4)。

税金の障壁

一部の国では、寄付食品に、付加価値税(VAT)など特定の税金が適用されることが、寄付の障壁となっている。食品提供者は、寄付することで税金を払わないといけないなら、余剰食品を寄付するより廃棄した方がコストが削減できると考えるかもしれない。

地図上ではアルゼンチンが、そのような税金がかかるとされているが、イタリアでも一部、このような税金がかかると聞いている。また、デンマークを取材したときも、デンマークの法律では、食品を寄付するより廃棄してしまった方が税金が安く済むため、スーパーマーケットでの廃棄は依然として多いと伺った(5)。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

食品廃棄物に対する罰則

食品廃棄に対するペナルティを設けている国もある。ここの欄には、こう書いてある。

一部の国では、企業の行動に影響を与え、より持続可能なフードシステムを促進するために、食品の寄付義務を採用したり、埋め立て地に送られた食品に金銭的な罰則を課したりしている(有機廃棄物の禁止や廃棄物税としてよく知られている)。

フランスは、2016年、世界初となる、食品廃棄に対するペナルティを設けた法律を成立させた(6)。この地図上では色付けされていないようだ。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

政府の助成金と奨励金

食品の寄付においては、国の支援が重要だ。この欄は次のような説明がある。

国や地方自治体が提供する助成金や奨励金制度も、食品寄付の取り組みにとって重要な資源である。寄付者が税制上の優遇措置が不十分と考えている国や、インフラが整備されていないために食品回収活動が制限されている国では、特に当てはまる。

米国では、トランプ前大統領が就任してすぐ、食料支援の予算を削減したことがあった(7)が、2020年のコロナ禍では食料支援の予算を増やす施策を行なった(8)。

The Global Food Donation Policy Atlasより
The Global Food Donation Policy Atlasより

以上、The Global Food Donation Policy Atlasの全体像を見てきた。

日本も積極的に世界と協働、そして発信を

日本は以前、フードバンクのセカンドハーベスト・ジャパンが窓口となってGFNに参加していたが、今は参加しておらず、GFNの参加国としてはリストに国名を連ねていない(9)。GFN公式サイトには、参加国が緑、ヨーロッパフードバンク連盟参加国が紫、米国210のフードバンクをたばねるフィーディングアメリカがオレンジで示されている。日本は何も塗られていない。

The Global FoodBanking Networkより、参加国
The Global FoodBanking Networkより、参加国

この「アトラス」に関しては、foodtank(フードタンク)も特集しており(10)、FLPCのディレクターであるエミリー・ブロード・リーブ(Emily Broad Leib)氏は、この分野の政策を改革するには政府の行動が必要だと語っている。日本政府も、日本国内向けの情報だけでなく、世界へ日本の情報を発信し、協働していくことが求められているのではないだろうか。

参考情報

1)The Global Food Donation Policy Atlas

2)巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2020/4/27)

3)食品ロス削減の法整備など政策が整った国ベスト10 フードシェアアプリ事例が紹介された日本の順位は?(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/5/16)

4)「寄付より廃棄」の選択肢が変わる 国税庁・農林水産省がフードバンク等への寄贈食品の全額損金算入を認可(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/1/22)

5)たった5年で食品ロス25%も削減 デンマーク王室をも動かしたある女性の怒りとパワー(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2019/9/13)

6)『フードバンク 世界と日本の困窮者支援と食品ロス対策』(明石書店)出版記念シンポジウム(於明治大学)(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2018/7/23)

7)トランプ大統領が貧困層に向けた食料支援の予算を削減(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2017/11/22)

8)「想像してごらん、食品ロスのない世界を」コロナの時代の食品ロス(米国編vol.4)世界レポ(64)(Yahoo!ニュース個人、井出留美、2021/3/29)

9)Our Global Reach, The Global Foodbanking Network

10)The Global Food Donation Atlas Tackles Food Waste Policy(foodtank, July, 2021)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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