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「一律値引はもう古い」?賞味期限まで段階値引 売上20%増、食品ロス50%減

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

賞味期限や消費期限の迫った食品を値引きするのは、スーパーやデパ地下でよく目にする。われわれ消費者としても、まだ十分に食べられる食品を安く買えるのならお得だ。小売店では、賞味期限や消費期限のもっと手前に販売期限を設けており、そこで商品棚から撤去してしまうことがほとんどだ。値引きの場合は、「期限の切れる5時間前には20%引き、2時間前には50%引き」などと、時間単位で一律値引きすることが多い。

だが、一律値引きはもう古いと言う人がいる。イスラエルにある会社「Wasteless(ウェイストレス)」社のCEO、オデット・オメル(Oded Omer)氏だ。

オメル氏は、「小売店は、1970年代の方法を基に価格設定している」と語っている。その値引きの方法はアバウトだ。たとえば賞味期限の切れる4日前に20%引き、賞味期限の切れる2日前に40%引き、といった具合に。でも、そんなやり方では店舗の収益も上がらないし、食品ロスも減らない。

ダイナミックプライシングで20%増収、50%食品ロス削減

Wasteless社は、AIを使うことにより、売上・賞味期限・現在の日時・コスト・在庫・プロモーション・イベント・競合他社など42のパラメーター(要素)に応じて、一日中、価格を調整している。これにより、生鮮食品なら20%の増収と、食品ロス40%〜100%削減が目指せるという。

Wasteless社は、賞味期限ギリギリになっていきなり40%引き、などというやり方をしない。まず2%下げる、など、小さい単位でゆっくり価格を下げていく。そして賞味期限が切れるまでの一週間で、30%程度まで、ゆっくりと値引きしていく方法だ。これにより、利幅を保つことができるし、食品ロスを減らすこともできる。

Wasteless社が行っているのは「ダイナミックプライシング」だ。需要に応じて価格を上下させることをいう。筆者がこれを初めて聞いたのは2018年6月、ローソンを取材した時だった。

ーよく、消費者の声で聞くのが、鮮度(賞味期限)によって、価格を連動して安くして欲しい、と。

ローソン:ダイナミックプライシングという考え方ですね。

ーそれは可能ですか?

ローソン:可能ですね。RFID(電子タグ)がキーになってくると思うんですけど、イメージで言うと・・

ー複数の方が「同じ値段だったら、(商品棚の)奥から(賞味期限日付の新しいのを)取る」って言っていて。それが、日付に連動して価格が比例して(賞味期限が近づいているほど)安くなっていれば買うよ、と。そういう消費者の意見をよく聞くんですけど。

ローソン:これ、スペインで実験してるんですね。同じヨーグルトなんですが、賞味期限が5月4日より後だと価格が変わるんですね。個品管理情報がタグに入ってますので、電子ペーパーを使った価格カードと連動することで、賞味期限と連動して価格がピュッと下がるという。

ーへええ。

谷田:そういうのを「ダイナミック・プライシング」というらしいんですけどね。

ーこれはどこかで公開されているのですか?

谷田:日本でやってるとこはまだないんで・・・

「Wasteless(ウェイストレス)」は2017年に設立された。賞味期限の短い食品を、最適な価格帯で値付けすることにより、食品ロスを減らし、利益率をあげるための解決法を提供している。現在、Wasteless社は、ニューヨーク、テルアビブ、ロンドン、アムステルダムにオフィスを構え、ヨーロッパと米国で事業を展開している。

食品ロスの87%は賞味期限切れの廃棄による

Wasteless社は、スペインのマドリードにある食料品店「DIA」で、テストを行った。その結果、食品ロスを32.8%削減し、収益を6.3%増加させることができた。

オメル氏は、GreenBizの取材で「食料品店から出る食品ロスの87%は賞味期限切れ食品を廃棄することによる。賞味期限が過ぎてもすぐに捨てる必要はないことを啓発し、賞味期限接近食品を買うように動機づけすれば、ヨーロッパで年間8,800万トン発生している食品ロスを大幅に削減できると述べている。平均的な食料品店では、商品1つあたりの利益率が3%増加するそうだ。

Wasteless社の技術は、前述のスペインのDIA社やイタリアのIper社など、3つの食料品チェーンの数十店舗で導入されており、1,900トンの二酸化炭素排出削減も達成できた。

日本でも、このダイナミックプライシングの実証実験は、毎年のように経済産業省主導で行われている。将来的に、実生活で使われる時が来るのを期待したい。

参考情報

Wasteless社公式サイト

The new dynamic duo: Pricing and food waste(May 11th, 2021、GreenBiz)

経済産業省 コンビニ電子タグ1000億枚宣言は実現可能か プロジェクトトップランナーのローソンに聞く(井出留美、2018.6.5)

スーパー・コンビニの食品ロス削減の秘策!値引シールもシール貼りも不要「ダイナミックプライシング」とは(井出留美、2018.10.24)

「定価より高くても売れる」経産省RFID実験にみる消費者ニーズの多様性(井出留美、2021.3.18)

コンビニで「期限迫るおにぎり」最大50%値引き 食品ロス対策への効果と課題(井出留美、2020.12.23)

食品ロス削減できるダイナミックプライシング(期限接近で自動値引)実証実験中ツルハドラッグへ行ってみた(井出留美、2019.2.22)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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