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65%「賞味期限切れ経験ある」備蓄の廃棄を防ぐには? #あれから私は

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
Tin of Peas and Carrots(写真:アフロ)

2021年3月4日、独立行政法人国民生活センターが、災害に備えた食品の備蓄に関する実態調査の結果を発表した。飲料水や乾麺、缶詰を備蓄する人が多く見られる一方で、65%以上の人が、備蓄食品の賞味期限が切れた経験がある、と答えた。

災害時には道路が寸断されるなどで、自治体の備蓄食品に頼れない状況が多く発生するため、家庭での備蓄を確保しておくことが重要になる。だが、長期間保存する中で、賞味期限があまりに長く過ぎてしまうと、その食品は無駄になってしまう。では、どのようにすれば、備蓄食品の廃棄を防ぐことができるのだろうか。調査結果を元に見ていきたい。

3,000名対象に調査を実施

調査は次の通り。

調査期間:2020年9月から2021年1月まで

調査対象者:全国の20歳代〜60歳代、3,000名(各年代600名、平均年齢44.8歳、男性1,500名、女性1,500名)

調査方法:インターネットによるアンケート調査

1位飲料水、2位乾麺、3位缶詰

調査対象者のうち、最も備蓄しているもので多かったのが飲料水で、83.9%(2,516名)が備蓄していた。2番目が乾麺・カップ麺で65%(1,951名)、3番目が缶詰で64.6%(1,938名)と続いた。

国民生活センターの調査結果より
国民生活センターの調査結果より

47%が「1年に1回以上、備蓄食品を入れ替える」

47%(1,410名)が、1年に1回以上、備蓄食品の入れ替えを行なっていた。そのうち541名(全体の18%)は6ヶ月未満に1回以上の頻度で入れ替えを行なっていた。一方、「備蓄食品の入れ替えはしない」と答えた人は7.4%(223名)いた。

国民生活センター調査結果より
国民生活センター調査結果より

65%が「備蓄の賞味期限が切れたことがある」

65.5%(1,966名)が、これまでに備蓄食品の賞味期限が切れたことがある、と回答した。

国民生活センター調査結果より
国民生活センター調査結果より

賞味期限切れ101商品のテスト、衛生上問題なし

常温保存が可能で、賞味期限が切れている未開封の備蓄食品を消費者から回収し、国民生活センターがテストを行った。その結果、容器包装の外側に、ペットボトルのへこみや汚れ、缶詰の缶のサビなどが見られたものがあったが、容器包装の内側(食品)に異常はなく、異物や変色などの異常は見られなかった。

微生物検査についても実施した。81食品のうち、4食品から細菌が検出されたが、腐敗は進行しておらず、「食品、添加物等の規格基準」などの法令に照らし合わせて問題となるレベルのものはなかった。

油脂の劣化や、でんぷんの糊化についても調べたが、衛生上問題となるものはなかった。

国民生活センターから消費者へのアドバイス2点

調査結果を踏まえての国民生活センターから消費者へのアドバイスは次の2点。

備蓄食品は賞味期限や包装を確認し、入れ替えを行う。賞味期限切れは一律に廃棄せず、適切に消費する

備蓄は栄養バランスを考え、ライフライン停止も考慮し、各家庭にあったものを

下記の省庁のサイトも参考にするように、としている。

農林水産省「家庭備蓄ポータル」

消費者庁「めざせ!食品ロス・ゼロ」

賞味期限を理解し過ぎてもし足りない

国民生活センターの調査結果を踏まえて、筆者からはアドバイスが2点ある。

1点目は、「賞味期限はおいしいめやす。すぐ捨てない」

おおむね5日以内の日持ちのものと違い、賞味期限は「おいしいめやす」。目安に過ぎないということ。

消費期限と賞味期限の違い。消費者庁の情報を元にYahoo!ニュース編集部作成
消費期限と賞味期限の違い。消費者庁の情報を元にYahoo!ニュース編集部作成

賞味期限が過ぎても、すぐに捨てる必要はない、ということだ。

参考:

賞味期限切れの備蓄の水や食料は地震などの非常時にはすぐ捨てないで!(2021年2月14日、井出留美)

2点目は、非常袋に入れっぱなしにせず、日頃から使っては買い足すローリングストック法のお勧め

非常袋に入れっぱなしにしてしまうと、普段、中身をわざわざ開けてみることはしない。

普段、使うような食品庫(パントリー)のような、目のつくところに置いておく。レトルトカレーやレトルトご飯も普段使いしていき、減った数だけを次の買い物で買い足していく方法だ。

こうすれば、「何年に一回」確認する必要はなく、備蓄の管理が普段から習慣化されていくので、続けやすい。

参考:

9年目の3.11と新型コロナ対策を機に取り入れたい「ローリングストック法」とは?(2020年3月11日、井出留美)

農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」より
農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」より

参考:

災害時に備えた食品ストックガイド(平成31年3月、農林水産省)

賞味期限は、多くの人が生きている限り、つきあっていくものである。中学校の家庭科で履修しているにもかかわらず、多くの人が「消費期限」と誤解してしまっている。筆者も『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、5刷)という本で、賞味期限の設定方法や、1未満の安全係数が掛け算されて短めに設定されていることを書いたが、まだまだ浸透しているとは言い難い。

3.11の東日本大震災からもうすぐ10年が経つ。筆者は、2011年を機に当時勤めていた食品メーカーを辞めて独立し、食品ロス削減の啓発活動に関わるようになった。以前は非常袋の中でレトルトがゆをだめにしてしまったりしていたが、あの時以来、自分自身も気をつけて備蓄を捨てないようになってきた。

災害は、いつ来るかわからない。いつ来ても狼狽しないで済むよう、普段から

「賞味期限はおいしいめやす」

「備蓄はローリングストック法」

を心に留めて、備蓄食品を無駄にしないようにしていきたい。

参考情報

災害に備えた食品の備蓄に関する実態調査-いざというとき、困らないために-(2021年3月4日、国民生活センター)

災害に備えた食品の備蓄に関する実態調査 ‐いざというとき、困らないために‐ 報道発表資料(2021年3月4日、国民生活センター)

3.11を迎え防災を考える 日本の食品ロスにカウントされない備蓄食品の廃棄、5年で176万食、3億円(2017年3月11日、井出留美)

7年目の3.11 防災備蓄食品を「食べずに捨てる」から「おいしく食べる」で食品ロスを減らす取り組み(2018年3月11日、井出留美)

「死ねば楽になる」3.11から8年、半壊家屋に住み食べ物もないお年寄り 大量の食べ物を捨て続ける矛盾(2019年3月11日、井出留美)

9年目の3.11と新型コロナ対策を機に取り入れたい「ローリングストック法」とは?(2020年3月11日、井出留美)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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