「今は食品ロス削減に取り組むうってつけの機会」コロナの時代の食品ロス(米国編vol.2)レポ(60)

Apples & Peaches at a Farmer's Market(写真:CavanImages/イメージマート)

米国最大のスポーツ・イベントと言われるアメリカン・フットボールの優勝決定戦スーパーボウルが、2021年2月7日にフロリダで開催された。毎年、テレビ番組の年間最高視聴率を記録するなど、かなり注目度の高いコンテンツだ。筆者のように、試合そのものを観ない者(ルールすら知らない)でも、楽しめることはある。

例えば、ハーフタイムの、ビヨンセやブルーノ・マーズのような、スーパースターのステージ。それに、選りすぐりのCM。1億人が視聴するという番組だけあって、この日のために、世界中の企業がたっぷりお金をかけた特別なCMを準備してくるのだ(1)。今年公開された中では、GMの「No Way, Norway」、ドリトスの「ぺったんこのマシュー・マコノヒー」、アマゾンの「Alexa's Body」がおもしろかった。

出典:Amazon's Big Game Commercial: Alexa's Body   via YouTube
出典:Amazon's Big Game Commercial: Alexa's Body via YouTube

アマゾンのCMは、昨年のピープル誌で「最もセクシーな男性」に選ばれたマイケル・B・ジョーダン(Michael B. Jordan)がアレクサだったら、という、ある女性の妄想を映像化したもの。もしも斎藤工さんがアレクサだったら...と想像してみてほしい。いろいろと困ったことになってしまいそうである。

ところでスーパーボウルは、米国では、感謝祭の次にたくさんの食品が消費されること、そしてたくさんの食品が廃棄されることでも知られている。そんなこともあってか、今年はじめて参加したマヨネーズブランドのHellmann's(ヘルマンズ)は、コメディアンのエイミー・シューマー(Amy Schumer)を起用し、食品ロスをテーマにしたCMを流した(2)。

出典:Hellmann's 公式サイト
出典:Hellmann's 公式サイト

ただし、このCMを観た視聴者が、「なるほどね。キッチンには魔法が必要だわ♪マヨネーズを使って、手元にある食材を無駄にせずにおいしく料理してみましょう」と思ったかどうかは疑問である。

でも、アマゾンのCMではないけれど、どの家のキッチンにもエイミー・シューマーがいて、使い切れない食材や食べ残しをチェックして、テキパキと料理の指示をしてくれたら、家庭の食品ロス問題なんて、きっと、すぐに解決してしまうに違いない。

それはともかく、前回の「コロナの時代の食品ロス(米国編)vol.1」の続きに移ろう。

まず、ちょっとだけ前回のおさらいを。

遠い昔 はるかかなたの銀河系で・・・・

2020年2月に中国やヨーロッパで新型コロナウイルスの感染拡大が続いていても、トランプ大統領(当時)は「4月になって暖かくなれば死ぬだろう」「インフルエンザのようなものだ」「そのうち消えるだろう。ある日、奇跡のように消えるだろう」と主張していた。

3月になり、米国でも感染拡大に歯止めがかからなくなってくると、トランプ氏は急に態度を変え、「ずっと前から、これは本物だ、これはパンデミックだとわかっていた」と主張しはじめた。そして、この頃からトランプ氏はコロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼ぶようになり、感染を食い止めることができなかった中国やWHOに批判の矛先を向けるようになる。

3月13日に国家非常事態宣言をしたが、1週間ほどで米国の感染者数が10倍以上にふくれあがり、3月22日にニューヨーク州がロックダウン(外出制限)をはじめると、翌日に株価が急落し、米国経済の低迷を懸念する声が広がった。トランプ氏は同日の会見で、すぐにビジネスを再開すると表明し、国民の健康よりも経済重視に舵を切ることになる。

そして、トランプ氏が「暖かくなれば(ウイルスは)死ぬだろう」と主張していた4月になると、1日の感染者数は3万人を超えるようになり、累積感染者数も4月だけで80万人以上増加し、米国はいっきに世界の感染の中心地となっていった……。

「コロナ・ショック」と食品ロス(vol.1からの続き)

People wait in line as the Los Angeles Regional Food Bank distributes food outside a church during the outbreak of the coronavirus disease (COVID-19) in Los Angeles, California, U.S., November 19, 2020. REUTERS/Mike Blake (United States)
People wait in line as the Los Angeles Regional Food Bank distributes food outside a church during the outbreak of the coronavirus disease (COVID-19) in Los Angeles, California, U.S., November 19, 2020. REUTERS/Mike Blake (United States)写真:ロイター/アフロ

2020年4月3日付「The Washington Post」1,000万人近い米国人が3月の後半に職を失い、学校が休校となり、子どもたちの食事を学校給食に頼っていた親は、平日にフードバンクに殺到した(3)。

米国内に約210あるフードバンクのネットワーク「フィーディング・アメリカ(Feeding America)」によると、フードバンクの需要はコロナ禍で70%増加しており、そのうち40%は、それまでフードバンクを利用していなかった人たちだったという。公共ラジオ「NPR」で、フードバンクの行列に並ぶ女性が「わたしは今までフードバンクに寄付をする側でした。こんなふうに、フードバンクに食料をもらうために並ぶことになるなんて思ってもみませんでした」と涙ながらに語っていたのが印象的だった。

農場で廃棄されるジャガイモ
農場で廃棄されるジャガイモ写真:ロイター/アフロ

2020年4月11日付「New York Times」:レストラン、ホテルや学校の閉鎖により、一部の農家は作物の買い手を失った。ウィスコンシン州とオハイオ州では、酪農家が何千ガロンもの新鮮な生乳を捨てている(1ガロン=3.7〜4.6リットル)。アイダホの農家は、収穫したばかりの玉ねぎを埋めるために巨大な溝を掘った。フロリダでは、トラクターが豆とキャベツの畑を縦横に走り、野菜を土にすき込んでいる。農家は売ることができない何千万ポンドもの余剰の農産物を廃棄するしかない状況に追い込まれている(4)。

世界一豊かな国の現実

ニューヨーク大学のマリオン・ネスレ(Marion Nestle)名誉教授は、コロナ下の米国のフードサプライチェーンについて、次のように語っている。

最も衝撃的だったのは、アメリカには全く異なるふたつの食品サプライチェーンがあることを発見したことです。 ひとつはレストランや学校向けで、もうひとつは小売店向けです。そして、このふたつにはまったく互換性がないのです(5)

外食産業や学校給食のサプライチェーンの川上にいた農家が、コロナ下で販売先を失っても、小売店向けのサプライチェーンにすぐ切り替えるのは難しいという現実がある。例えば、ケース売りしていた野菜を、スーパーに並べるために、小分けにしてパック詰めする作業が、まずハードルとなる。しかも、コロナ禍で収穫時期になっても、例年のように、海外からの季節労働者を雇うことができないのだ。

また、農家が余剰農作物を直接フードバンクに寄付しようとしても、冷蔵倉庫やボランティアの限られているフードバンクでは受け入れられない状況だ。さらに、農産物をフードバンクに輸送するコストは、農家にさらなる経済的負担を強いることになる。

コロナ禍は、食料を買う余裕のない困窮者の急増と、余剰食品の廃棄という、まったく異なる問題を引き起こした。酪農家は学校の休校で不要になった給食用の数千ガロンの牛乳を捨て、農家は収穫できる野菜を畑に捨てた。その一方で、失業した1,000万人近い人や、学校が休校となり、いつも子どもたちの食事を学校給食に頼っていた親は、平日、フードバンクに長い行列を作った。

さて、多くの国民がこんな大変な思いをしていた時、「アメリカ・ファースト」を掲げたあの大統領は何をしていたか?

4月中旬の記者会見でトランプ氏が話したこと。「消毒剤なら(コロナウイルスを)ノックアウトできる。1分で、だ。それを体内に注射して洗浄するようなことができるんじゃないか? 試してみたらおもしろいだろう」

実際に消毒液を飲んだり、注射したりすると、その人が死んでしまう危険性がある。ある大手消毒液製造メーカーはこの発言を受けて、「いかなる状況下でも当社の消毒液を人体に投与しないでください」と声明を出すはめになった。

これもまた、世界一豊かな国の現実である。

以下、有料記事(6,059文字)。

この記事は有料です。
メディアが報じない世界の食品ロス情報 SDGs世界最新レポートのバックナンバーをお申し込みください。

バックナンバーの購入

サービス名

メディアが報じない世界の食品ロス情報 SDGs世界最新レポートのバックナンバー2021年2月サンプル記事

井出留美

価格

220(記事4本)

2021年2月号の有料記事一覧

すべて見る

食品ロス対策や省資源化について、日本の報道は「食料が余る前提」の表面的な内容に偏っています。SDGs世界ランキング上位を占める北欧や欧州はどのような取り組みを行っているのか。食品ロス問題を全国的に広め数々の賞を受賞した筆者が、国際組織から入手する情報を含め、日本メディアが報じない「ここでしか知ることのできない食品ロス問題最新動向」を提供します。

注意事項
  • 購入後も記事の提供を中止させていただく場合があります。

    注意事項」を必ずお読みいただき同意のうえ、ご購入ください。

  • 購入後に記事が表示されない場合はページを再度読み込んでください。

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。Champions12.3メンバー。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/第一回食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

Yahoo!ニュース個人編集部ピックアップ