「アメリカ・ファースト」って何だったの? コロナの時代の食品ロス(米国編vol1)世界レポ(58)

(写真:ロイター/アフロ)

2018年に公開されたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『華氏119』には、まだ大統領になる前のトランプ氏が、「メディアの大変な注目を浴びていますが、どのように対処しますか? まるで嵐ですが?」と問われ、「わたしが嵐だ」と答える印象的な場面がある。それはまるで、ヒンドゥー教の詩篇「バガヴァッド・ギーター」の一節のようではないか。

「我は嵐なり」

例えばその場面に、2021年1月6日、トランプ氏にあおられた大勢の支持者たちが、大統領選挙の結果を審議している連邦議会へなだれこみ、バイデン氏の当選を阻止するために議会議事堂を占拠した映像をつないでも、まったく違和感がない。それだけムーア監督の選んだ挿話が、その後のトランプ政権を予見するものだったということだ。

それにしても、トランプ氏が呪文のように繰り返してきた「アメリカ・ファースト」というのは、結局、何だったのだろう。BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動に対しては「法と秩序」を訴え、州兵による武力制圧もいとわなかった。なのに、自身の大統領選挙の結果となると、不正選挙だったとして支持者たちにデモへの参加を求め、それが連邦議会議事堂の占拠につながった。「法と秩序」もあったものではない。トランプ氏のいう「アメリカ・ファースト」の「アメリカ」からは、抜け落ちているものがたくさんありそうだ。

今回の『コロナの時代の食品ロス(アメリカ編)』。ものごとを「フェイクニュース」か「完全に制御する」か、どちらかにしておきたいトランプ氏。当然、コロナ対策にも食品ロス対策にも、4年間におよぶトランプ政権の影響がにじみ出ていると思われる。

それでは時計の針を戻し、米国の(トランプ氏の)新型コロナウイルス対策から見ていこう。

米国(トランプ氏)の新型コロナウイルス対策

2020年1月21日、世界保健機関(WHO)が「ヒトからヒトへの感染があると見られる」と発表し、米国ではじめての新型コロナウイルスの感染者が確認されると、トランプ大統領(当時)は、メディアからパンデミックの懸念について聞かれ、こう答えている。

「われわれは完全に制御できている。大丈夫だろう」 

2020年1月30日、WHOがコロナを「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」だと宣言すると、トランプ政権は2月2日、中国に過去14日間に滞在していたすべての外国人に入国禁止令を課した。ただ、この時点で、少なくとも43万人が中国からの直行便で米国に入国しており、米国の検査体制も決して万全なものではなかった。

2月に入ってもトランプ氏は新型コロナウイルスについて

「4月になって暖かくなれば死ぬだろう」

「インフルエンザのようなものだ」

「そのうち消えるだろう。ある日、奇跡のように消えるだろう」

と、軽視する発言を繰り返した。

イタリアなどヨーロッパでの感染が拡大し、メディアが不安の声を上げても、トランプ氏は、

「(CNNなどのメディアは)コロナウイルスを悪く見せるためになら何だってやる。アメリカは絶好調だ!」

「わたしの政権はすばらしい仕事をしている。今のところ、死者は一人も出ていない」

「最悪の事態に備えている。米国でのこの病気の感染拡大を防ぐために、 近代史の中で最も積極的な行動をとってきた。準備はできている。完全に」

と主張していた。

トランプ氏は、コロナの脅威を誇張しすぎていると、しばしばメディアを非難した。が、初期のメディアの報道が的を射ていたことは、後々明らかになっている。中国との関係についてもトランプ氏は

「一緒に仕事をしている。米国疾病管理予防センター(CDC)は協力している。昨晩、習近平国家主席とすばらしい会話をした。たいへんな状況だが、彼らはとてもいい仕事をしていると思う」

と説明していたが、実際には、米国からの医療専門家の派遣などの申し出は中国に拒否され、まったく連携は取れていなかった。

さらに、2020年2月初旬にワシントンポスト紙の編集主幹、ボブ・ウッドワード(Bob Woodward)氏がトランプ氏をインタビューした際、トランプ氏がコロナについて、

「非常にやっかいなものだ。ひどいインフルエンザなんかよりも、もっと致命的だ」

と語っていたことが、同年9月に出版されたウッドワード氏の著書『RAGE』で発覚した。トランプ氏は「国民がパニックにならないように、コロナウイルスを軽く見せたかった」と釈明しているが、2月のはじめには、コロナの危険性を十分に知りながら、国民をあざむくような、科学的根拠のない虚偽の主張を繰り返していたことになる。

2020年2月末に米国でコロナ感染による初めての死者が出ると、ワシントン州、カリフォルニア州やニューヨーク州などが、独自に「非常事態」を宣言するようになる(米国では、当初、ニューヨークなど大都市を中心に感染が広がっていた)。

2020年3月11日、WHOがコロナのパンデミックを宣言した。同日、米国のアザール保健福祉長官が 「医師や公衆衛生担当者が処方しない限り、検査を受けることはできない」と発言し、混乱が広がる。米CDC が独自に開発して全国の保健部門に配布した、

WHO未承認の検査キットに欠陥があったことで、さらに現場を混乱させた。この時点で数万人を検査していた韓国などと比較して、米国はかなり遅れをとっていた。トランプ政権は、新たな感染の中心となっているヨーロッパからの感染者が入国するのを防ぐため、30日間、ヨーロッパからアメリカへの渡航を全て停止するよう指示した。

2020年3月13日、トランプ大統領は「国家非常事態」を宣言した。3月16日、コロナ対策として、休校、10人以上の集会の自粛、不要不急の外出や旅行の自粛、レストランでの飲食の自粛、エッセンシャル・ワーカー(社会的基盤上必要不可欠とされる職業)以外の在宅勤務を指示した。

ただ、トランプ氏がどこまで真剣だったかは疑わしい。国家の非常事態を宣言した翌日の会見では

「わが国では、インフルエンザで1年に平均3万6千人が亡くなっている。3万6千人だ。(コロナは)今のところ50人だ」

と語っている。米国で最初のコロナの感染者が出てから1年で、米国でのコロナの犠牲者は42万人を超えている。インフルエンザの犠牲者数の、実に11倍以上だ。(2021年2月12日時点で47万人以上)。

米国での感染拡大に歯止めがかからなくなってくると、トランプ氏は急に態度を変え、

「ずっと前からこれは本物だと、これはパンデミックだとわかっていた。パンデミックと呼ばれはじめるずっと前から、これはパンデミックだと感じていた」

と主張しはじめた。しかし実際は、警鐘が鳴らされ、関係機関からの説明が増えても、トランプ氏はコロナを軽視することに2ヶ月を費やした。この頃から、トランプ氏はコロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼び、感染を食い止めることができなかった中国やWHOに批判の矛先を向けるようになる。

悪いことに、国家非常事態宣言からわずか1週間ほどで、米国の感染者数は10倍以上にふくれあがった。3月22日にニューヨーク州がロックダウン(外出制限)をはじめると、翌3月23日にはニューヨークで株価が急落し、アメリカ経済の低迷を懸念する声が広がった。トランプ氏は同日の会見で「すぐにビジネスを再開する」と表明し、国民の健康よりも経済重視に舵を切ることになる。

では、米国の食品ロスについて、「ビフォア・コロナ」「コロナ・ショック」「ウィズ・コロナ」の3期間に分け、まずは「ビフォア・コロナ」を見ていこう。

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食品ロス対策や省資源化について、日本の報道は「食料が余る前提」の表面的な内容に偏っています。SDGs世界ランキング上位を占める北欧や欧州はどのような取り組みを行っているのか。食品ロス問題を全国的に広め数々の賞を受賞した筆者が、国際組織から入手する情報を含め、日本メディアが報じない「ここでしか知ることのできない食品ロス問題最新動向」を提供します。

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奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。Champions12.3メンバー。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/第一回食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

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