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突然の学校閉鎖、英国1500万人分の給食がごみに 緊急事態宣言の日本は大丈夫か?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
英小学校の学校給食 2014年9月より低学年は無料(写真:ロイター/アフロ)

2021年1月5日、英国政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を予防するため、2020年3月と11月に続き、3度目となるロックダウン(都市封鎖)を、首都ロンドンを含むイングランド全域で開始した。

当初、政府は学校閉鎖に慎重な姿勢だった。なぜなら、学校を閉鎖すれば、子どもの親が働けなくなり、経済的な補填が必要となるからだ。ただでさえ、国は借金を抱えているのに、ますます財政が苦しくなる。

クリスマス休暇明けの学校再開について、ボリス・ジョンソン首相は「私の考えでは、間違いなく学校は安全であり、教育は優先事項だ」と述べた(2020年1月3日、ロイター)。だが1月3日のBBC番組では、学校閉鎖について「望ましくないが、継続する必要があるかもしれない」と話した。

1月4日、小学校・中等学校・大学は、クリスマス休暇明け初日の授業を始めた。しかし、1月4日夜のテレビ演説でジョンソン首相が学校閉鎖を発表したため、翌日5日、再開したばかりの学校の対面授業はリモート授業に切り替わることになった。

2020年の年末から2021年の年始にかけて、英国の学校はクリスマス休暇に入っていた。公立に比べて私立の方が休暇期間が長いので、1月の始業日は学校によって異なるが、各学校は、第3回目のロックダウンが発表される前に、始業してからの1週間分の給食食材をすでに注文し終わっていた。結果として、推定で1500万人分の学校給食は廃棄となり、3,000万ポンド(約42億円)分の食材がごみとして捨てられてしまうだろうと、廃棄物収集業者のビジネス・ウェイストは嘆いている。

Yahoo!ニュースによると、報道官のマーク・ホール(Mark Hall)氏は、「これは国難だ。政府は学校を失望させた」と語った。

「突然の都市封鎖によって引き起こされる食品廃棄の量は驚異的です。前もって告知されていればよかったですが、突然ではフードバンクも困ってしまいます。フードバンクは、通常、生鮮品以外の日持ちする食品しか持っていきません」

Britain's Prime Minister Boris Johnson, January 5, 2021. REUTERS/Hannah McKay/Pool (Britain)
Britain's Prime Minister Boris Johnson, January 5, 2021. REUTERS/Hannah McKay/Pool (Britain)写真:代表撮影/ロイター/アフロ

突如の休校措置は食品ロスを生む

ジョンソン首相の決断の背景には、新型コロナウイルス変異株の強い感染力と、通常株と違い、大人だけでなく子どもも感染しやすいことがある。変異株は、通常株より50〜70%も強いという。2020年1月4日に発表された英国の新規感染者数は58,784人。2020年12月29日から7日間連続で5万人を超える新規感染者が発生しており、医療体制への負担が増していた。

しかし、その傾向は、年末年始の休暇中に、すでに把握できていたはずだ。

A volunteer at the North Enfield Foodbank Charity packs a bag of groceries and other household items for distribution in Enfield as the spread of coronavirus disease (COVID-19) continues in London, Britain March 24, 2020. REUTERS/John Sibley (Britain)
A volunteer at the North Enfield Foodbank Charity packs a bag of groceries and other household items for distribution in Enfield as the spread of coronavirus disease (COVID-19) continues in London, Britain March 24, 2020. REUTERS/John Sibley (Britain)写真:ロイター/アフロ

YouGovによる世論調査によると、英国では、コロナ禍において、政府が学校を休校にしたり再開したりしたことについて、38%が「非常にひどい対応」31%は「かなりひどい対応」だったと回答した。

日本でも、2020年2月末に突如、休校要請が政府から出され、すでに発注していた学校給食の食材の行き場がなくなり、2020年3月、農林水産省が支援して「食べて応援学校給食キャンペーン」特設通販サイトを設置した。その後も、行き場を失った生乳を、福祉施設や医療施設へ無償で配布したり、2度目の学校給食応援キャンペーンを実施したりなど、事業者向けの食材を、急遽、消費者向けに販売し、食品ロスを少しでも出さないように力が尽くされた。とはいえ、すべてが救われたわけではない。

新型ウイルス肺炎が世界に拡大  2020年3月、全国で一斉休校始まる
新型ウイルス肺炎が世界に拡大  2020年3月、全国で一斉休校始まる写真:西村尚己/アフロ

ニュージーランドではコロナ禍で発生する大量の余剰食品の受け皿となる中継基地が誕生

コロナ禍での突然の学校給食の中止や、事業者の休業により、突如として大量の余剰食品が発生する事態は世界各国で起こっている。そんな中、ニュージーランドは、政府の資金援助により、大量の余剰食品の受け皿となるNPO「NZFN(New Zealand Food Network)」を、2020年7月に誕生させた。ロックダウンなどで食品関連事業者から出る大量の余剰食品を大型の冷凍冷蔵庫で一時的に保管し、フードバンクが必要とする時に無償で配達する。

2020年7月の設立から数ヶ月で約150万食分(520トン)を配達した。この拠点はオークランドにあるが、2番目の拠点を準備している。このような場所があれば、イングランドで今回発生した余剰食品も受け入れることができたかもしれない。

New Zealand Food Network 2020年12月24日付Facebookの投稿より
New Zealand Food Network 2020年12月24日付Facebookの投稿より

イギリスでは経済的困窮者の子どもへ民間の支援

イギリスの公立小学校では、幼稚園年長から小2までの3年間は、全員、給食が無償だそうだ。それ以降は一人一食約2.30ポンド(約315円)の給食費を払うが、政府からの支援金をのぞいた世帯収入が年間100万円以下の場合は、小中学校の給食が無料になる「Free School Meals」の制度がある。この無償給食の対象者はイングランドで130万人(2019年)。

2020年3月のロックダウン時、英国政府は無償給食の対象の子どもにランチバウチャー(チケット)を配給する制度を導入した。スーパーマーケットで使える週15ポンド(約2千円)のバウチャーやギフトカードを配布した。サッカー選手の署名運動により、夏休みの間もこれを続けてほしいと政府に要望が出されたが、政府はこれを却下。政府への批判が出たが、その後、地方自治体や民間企業、ボランティア団体から、食事無償提供の自発的な申し出が出てきた。2020年10月の数日間だけでも、無料ランチの提供店舗が数千店も現れた。

日本にも学校給食しか食べるものがない子もいる

日本はどうだろうか。2020年、緊急事態宣言が解除された後も、全国の子ども食堂の4割が、活動を再開できないという報道があった。2020年12月23日の報道では、子ども食堂が全国で少なくとも5,086箇所になったと報じられた(2020年12月23日、沖縄タイムス)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で休止したケースも多いが、弁当や食料の配布や宅配に切り替えるなどして支援を続けているケースも珍しくないという。英国の場合は、一般の飲食店が自発的に支援を申し出ているが、日本ではそのようなケースはまれだ。

家庭で親がご飯を準備しない子どももいる。その場合、学校給食しか食べるものがない。休校になってしまうと、1日1回の食事すらなくなってしまう。2020年2月に日本政府が休校要請を出したときには、茨城県つくば市長が、「たとえ休校でも希望者には給食を提供する」と決断し、共感を得た。

給食を食べる小学生
給食を食べる小学生写真:アフロ

場当たり的な休校要請は、現場に混乱をきたす。2020年1月7日午前10時40分時点で、日本政府は休校要請を出していない。だが、英国政府の判断も突如ひっくり返っている。学校を再開した当日の1月4日の夜になって、学校閉鎖を発表した。

昨今、日本政府の判断には、急遽、方針転換するどんでん返しが見られる。どうか、現場のことを十分に配慮した判断を下してほしいと願っている。

参考情報

Millions of school dinners heading for the bin after government U-turn(Yahoo!News, 2021年1月6日)

Business Waste

3度目封鎖の英、学校閉鎖や罰金 連日5万人感染「ワクチン渡るまで」 新型コロナ(朝日新聞デジタル、2021年1月6日)

イギリスの行動制限は「おそらくさらに厳しくなる」 ジョンソン首相、BBC番組で(BBC JAPAN, 2021年1月4日)

イギリス3度目のロックダウン、変異株の猛威が浮き彫りに(Newsweek, 2021年1月5日)

休校でも給食は希望者へ提供するつくば市の英断 給食が命綱の子どもが日本全国にいる(井出留美、2020年2月29日)

「食べて応援学校給食キャンペーン」特設通販サイトの設置について(農林水産省、2020年3月16日)

世界3億6800万人が給食を食べられず「子どもには食べ物を大切にと言っているのに…」廃棄 新型コロナ(井出留美, 2020年4月18日)

Bridging a gap between food donors and charities(Times online, 2020年11月23日)

New Zealand Food Network

子供の貧困をなくすために:イギリスの学校給食(Global Research 海外都市計画・地方創生情報, 2020年10月26日)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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