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コンビニおにぎり消費期限2倍延長で食品ロスは減るのか?その効果と課題

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
経済産業省の電子タグ(RFID)の実証実験を行ったポプラ鬼子母神店(筆者撮影)

セブン―イレブン・ジャパンの永松文彦社長は、毎日新聞の取材に対し、おにぎりの消費期限を約2倍に延ばす方針を明らかにした。これにより、店頭で販売できる時間を、現在の約18時間から1日半~2日程度に延ばすという。

食品ロスを減らそうという企業努力が以前にも増して進んできたのは素晴らしい。2019年10月に施行された食品ロス削減推進法の後押しもあると思う。ただ、これにより、食品ロスが圧倒的に減るのだろうかというと、次のような理由から疑問が残る。

消費期限の1時間以上手前にある販売期限で棚から撤去し処分

そもそも「消費期限」表示をしている食品というのは、おおむね日持ちが5日以内のもので、品質の劣化が速い。具体的にはおにぎりや弁当、サンドイッチ、生クリームのケーキなどである。下のグラフでいうと赤い線を指す。品質劣化が速いからこそ、消費者は棚の奥に手を伸ばし、できるだけ新しいものを取っていくし、売り手は早めに棚から撤去する。

消費期限(赤)と賞味期限(黄)の違い(Yahoo!ニュース制作)
消費期限(赤)と賞味期限(黄)の違い(Yahoo!ニュース制作)

この短い「消費期限」に加えて、食品業界には3分の1ルールという商慣習がある。賞味期間全体を均等に3分割し、最初の3分の1でメーカーは小売に納品しなければならず、次の3分の1で小売は売り切る、もし棚に残っていたら棚から撤去し処分するというものだ。法律ではなく、食品業界の商慣習である。

食品業界の3分の1ルール(筆者作成)
食品業界の3分の1ルール(筆者作成)

コンビニの場合でも、企業によって異なるが、おにぎりや弁当、サンドイッチなどは、消費期限が切れる1時間〜3時間前に販売期限が切れる。切れると、レジに持っていっても通らない。切れたものは、店員が棚から撤去し、処分する。

2018年夏に発生した西日本豪雨では、コンビニへと食品を運んでいたトラックが、寸断された道路で時間通りに到着できず、「販売期限」ギリギリに到着したため、ほとんど売る間もなく捨てたことを、被災地のコンビニオーナーが嘆いていた

販売期限ギリギリにトラックが着かざるを得なかったため廃棄された食品(西日本豪雨の被災地のコンビニオーナー提供)
販売期限ギリギリにトラックが着かざるを得なかったため廃棄された食品(西日本豪雨の被災地のコンビニオーナー提供)

京都市と、市内のスーパー、平和堂とイズミヤは、この販売期限で棚から撤去するのがもったいないということで、消費期限・賞味期限ギリギリまで売ったらどうなるかという実証実験を1ヶ月間行った。その結果、食品ロスは10%削減され、売り上げは5.7%増加している(対前年比)。京都市は、この実証実験の結果をもとに、減らしづらかった事業系の食品ロスを減らし、2000年対比でついに市内の廃棄物を半減させることに成功している。

短い消費期限を延長する取り組みも敬意を表するが、そのずっと手前にある販売期限を延ばし、消費期限ギリギリまで売ることも、今ある食べ物をしっかりと売り切るためには非常に重要なのだ。これだけ自然災害が毎年頻繁に発生する現在、コロナ禍もあり、今ある食品資源は最後まで大切に食べ尽くす必要がある。

顧客はおにぎり・パンの棚で奥に手を伸ばし、新しい日付のものを取っていく

コンビニ加盟店のオーナーや働く人に聞くと、顧客は消費期限表示のついているおにぎりや菓子パン、牛乳などの棚では、奥に手を伸ばして新しい日付のものを取っていくという。だから、あるコンビニオーナーは「パンは3種類以上の表示は置かない」と話していた。たとえば2020年12月29日、30日、31日の3種類の消費期限のものを並べておくと、手前からではなく、奥の「31日」表示のものをお客が取っていってしまい、期限が迫っているものを残していくので、新しい日付のものはバックヤードに残しておき、期限が迫ったのが売れきってから棚に出す、というのだ。そもそも食品業界では「先入れ先出し」が原則になっている。

たとえ消費期限が延びたとしても、1日前、あるいは2日前に作られたおにぎりを、顧客は積極的に購入するのだろうか?

消費者は、値引きされているなど、メリットが大きければ買うが、同じ値段ならより新しいものを好む鮮度志向を持っている。日持ちが短いおにぎりならなおさらだ。顧客の鮮度志向が過度なものであればあるほど、いくら消費期限そのものが延長されようとも、古いものが棚に残ってしまう。

デンマークでは、賞味期限表示の理解を求めるために、食品パッケージにその意味や、五感を駆使して数字に依存しないような啓発活動を行っている。

デンマークの牛乳のパッケージ。消費期限や賞味期限の意味について書かれている(Too Good To Go提供)
デンマークの牛乳のパッケージ。消費期限や賞味期限の意味について書かれている(Too Good To Go提供)

値引きで売り切ることは全ての顧客に公平な食品ロス削減策

スーパーやデパ地下では、期限が接近したお惣菜や弁当類は、時間に応じて20%引き、30%引き、半額など、値引きしていって売り切っている。

しかしコンビニでは、独自のコンビニ会計という会計法のために、値引き販売が普及していない。セブン-イレブン・ジャパンは「エシカルキャンペーン」と称して100円あたり5円引きに相当するポイントを、自社(ナナコ)カード保持者に付与するキャンペーンを始めた。これ自体は進歩だが、そもそも100円のおにぎりを5円引きという割引率は、見たことがない。しかも、ナナコカードを持っている顧客は、全顧客の20%程度だと関係者は語っている。来店するすべての顧客が公平にメリットを享受するためには、カード保持者のみにポイントをつけるのではなく、価格それ自体を下げたほうがよいし、はるかに割引率も高い。

もちろん、エシカルキャンペーンで1店舗あたり2割のロス削減が見られたのは評価できる。が、そもそも1店舗平均で年間468万円分の食品を捨てている(公正取引委員会発表、以下)という、サラリーマンの平均年収411万円(平成30年、国税庁)を上回るほどの膨大な食品ロスが全国のコンビニで発生していることを忘れてはならない。

2020年9月2日、公正取引委員会が、コンビニ本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書を公表した。加盟店の意に反して本部から仕入れを強要される、ほとんど休みがとれないなどの調査結果がまとめてある。公正取引委員会は、独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」であるとし、大手コンビニ8社に対し、改善の要請を出した。本来、コンビニ本部は加盟店が値引き販売することを禁じてはならないが、コンビニ会計があるがために、積極的に値引きを推奨されないし、加盟店の腰が引けている。

ポプラは、No Food Lossというアプリを導入し、期限が迫ったおにぎりなどを、消費期限が切れる5時間前なら20%引き、2時間前なら50%引きとしている。2020年12月には、経済産業省の電子タグ(RFID)の実証実験にも協力している(ファミリーマートも2020年11月に協力、ローソンは2019年とそれ以前から協力)。

マスメディアは食品業界の裏側まで突っ込んで報道していただきたい

食べられる期限を延長する動きは、何年も前から食品業界で行われている。期限そのものが長く、保存がききやすい賞味期限表示のものについては、容器包装の改良や製造方法の変更などによって、延長がなされている。群馬県の相模屋食料は、豆腐の賞味期限を2週間以上(15日間)まで延長することに成功した。

今回の毎日新聞の記事では、セブン社長が「食品廃棄を減らすことは企業の責任だ」と語ったという文章で締められている。確かに、食品ロス削減推進法施行もあり、企業努力は伝わってくるのだが、はたしてこれが食品ロス削減の本質的な解決策だと信じての記事なのだろうか。

食品業界の商慣習である3分の1ルールが国と業界によって緩和されようとワーキングチームが始まったのは2012年10月だ。それから8年以上経ち、新聞各社も何度も報じてきているはずだ。なぜ、本部が有利なコンビニ会計や「販売期限ギリギリまで売らないのか」という点について突っ込まないのか。なぜ、ポイント付与ではなく、実質値引きを積極的に推奨しようとしないのか(ローソンはしている)。企業が発言したそのままを報じるだけでなく、本当にこれが本質的な食品ロス削減策なのかというところまで論じ、報じてほしい。

参考情報

セブン、おにぎり消費期限2倍に 「廃棄5割減」 21年3月以降 保存料なしでも鮮度保持(毎日新聞 2020.12.28)

セブン、おにぎり消費期限2倍に 「廃棄5割減」 21年3月以降 保存料なしでも鮮度保持(Yahoo!ニュースに毎日新聞の記事転載、2020.12.28)

「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由(井出留美、2018.7.18)

「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増(井出留美, 2018.5.22)

セブン「食品ロス削減」のプロジェクト、効果に疑問?ロス増の店も オーナー6人に聞いた(井出留美, 2020.5.25)

年468万円分食品を捨てるコンビニ 公取に改善要請を受けた本部はパフォーマンスでない食品ロス削減を(井出留美, 2020.9.3)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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