中国「実質ゼロ」 習氏が最近始めた国民運動、実は達成に向けての一環か?

The Bobcat Fire in U.S., Sep. 19, 2020(写真:ロイター/アフロ)

2020年9月22日、世界193カ国の首脳が参加する国連総会が、米国・ニューヨークの国連本部で始まった。

相変わらず、米国のトランプ大統領は、地球温暖化防止の枠組みである「パリ協定」を非難し、世界最大の温室効果ガス(GHG)排出国である中国を強く批判した。

一方、中国の習近平(Xi Jinping:シーチンピン)国家主席は、22日、「2060年までに温室効果ガス(GHG)実質ゼロ」宣言をした。2030年までに排出量を減少に転じさせ、2060年までには二酸化炭素排出量と吸収量を同じにすることで「実質ゼロ」にするカーボンニュートラルを達成するという。習氏は「あらゆる国に対し、コロナ後に、環境に優しい世界経済の回復を実現するよう呼びかける」と語った(2020年9月23日、共同通信)。

中国外務省の副報道局長は、翌日9月23日の記者会見で、この「実質ゼロ」発言が、トランプ政権による中国批判を意識したものであると明らかにした(2020年9月27日付、毎日新聞)。温暖化対策に背中を向け、中国のことを「ウイルスを世界に解き放った国」と強く批判するトランプ政権に対する反逆の意、ということであろう。

9月24日に開催された気候変動対策会合で、COP26(コップ26:第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の議長国であるイギリスのジョンソン首相は、習氏の発言を「中国が前に踏み出した。世界への力強いシグナルだ」と称賛した(2020年9月27日付、朝日新聞)。国際環境保護団体「グリーンピース・インターナショナル」のモーガン事務局長も、「重要な兆候だ。具体的な計画に移すことが大切」とツイートした(2020年9月23日付、共同通信)。

一方、ネガティブにとらえる向きもある。なぜなら、米国を除く主要国は「2050年までにゼロ」を目指しているからだ。「2060年」となると、10年先延ばしにすることになる。

とはいえ、中国が「実質ゼロ」の目標時期を明言したのは今回が初めてなので、国際社会での影響力は小さくはないだろう。米国の責任を際立たせようという狙いもあるかもしれない。

SDGs13番のゴール(国連広報センターHP)
SDGs13番のゴール(国連広報センターHP)

「実質ゼロ」達成可能なのか?

それにしても、大きく打って出た中国。現時点で、世界の温室効果ガスの排出量は、中国が世界最大で、およそ3割を占めている。

米国が続き、インド、ロシア、日本…と続く。ここに、世界中で発生している「食料ロス・食料廃棄」(FAOによる)を合算した量をあてはめると、世界で第三位のGHG排出量となる。

温室効果ガス(GHG)の世界最大国は中国(グラフ左端)、2番目が米国、3番目に相当するのが世界の食料ロス・食料廃棄を合算した値(FAO:国連食糧農業機関の資料より)
温室効果ガス(GHG)の世界最大国は中国(グラフ左端)、2番目が米国、3番目に相当するのが世界の食料ロス・食料廃棄を合算した値(FAO:国連食糧農業機関の資料より)

はたして「実質ゼロ」などということが可能なのだろうか。世界最大の人口、14億人を抱える中国は、再生可能エネルギーを大量に導入している一方で、化石燃料の消費も増えている(2020年9月25日付、北海道新聞)。石炭火力発電の新設計画を加速させてもいる(2020年9月23日付、毎日新聞夕刊)。

目標を掲げる場合、理想の姿を考え、そこから逆算して、今何をすべきかを考える手法を「バックキャスティング」と呼ぶ。SDGs(持続可能な開発目標)は、このようにして生まれた。1番目のゴール「No Poberty(貧困ゼロ)」などは、コロナ禍で、さらに目標が遠ざかりつつあるが、それでも、理想の社会を掲げることに意味がある。

SDGs(国連広報センターHP)
SDGs(国連広報センターHP)

一方、日本は「過去こうだったから」という実績をもとに、石橋を叩いて渡る式の「フォーキャスティング」が主流だ。家庭や事業者から発生している食品ロスを「2030年までに半減」というのも、2000年という、食品ロスが多かった時代を基準にしているのもそうだろう。リスクを嫌い、できそうな目標しか立てない場合が多い。

2013年の「食べ残し撲滅運動」を習氏が7年後の2020年に始める理由とは?

2020年8月中旬、習近平国家主席は、いわゆる「光盤運動2.0」を始めた。盤(お皿)を光(きれいにする・空にする)、食べ残し撲滅運動だ。なかなか改善しない中国の食品ロス問題について「衝撃的で心が痛む」と言及し、「国民の問題意識を高め、倹約の習慣を養い、浪費は恥ずべきことで、倹約は称賛に値する社会環境を育成する」ことを呼びかけた。

海外を含め、日本のメディアも、この食品ロス削減運動の裏には「中国の食料危機があるから」だと報じていた。

このような、食料不足を懸念しての報じ方に対し、北京大学の中国農政センター長の黄氏は「中国の小麦と米の穀物貯蔵量は、昨年の年間生産量を上まわっており、一人当たりの収穫量も474キログラムで、国際的に安全ラインと見られている一人当たり400キログラムを大幅に上まわっている」と反論している。

確かに、中国は、世界最大の食料備蓄国といっても過言ではない。

では、なぜ習氏は、突如として「食品ロス削減運動」を始めたのだろうか。

温室効果ガス「実質ゼロ」達成のためには食品ロス削減は必須

温室効果ガスの排出を抑えるためには、化石燃料を使用した電力の使用を減らすなど、さまざまな対策が必要だ。そして中国の場合、どうしても食品ごみの削減が必要だ。なぜなら、食品ごみ(生ごみ)は、中国の固形廃棄物の50~70%を占めているからだ。中国では、生ごみを焼却処分しており、その際、温室効果ガスが発生する。温室効果ガスの排出量を減らしたければ、食品ロスを削減し、生ごみを減らさなければならない。

米国の温暖化懐疑論者も自宅が山火事に

中国のこの動きに対し、米国はどう動くだろうか。カリフォルニアでは大規模な森林火災が起こり、まさに気候変動が目の前で起こっている状況だ。

共和党のコンサルタント、フランク・ルンツ氏は、2001年当時、ブッシュ政権のもとで、温暖化に疑念を示すスタンスをとっていた。

しかし2020年9月、ロサンゼルスの自宅が山火事に遭い、「温暖化は現実だ」と考えを変えたという(2020年9月26日、朝日新聞有料会員記事)。

2020年秋に控える米国大統領選。候補者であるトランプ氏とバイデン氏の、気候変動への考え方は、まさに180度異なる。

いずれにせよ、温室効果ガス排出を抑えるためには、食品ロスを減らすのが一案であることに変わりはない。温室効果ガス排出国、世界第一位の中国と、第二の米国の動きがカギとなる。

参考記事:

見せてもらおうか、中国の食品ロス「光盤運動2.0」とやらを! 残すのがマナーの国で何が?(36)

「中国、気候、非難合戦」2020年9月24日、BangkokPost、タイ、エマージングニュース

『Newsflash:中国「CO2排出実質ゼロ、60年目標」』2020年9月23日、毎日新聞東京版夕刊1面

『中国、60年までに脱炭素目指す 国連演説で表明』2020年9月23日、共同通信、科学・環境・医療・健康

『温暖化懐疑論者が自宅山火事で一変 米で高まる危機意識』2020年9月26日 朝日新聞有料会員記事

『新冷戦・揺れる世界:国連総会演説 コロナ、米中が非難応酬 米「航空便飛ばし、世界に拡大」/ 中「政治問題化・汚名には反対」』毎日新聞 2020年9月24日 東京版朝刊2面

「国連と英国、世界気候サミットを共同開催へ 12月12日」2020年9月24日、AFPBB News, 時事通信

『(気候危機)温室ガス「ゼロ」、中国の野心 米の洗濯は、大統領選に世界注視』2020年9月27日、朝日新聞有料会員記事

『中国、60年までに「脱炭素」表明」2020年9月25日付、北海道新聞朝刊3面「ニュース 虫めがね」

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。食品ロス削減を目指す、政府・企業・国際機関・研究機関のリーダーによる世界的連合Champions12.3メンバー。著書に『賞味期限のウソ』『あるものでまかなう生活』。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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