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なぜコンビニではスーパーみたいに半額値引きしないの?コンビニ裏事情がわかる動画、20日まで無料公開中

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

なぜコンビニは、スーパーマーケットのように、期限間近の食品を大幅に値引きしないのだろうか?値引きするコンビニもあるが、全国55,000店舗あるうち、ごく限られている。

そんなコンビニの裏事情がわかるドキュメンタリー映画『コンビニの秘密』(39分間)が、2020年5月20日までの限定で無料公開されている。

消費期限よりもっと前の時間帯に設定された販売期限が来たため処分される弁当類(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)
消費期限よりもっと前の時間帯に設定された販売期限が来たため処分される弁当類(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)

なぜスーパーみたいに値引きしないの?

なんでコンビニはスーパーみたいに「20%引き」「30%引き」「50%引き」などにしないのだろう?

それは、値引き(見切り)販売すると、加盟店の取り分は増えるが、逆に本部の取り分が減ってしまうからだ。

コンビニ本部と加盟店の力関係は、契約するか否かの判断を握っている本部が圧倒的に強い。本部の利益にならないことを、あえて本部が積極的に勧めるわけがないだろう。

加盟店11店舗の損益計算書を税理士に分析してもらったところ、見切り販売して売り切ったら、加盟店利益は、しない年より年間400万円以上増えていた。

参考:

「見切り販売はしたほうが儲かる」 コンビニ11店の損益計算書を分析

本部も加盟店も同じ企業のはず。なのに、なぜ本部と加盟店とで利益相反が起こるのだろう?

それはコンビニ特有の会計システム「コンビニ会計」による。売れ残り食品のコストの80%以上は、本部ではなく、加盟店が負担している。

参考:

「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩

コンビニでは見切り販売は禁止されていない(建前上は)

メディアの取材や出演の現場でよく聞く誤解は「え?コンビニって、値引きしちゃいけない決まりなんでしょ?」というものだ。

確かに、以前は見切りを禁止していた。

しかし2009年6月22日に公正取引委員会が株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令を出してからは、本部が見切りを禁じる行為は「優越的地位の濫用」として、表立ってはできなくなった。

2017年から取材してきて知り得る範囲では、コンビニ本部は、直截的に見切りを禁じるのではなく、「2店目をやってもらうからシールは貼らないで(見切りはしないで)」という言い方や、「契約更新、大丈夫ですかねえ?」(契約切られないですかね?)といった、間接的な表現を使う場合がある。

参考:

コンビニオーナーが見切り販売をしない5つの理由

弁当を値引きしているコンビニ(撮影:坂村祐介氏)
弁当を値引きしているコンビニ(撮影:坂村祐介氏)

本部が公的に推奨しないからいつまで経っても見切りは進まない

コンビニ本部の取材でよく聞くのが「見切りは禁止していません」という言葉だ。

ただ、それには続きがあり「禁止はしていない。でも、積極的に推奨もしていない」。

本当に禁止をしておらず、見切りしてでも売り切るようにと本部が指示をしていれば、全国55,000店舗のコンビニのほとんどで見切り販売がされているだろう。実態として、そうとは言えない。

一方、スーパーマーケットは、値段を下げてでも(見切りしてでも)売り切るような努力をしている。これは多くの人が実際に買い物をして目で見ているはずだ。

参考:

販売期限切れの弁当はどうなる?コンビニオーナー座談会でわかった「寄付は絶対しない」の理由とは

欠品が許されない以上、余るのは必至

見切りが100%よいとは思わない。値引きしないで定価で売れるのが一番いいだろう。

でも、多くの売り手は、欠品(棚に空きが出ること)を納品者であるメーカーやベンダー(商品納入業者)に許さない。商品があれば売れたはずなのに、なければ、その分だけ売り上げが落ちる。客から「なんでないの?」とクレームが来る。欠品したら、納入業者であるメーカーやベンダーは、ペナルティ(補償金)を払うか、もしくは取引停止の可能性を示唆される。

欠品したら取引停止になるから欠品できない。となれば、毎回、余らざるを得ない。売れ残れば期限が迫ってくる。デイリーと言われる、消費期限が短いもの(5日以内)であれば、期限が近づけば近くほど、本来は、価値が下がる。だったら値引きしないと売れないでしょう。

しかも消費期限ギリギリまで売らない。その手前に販売期限があるので、そこで棚から撤去して処分する。

参考:

「廃棄1時間前に入ってきたパン、ほとんど捨てた」食料が運ばれても西日本豪雨被災地のコンビニが嘆く理由

西日本豪雨でトラックが遅れたため、販売期限が切れてしまい、廃棄する食品(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)
西日本豪雨でトラックが遅れたため、販売期限が切れてしまい、廃棄する食品(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)

なぜコンビニのペットボトルはスーパーより2倍高いの?

なぜコンビニでペットボトル飲料を買うと、スーパーの2倍の値段がするのだろう?

コンビニオーナーによれば、仕入れる時点ですでにスーパーの売価(売り値)より高いそうだ。だったら、そこにマージンをのせれば、スーパーの2倍くらいになってしまうだろう。

一口に「コンビニ」といっても、企業や店舗によって廃棄金額は様々だ。月に60万円(分の食料を捨てる)のが平均で、多い店舗は月120万円という店もある。

参考:

「月120万の廃棄」「もったいないから食べてたら8キロ太った」コンビニオーナー2名に聞く

トイレットペーパーや割り箸、おしぼりなどもオーナー負担

コンビニで配られる割り箸やおしぼりなどは、オーナーが購入しているという。トイレットペーパーもだ。

トイレを使っていながら何も買わずに店を出る客は、その店が有料で購入したトイレットペーパーや、水道局に月何万円も水道代を払っている水を、無料で使っていることになる。

コンビニの裏事情がわかる動画『コンビニの秘密』5月20日まで無料公開中

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりにより、一部の国では食料輸出規制をしているとの報道もある。食料自給率37%しかなく、海外に食料を依存している日本。大量に食品を捨てている場合ではない。

コンビニも、この映画が撮影された2017年から、だいぶ変わってきた。食品ロス削減に取り組もうとする姿勢も見えてきた。はたしてどのコンビニが本当に食べ物を大切に扱い、売り切っているのかを確認して、買い物を通して応援したい。

コンビニの裏事情がわかるドキュメンタリー映画『コンビニの秘密』は、2020年5月20日までの期間限定で無料公開中だ。普段、便利に使っているものの裏側には、誰かの我慢やコスト負担があるということを、多くの人に知って欲しい。

映画『コンビニの秘密』(PARC公式サイトより、敬称略

【監督】

土屋トカチ

【監修・取材】

古川琢也

  (ルポライター)

【取材協力】

コンビニ加盟店ユニオン

ファミリーマート加盟店ユニオン

NPO法人ノーソンくらぶ

株式会社日本フードエコロジーセンター

首都圏青年ユニオン

ブラックバイトユニオン

近藤惠津子(CSまちデザイン理事長)

中野和子(弁護士、コンビニ・フランチャイズ問題弁護士連絡会事務局長)

鈴本一郎(仮名、元大手コンビニ社員)

上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)

石川一喜(拓殖大学国際学部准教授)

関 良基(拓殖大学政経学部准教授)

ナスシ

DVD/16:9/2017年/日本語/カラー/39分

本体5,000円+税(図書館価格:本体15,000円+税)

参考情報:

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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