近頃流行りの「忘年会スルー」に「違う!そう!」と言いたい理由

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「忘年会スルー」という言葉が話題となっている。「忘年会スルー」は、年末に職場などで開催される忘年会に参加しないこと。「スルー」は、英語のthrough(スルー:「~を通って」など)から転じ、「既読スルー」のように、「無視する」といった意味でも使われる。テレビやインターネットの記事でも「忘年会スルー」が取り上げられているようだ。

飲酒の強要は違法になるケースも

職場の飲み会に不参加を表明する人が増えるのは良い傾向だと考える。筆者自身、2011年の震災を機に独立する前は会社員で、会社の、特に営業部門や工場の飲み会は率先して出ていた。だがそれは、飲み会自体が好きというより、現場で働く同僚たちが好きだったからだ。

その組織で働いているからといって、必ずしも全員がその職場の人を好きか?と言えば、そんなわけはないだろう。本来、飲み会は「主」ではない。就業時間にきちんと仕事さえすれば、他の時間はどう使おうが自由なはずだ。就業時間に仕事をする、その対価として、我々は報酬を得て生活している。仕事なら多少の我慢もわかるし、組織が会の費用を負担する、あるいは育児中などの職員に配慮して就業時間内に社内で気軽な会を開催するのはいいと思うが、就業時間外の飲み会を、お金を払って我慢してまで出るなんて、貴重な時間(=命)と労力と精神力とお金の無駄だと思う。

ある記事では、サラリーマンで居続けて出世するためには忘年会のコストなんて安いものだから我慢して出ろ、という趣旨が書かれていた。そんなことまでしないと出世できないような組織なんて、ろくなもんじゃない。承認欲求が強い人ほど出世したいのだろうが、地球規模で見れば、自分の所属している組織なんて米粒以下の大きさだ。そんな小さな組織の中で多少職位が上がったからといって、"So what?"(だから何?)。小さな組織で威張るような人は、謙虚さのない人。目の前しか見えておらず、全体、つまり、業界や社会全体を俯瞰する能力のない「井の中の蛙(かわず)」に過ぎない。

2019年12月14日付の弁護士ドットコムニュースの記事、地獄の忘年会「俺の酒は飲めないのか?」 アルハラ上司に怯える日々によれば、嫌がる従業員に飲酒を強要することは、場合によっては違法だと説明されている。

なんでも「スルー」でいいのか?

一方、嫌なことや面倒なこと、興味のないことを「スルー」してやり過ごすだけでいいのか?という違和感もある。忘年会レベルならいいのかもしれないが、もっと大切なことまで「スルー」する風潮も否めない。選挙の投票率の低さは「スルー」する人が多いからでは?

日本の中にもいろんな人がいるから一概には言えない。が、日本の諸々の問題の中には、人々が、生活のために「嫌と言えない」「(上に)逆らえない」「間違っていることに対してNOと言わない」から起きていることもあると感じる。

食品ロスが最も起こりやすい外食の場面は?

たとえば事業系の食品ロス。日本の多くのスーパーやコンビニ、百貨店などでは、棚が空っぽになること、つまり「欠品」は許されない。

福岡県柳川市のスーパーまるまつでは欠品を許容している(筆者撮影)
福岡県柳川市のスーパーまるまつでは欠品を許容している(筆者撮影)

筆者が勤めていたような食品メーカーに対し、「欠品を起こしたら、おたくの会社とは取引停止にしますよ」と強い態度に出る小売企業もある。たとえば調味料ひとつとっても、醤油、味噌、マヨネーズ・・・など、同じカテゴリの商品であれば、様々なメーカーが製造しているから、たとえ一社との取引を切ったとしても、売り手は困らない。強いバイイングパワー(販売力)のある売り手は、作り手より、常に強い立場(優越的地位)にある。本来、公正取引委員会により、優越的地位の濫用は禁じられているが、実際には、その優越的地位が濫用されているケースもある。

メーカーは、欠品を回避するためには、常に作り過ぎなければいけない状況に追い込まれる。足りないのはご法度。とにかく売ってもらうためには、余るくらいにしておかないと。作っているものを捨てたくはないが、小売企業に売って頂いている以上、嫌とは言えない。そのような声を、筆者はメーカーを退職して以降、たくさん聴いてきた。

では外食の食品ロスはどうだろうか。

平成27年度の農林水産省 食品ロス統計調査(外食調査)によると、一般の食堂・レストランでの食べ残し率は3.6%。一方、結婚披露宴は12.2%、宴会は14.2%と、一般の食堂やレストランに比べて1桁多くなる。

外食での食べ残し発生率(単位:%、平成27年度 農林水産省 食品ロス統計調査 外食より)
外食での食べ残し発生率(単位:%、平成27年度 農林水産省 食品ロス統計調査 外食より)

常々思うのは、飲み会も披露宴も、「飲食するのが第一の目的ではない」ということだ。飲み会は、そこに集う人と交流するのが一番の目的だろう。披露宴は、お祝いするのが目的であって、ご馳走を食べに行くわけではない。

また、飲み会や披露宴は、えてして「その場に居たくない」人も参加するものだ。誘われたがゆえに、致し方なく、出る。

イタリアは大人数の飲み会やコース料理が少ない

イタリアは、日本のいわゆる「宴会」が少ないと聞いた。情報源は次の3つ。

(1)2018年10月のイタリア取材で同行してくれた会社のイタリア人

(2)同じく2018年10月のイタリア取材に同行してくれたイタリア在住の日本人

(3)現在、イタリアと日本を行き来して2か国で暮らしているイタリア人

(1)から伺った内容。もちろん、会社の同僚と食事には行くけど、10人20人の単位では行かない。気の合った数人で行く。食べるものはコース料理ではなく、パスタやリゾットなど、食べたいものを1品。

(2)から伺った内容。イタリア人は、仕事帰りにバール(バー)で軽く一杯か二杯飲んで、帰宅する。食事は家族と一緒にする。日本の勤め人みたいに、毎晩、飲み歩いて家族を放りっぱなしにはしない。

(3)から伺った内容。日本はコース料理が多過ぎる。イタリアは外食が高いし、ビュッフェみたいのは、せいぜいホテルの朝食くらい。日本のような大掛かりな忘年会みたいのは無い。

イタリア・ピエモンテ州の取材で。食品ロスのうち、外食で発生するのは7%(筆者撮影)
イタリア・ピエモンテ州の取材で。食品ロスのうち、外食で発生するのは7%(筆者撮影)

イタリアでは日本の食べ残しゼロ運動「30・10(さんまるいちまる)」が理解されなかった

宴会の食べ残しをなくす運動は、福井県が早い段階で始めている。その後、長野県松本市が「30・10(さんまるいちまる)」と名付け、全国に広がった。今や環境省が啓発ツールを作るまでになっている。

筆者も、この三角柱POPを常に持ち歩いており、これまで30個以上を作り、たくさんの方に配った。

飲み会のテーブルにこれを置いておくだけでも、参加者が食べ残しを防ごうとする行動に効果がある。

「30・10(さんまるいちまる)」のPOPを置いて食べ切った食事の席(高山千香氏撮影)
「30・10(さんまるいちまる)」のPOPを置いて食べ切った食事の席(高山千香氏撮影)

2018年10月のイタリア取材でも、当然、このPOPを持っていった。

だが、イタリア語の通訳を介しても、現地の方にはあまり理解されなかった。

イタリアで、日本の食べ残しゼロ運動「30・10(さんまるいちまる)」運動を説明する筆者(真ん中)と、同行してくれた佐藤友啓さん(右)と現地の会社の女性(左)Francesca Nota氏撮影
イタリアで、日本の食べ残しゼロ運動「30・10(さんまるいちまる)」運動を説明する筆者(真ん中)と、同行してくれた佐藤友啓さん(右)と現地の会社の女性(左)Francesca Nota氏撮影

それはおそらく、イタリアでは、日本のいわゆる宴会のような席が少ないからではないだろうか。「最初の30分間は席について食事をし、最後の10分間は席に戻ってきて食べる」というルールは、大人数の食事会にしか適用せず、4人くらいの食事では通用しない。

時間をきっちり決め、大勢でそれを守るというのは、語弊はあるが、軍隊的でもある。

飲食を目的とした食事会だったら、そんなルールなんてなくても食べることに集中するし、食べたいものを選んでそれなりのお金を払っていれば、残すことは少ないだろう。

裏を返せば、食べ残しが発生するというのは

  • 自分で選んでいない、食べたくない食べ物や飲み物が並んでいる
  • その場にいたくない、出たくない会に出ている
  • 飲食が第一義の目的でないのに大量に飲食物が出される

といった状況なのではないだろうか。

焼肉屋では注文したのに焼いていない肉が残されていることもある(筆者撮影)
焼肉屋では注文したのに焼いていない肉が残されていることもある(筆者撮影)

NHK『いだてん』のまーちゃんのように「違う!そう!」と言いたい

2019年12月15日に最終回を迎えた、NHK『いだてん』。主人公の一人、俳優の阿部サダヲさん演じる田畑政治(まーちゃん)の口癖は「違う!そう!」だった。『いだてん』は、スポーツ紙を中心に、視聴率の低さばかりが取り沙汰されたが、熱烈なファンが観続けていたことは、境治(さかい・おさむ)氏の記事からもよくわかる。

話題の「忘年会スルー」も、その心は理解できる。が、本来、理想なのは、強制される飲み会の全てが撲滅することではないだろうか。忘年会は、やりたい人だけやればよく、職場の義務にまでしなくていい。

忘年会に限らず「こうしたほうがいいのでは?」と思うことに対し、ただ口を閉ざしてスルーするだけでなく、誰もが遠慮なく意見を言える社会にしていきたい。なんでもスルーする風潮には「違う!」と言いたいが、強制される飲み会を無くすことについては「そう!」と言いたい。

ついでに言うと、テレビドラマの中身ではなく、毎回、視聴率のことしか報じることのできない記事も、この際、撲滅すればいいと思う。

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。世界資源研究所(WRI)とオランダ政府が運営し食品ロス削減を目指すチャンピオン12.3メンバー。著書に『賞味期限のウソ』『食品ロスをなくしたら1か月5000円の得』。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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