なぜ日本は米国産余剰トウモロコシ数百億円分を購入決定すべきでなかったか *追記あり

(写真:ロイター/アフロ)

追記(2019年8月26日午前11:31)

この記事を書いた時点(2019年8月26日午前8:19)で引用した記事(同日午前0:36)には、今回購入するトウモロコシが(人間の)「食用」か「飼料用」かは明記されていなかったため、食用も想定に含めて執筆いたしました。が、その後、配信された同日午前10:22の記事には、今回のトウモロコシが飼料用であることが明記されました。以下の記事は、飼料用のみを想定した内容になっていないことをあらかじめお伝えします。記事をお読みいただいた方から、生鮮用に供されるトウモロコシではなく、畑である程度乾燥させて、収穫時にイヤー(コーンコブ)粒を分離させた商品を指しており、フードバンクへの寄付には馴染まない商品であることなど、専門的なご指摘をいただきました。ご指摘いただいた方々、ご丁寧にご連絡をいただいた方々、ありがとうございました。

日本政府が米国産余剰トウモロコシ数百億円分を購入

2019年8月26日付の時事通信は、トランプ米大統領と安倍晋三首相が8月25日の日米首脳会談で、日本が米国の余剰トウモロコシ数百億円分を購入することで一致したと報じた。

Yahoo!ニュースでも報じられたため、記事にコメントしたが、日本政府は米国産の余剰トウモロコシ数百億円分を購入決定すべきではなかったと考える。

購入決定すべきでなかった理由その1 米国には余剰農産物を国が買い上げ福祉に活用できる法律がある

米国には、余剰農産物を国が買い上げ、必要とする人に活用できる法律がある。1954年に制定された、農業貿易開発援助法である。

かつて米国議会は公法480条(PL-480)を可決し、米国農務省に、余剰農産物を購入して援助する許可を与えた(Guptill, Copelton & Lucal, 2013)。

オバマ政権だった頃、乳製品の生産量がだぶついたため、米国政府がこれを買い上げ、米国内に210以上あるフードバンクへ寄付したことがあった。

米国では、1967年に世界初の「フードバンク」が誕生している。フードバンクとは、まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限接近などの様々な理由により、商品としては流通できないものを引き取り、食料を必要な人や組織へとつなぐ組織のことである。日本でも、北海道から沖縄まで80以上のフードバンクが活動を続けている。

米国のフードバンクに関する論文を読むと、政府からの農産物の寄付が多いことがわかる。たとえばサンフランシスコなど、野菜や果物などの農産物の取り扱い量が多いフードバンクでは、米国政府からの穀物や野菜の寄付量も多く、全体の取り扱い量の2割を占めるケースもある。もちろん、野菜といっても、青菜類などではなく、じゃがいもや玉ねぎなど、比較的日持ちしやすい野菜が中心だ。それでも、野菜の摂取が不足しやすい生活困窮者にとっては、栄養バランスをとるための大きな助けになる。

米国はもともと低福祉なので、食品寄付者に万が一の意図せざる食品事故の責任を問わない「善きサマリア人(びと)の法」や、SNAP(通称スナップ:補助的栄養支援プログラム:Supplemental Nutrition Assistance Program)など、法律や制度が整っている。生活困窮者が、スーパーマーケットへ持っていくと、食品や飲料と交換してくれる「フードスタンプ(Food Stamp)」も、SNAPの一例だ。

もっとも、トランプ政権は2017年、SNAPなどの困窮者支援予算を削減している。余剰農産物を、売ってお金を得るならともかく、無償で寄付する考えは、オバマ政権時代より薄いだろう。

購入決定すべきでなかった理由その2 日本の主食はトウモロコシではない

第二に、日本の主食はトウモロコシではない。2019年8月12日に独立行政法人農畜産業振興機構が発表した「トウモロコシの需給表」を見ても、日本は米国のトウモロコシ消費量の20分の1以下しかない(2019年、米国では3億685万トン、対して日本は1,560万トン)。

しかも、日本が輸入しているトウモロコシのうち、65%は飼料用だ。人間が食べるのではなく、家畜が食べている。

日本のトウモロコシ 用途別輸入割合(トウモロコシ情報総合サイト、トウモロコシノセカイ)
日本のトウモロコシ 用途別輸入割合(トウモロコシ情報総合サイト、トウモロコシノセカイ)

日本政府は、輸入に依存している飼料の自給率も上げるべく、目標に掲げてきた。数百億円かけて輸入するのはどうなのか。そして、今回輸入するトウモロコシは、日本の家畜の飼料として、はたしてふさわしいのか。

購入決定すべきでなかった理由その3 米国産トウモロコシは遺伝子組換え

第三に、米国産のトウモロコシは、遺伝子組換えだ。

遺伝子組換えについては倫理上、賛否両論あり、その議論は専門家の方に譲りたい。

だが、日本の状況を見ると、米国のように遺伝子組換えが受け容れられてはいない。

筆者は米国に本社があるグローバル食品企業に勤めた経験がある。その会社は、トウモロコシを主原料とする食品(コーンフレーク)を、世界180カ国で展開していた。米国では遺伝子組換えOK。でも、たとえ同じブランドの傘下にある会社でも、ヨーロッパと日本の流通業や消費者は、遺伝子組換えを許容しない。企業として経営し続けるなら、食品を購入してくれる流通や消費者が受け容れるための配慮をするのは必須だ。

日本では、遺伝子組換え食品の含有量によって、その表示必要性が異なる。含有量が少なければ、遺伝子組換えを分別しているか、分別していないか、その表示の必要性はない。

つい最近も、消費者庁から遺伝子組換えに関する新しい制度が発表されている。

今回、米国産の遺伝子組換えトウモロコシを日本が数百億円分購入することが決定され、安倍首相は、民間企業に対する輸入支援措置を検討する意向を示したという(2019年8月26日付、時事通信社の報道による)。

だが、前述の通り、日本の輸入トウモロコシの過半数は、飼料用だ。

トウモロコシの遺伝子組換え表示が必要なコーンスナック菓子やコーンスターチ、ポップコーンなどの9種類のトウモロコシ加工食品では、遺伝子組換えであることは表示義務である。

今回の件に限らず、日本の食品メーカーで、義務表示の遺伝子組み換えトウモロコシを積極的に使う企業は少ない。

数百億円の使い道として適切かどうか

以上、日本政府が米国の余剰トウモロコシ数百億円分購入を決定すべきではなかった理由のうち、3つを述べた。

時事通信社の記事には、今回のトウモロコシが飼料用であるとは明記されていないが、「デント種(馬歯種)なので飼料用のみ」とする意見もあるようだ(だが、デント種コーンは、100%飼料用ではなく、コーンスターチやコーンフレークなど、人間の食用としても使われている)。

日本社会に広く許容されていない遺伝子組換えトウモロコシ。しかも輸入トウモロコシの過半数が家畜の食べ物として使われている日本。米国産の遺伝子組換えトウモロコシは、家畜用として数百億円を費やすべきなのか。