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コンビニ・スーパー・飲食店が、食べられるのに大量廃棄する食品ロスを減らすための具体的な10の事例とは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
まだ食べられるのに捨てられるおにぎり(日本フードエコロジーセンターにて筆者撮影)

2017年3月から2019年6月までの2年4ヶ月間、食品ロスを減らすための記事を書いてきた。

現場の取り組みを取材し、国内外で「食品ロス」をテーマにした講演をする中で、具体的に、事業者と消費者から発生する「食品ロス」を減らすための提言もしてきた。

その中で、記事に対して最もクレームをつけてきたのは、大変残念ながら、大手コンビニの関係者だ。

あるコンビニオーナーからのツイート

たとえば、2019年6月20日の記事については、大手コンビニ加盟店で3店舗を経営するオーナーが、「ただの文句」「もっとロスを削減させる手法等の建設的な取組を記事にすればいいのに」「ロス削減のために発注精度をこうやって上げてますとか売場はこうやって工夫してますとか売り切る為にこうやってますとか、いつも『本部は』『見切り販売が』じゃなくてもう少し役に立つ記事書けないか」とツイートしている。

建設的なロス削減の取組記事は何度も書いている

「ロスを削減させる手法等の建設的な取組を記事にすればいい」とのことだが、すでに書いている。

その中から10の事例を挙げてみる。

事例(1)食品業界の商慣習「3分の1ルール」を緩和し販売期限をやめることでスーパーの食品ロス10%削減

コンビニでもスーパーでも百貨店でも、賞味期限や消費期限の手前に「販売期限」がある。その販売期限で商品棚から撤去し、返品もしくは廃棄されてしまう。それをせずに賞味期限や消費期限ギリギリまで売ったらどうなるか。京都市が市内スーパーで行なった結果では食品ロスが10%削減された。コンビニでもこれは今すぐできるし、実際にそうしている加盟店オーナーもいる。

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コンビニでは賞味期限や消費期限の手前に販売期限があり、そこで商品棚から撤去して廃棄する(筆者撮影)
コンビニでは賞味期限や消費期限の手前に販売期限があり、そこで商品棚から撤去して廃棄する(筆者撮影)

事例(2)気象データの活用により年間2000万円以上のロス削減を実現した日本気象協会と食品業界

IoTを活用し、需要予測精度を向上させることによって、食品ロスを年間2000万円以上も削減した企業がある。日本気象協会は、食品メーカーだけではなく、食品小売業とも連携して、年間の食品ロスを20%から30%削減することを実現し、利益率の向上に大きく貢献している。

7月に売れる商品・売れない商品「対前年増で目標設定」はもう古い?!異常気象が当たり前の今、重要なこと

2019年7月に売れると予測される商品(日本気象協会)
2019年7月に売れると予測される商品(日本気象協会)

事例(3)欠品ダメではなく販売数に上限を設けて食品ロスをほぼゼロにした飲食店・パン屋・スーパー

ほとんどの食品小売業は「欠品を悪」としている。中には(売上)「機会損失」は絶対あってはならぬと禁じる企業もある。だが、欠品を禁じるのではなく、販売数を限定して食品ロスをほぼゼロにし、働き方改革も含めて数々の顕彰制度で受賞している飲食店がある。

50食しか売ってはいけない!働き方のフランチャイズ目指し 売上増や機会損失からの脱却と従業員の幸せ

国産牛ステーキ丼(京都・佰食屋で、筆者撮影)
国産牛ステーキ丼(京都・佰食屋で、筆者撮影)

捨てないパン屋は働く時間や販売個数を持続可能なものにしている

飲食店だけではなく、パン屋でも同様の事例がある。働く時間や売る個数に上限を設け、2015年秋からパンを1個も捨てていない。

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広島の「捨てないパン屋」ブーランジェリー・ドリアンの田村夫妻(筆者撮影)
広島の「捨てないパン屋」ブーランジェリー・ドリアンの田村夫妻(筆者撮影)

飲食店やパン屋だけでなくスーパーでも 欠品を許容し食品ロスをなくす

欠品を許容しているのは飲食店だけではない。スーパーでも、創業当時から欠品を許容し、地元の顧客に支持され続けている店もある。

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スーパーマルマツ(筆者撮影)
スーパーマルマツ(筆者撮影)

事例(4)「対前年増」ではなく、前年実績で売って完売させる

多くの食品小売業が目標設定で使う「対前年増」ではなく、前年と同じ実績で売り、完売させたスーパーは、2019年1月、農林水産省が全国の小売業に通知を出した際、ロールモデルとされた。

君たちはどう売るのか 大量の恵方巻廃棄にスーパーが投じた一石「対前年比○%増」は成長指標として万能か

2019年2月3日夜、閉店前に売れ残る恵方巻き(筆者撮影)
2019年2月3日夜、閉店前に売れ残る恵方巻き(筆者撮影)

事例(5)ロス間近の野菜を惣菜に活用、地域の皆で料理して食べる会や子ども食堂への寄付をするスーパー

鮮度が落ちてきた野菜は、スーパーの場合、見切りにするか、廃棄する。そのような食品ロス間近の野菜や果物を惣菜に活用したり、地域の人たちで集まって食べる会に寄付しているスーパーもある。

スーパーマーケットで食べ物捨てずに「ゆるく細く長く」自然体で惣菜作りと0円キッチン「寛容な社会に」

ロスになる前の野菜を惣菜にして販売するスーパー、ショッピングストア今川(筆者撮影)
ロスになる前の野菜を惣菜にして販売するスーパー、ショッピングストア今川(筆者撮影)

全店舗で食品ロス間近の食品を子ども食堂や福祉施設に寄付するスーパーマーケット

全店舗で、食品ロス間近で廃棄される前に救い出し、食料品を子ども食堂や福祉施設へ寄付しているスーパーもある。

子ども食堂へ食品を寄付するスーパーのフードバンク 1店舗月10~15万円の廃棄コストと食品ロスを削減

子ども食堂へ寄付するハローズ(筆者撮影)
子ども食堂へ寄付するハローズ(筆者撮影)

事例(6)賞味期限切れ食品を廃棄せずに販売して食品ロスを減らす

賞味期限は、美味しさの目安であり、品質が切れる日付ではない。そこで、最近では、賞味期限切れ食品を安価に販売して、食品ロスを減らそうとする小売店も出てきて、メディアの注目を浴びている。

「賞味期限切れ食品を販売することは法律的に問題ないの?」

事例(7)なんでも奥から新しい日付を取るのではなく、今日食べるなら手前のものを取る消費者の姿勢も重要

コンビニやスーパーで売れ残った食品や、飲食店の食べ残しは、事業者が100%処分コストを負担していない。市区町村の家庭ごみと一緒に焼却処分されるため、税金が投入される場合が多い(東京都世田谷区では事業系一般廃棄物1kgあたり57円)。

食べきるのに日にちがかかる食料品ならいいが、今すぐ食べるものを買うときまで商品棚の奥に手を伸ばす人が多い。今日食べるなら手前から取ることで、店の廃棄は少なくなり、店の廃棄コストも焼却処分に使われるコストも減る。

農林水産省や消費者庁、環境省が啓発ツールを作っているので、それを店頭に掲示し、消費者の意識を喚起することもできる。

スーパーの食品「奥から取るのは悪いのかな?」今日食べるあんパンでも明日以降の賞味期限のを取りますか?

京都のスーパー、八百一(やおいち)本館(筆者撮影)
京都のスーパー、八百一(やおいち)本館(筆者撮影)

事例(8)IoTにより期限が接近すると自動値引き(ダイナミックプライシング)

消費者は、「同じ値段なら新しい方を選ぶのは当然」ということで、値段が同じで期限が違うと新しいものから売れる傾向がある。そこで、期限が接近すると、自動で値引きして表示される「ダイナミックプライシング」の仕組みがある。海外や日本で実証実験されている。

食品ロス削減できるダイナミックプライシング(期限接近で自動値引)実証実験中ツルハドラッグへ行ってみた

ツルハドラッグなどで検証された経済産業省のダイナミックプライシング(筆者撮影)
ツルハドラッグなどで検証された経済産業省のダイナミックプライシング(筆者撮影)

事例(9)IoTにより在庫管理をたやすくして食品ロス削減(電子タグ)

実現までは時間がかかるが、電子タグは、現在使っているバーコードよりも読み取れる情報量が多く、フードサプライチェーンの中での在庫管理をしやすくし、食品ロスを減らすことが期待されている。

経済産業省 コンビニ電子タグ1000億枚宣言は実現可能か プロジェクトトップランナーのローソンに聞く

電子タグ(ローソン提供)
電子タグ(ローソン提供)

事例(10)食品ロスを減らすための法律成立

2017年2月、国会議員らに提言し、関係者らの努力によって2019年5月24日に成立した「食品ロス削減推進法」は、建設的に食品ロスを削減するための法整備だろう。これから政府が基本方針を策定し、それに基づいて自治体や事業者が計画を立てていくので、関係者の意見を反映させることは可能だ。

日本初「食品ロス削減推進法」が本日ついに成立!2019年5月24日午前10時からの参議院本会議で可決

食品ロス削減推進法成立のための緊急院内集会(筆者撮影)
食品ロス削減推進法成立のための緊急院内集会(筆者撮影)

本気で食品ロスを減らそうとしているコンビニ関係者の応援が救い

以上、他にも食品ロス削減の施策はあるが、その中から10の事例を挙げてみた。

冒頭のオーナーのツイートを読み、何を書いても文句をつける人はつけるのだと失望した。ご自分の店で建設的手法により食品ロスをゼロにしているのなら、ぜひ取材させて頂きたい。

これまで食品ロスの講演を依頼してきたスーパーや百貨店、食品メーカー、ホテル、小中高校や大学、学会、省庁、消費者団体など、食品ロスをとりまくさまざまな業界のうち、残念なことに一度も依頼がないのはコンビニ業界だ。ただ、食品ロスを本気で減らそうとしている有志のオーナーの方は、独自に依頼してきてくれた。何年もかけて積極的に食品ロス削減に取り組んでいるコンビニ企業もあるし、社員もいる。

一人でも多くの人が、「食べ物を捨てることは、それに関わる資源やエネルギーや人件費や努力など、すべてを捨てることだ」と気づいて、行動に移してほしい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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