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食品ロス削減の法整備など政策が整った国ベスト10 フードシェアアプリ事例が紹介された日本の順位は?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

2019年5月14日、「食品ロス削減推進法案」が、衆議院の消費者問題特別委員会で可決された。5月16日に衆議院本会議を通過し、参議院、国会へと送られる見通しと報じられている。

食品ロスを減らすための法整備は、日本では、まだこれからだ。

では、世界各国ではどうだろうか。

英国の経済誌「エコノミスト」の調査部門であるEIU(The Economist Intelligence Unit:エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)などによる、2018年の調査報告書「FIXING FOOD(フィクシング・フード) 2018」を見てみたい。

世界初の食品ロス禁止法が成立したフランスでは農業省の職員が飲食店の持ち帰り用「グルメバッグ」の公式サイトやシールを制作していた(筆者撮影)
世界初の食品ロス禁止法が成立したフランスでは農業省の職員が飲食店の持ち帰り用「グルメバッグ」の公式サイトやシールを制作していた(筆者撮影)

食品ロス削減の法整備など政策が整っている国トップ10

EIUなどによる調査報告書「FIXING FOOD 2018」の29ページから33ページにかけて、食品ロス(Food Loss and Waste、注)に関する内容が掲載されている。

注:「Food Loss and Waste」

ちなみに日本では食品ロスを指して「フードロス」と呼ぶ場合があるが、海外の人にそのまま「フードロス」と言ってしまうと、日本で指す食品ロス(可食部:食べられる部分)ではなく、真逆の意味になる。筆者は、日本ではできるだけ「食品ロス」という表現を使ったほうがいいと考えており、英語の場合はFood Loss and Wasteという表記にしたほうが、海外の方にも本来の意図が伝わると思い、そうしている。このことは2018年10月に京都大学で開催された第二回食品ロス削減全国大会の前日にも、食品ロスを研究する研究室で、海外の研究者と京都大学の先生とでお話しがあった

イタリアのスーパーでは色がまだらなパプリカも販売されている(筆者撮影)
イタリアのスーパーでは色がまだらなパプリカも販売されている(筆者撮影)

報告書では、世界各国の政策担当者が、食品ロス削減のための対策を講じており、食料廃棄を防ぐための政策の「質」を測定する指標が示されている。

たとえば、食品廃棄物を減らすための戦略(Food Waste Strategy)や、目標(設定)、法律、規制、調査、優先順位づけの枠組み(prioritisation framework)、自主的な協定や、市場ベースの削減手段や民間機関の指標など。

調査報告書によれば、法律や条例など、食品ロス削減のための政策の質が優れている国ベスト10として、次の国が挙げられている(カッコ内は0から100で示されるスコア)。

1、米国(100)

2、アルゼンチン(96.3)

2、スペイン(96.3)

4、韓国(90.7)

5、フランス(88.9)

5、イタリア(88.9)

7、オランダ(81.5)

8、ベルギー(79.6)

8、デンマーク(79.6)

10、オーストラリア(77.8)

これは、EIUによるFood Sustainability Index(食料持続可能性指数)を元にランキングされている。

スコアは0から100まで。100は、環境・社会・経済のそれぞれの分野の重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)が最も高いことを示している。

食品ロス削減の法整備が整っている国トップ10 (EIUによる「FIXING FOOD:フィクシング・フード  2018」)
食品ロス削減の法整備が整っている国トップ10 (EIUによる「FIXING FOOD:フィクシング・フード  2018」)

Scores are scaled from 0 to 100, where 100 = the highest sustainability and greatest progress towards meeting environmental, societal and economic Key Performance Indicators. Countries with extremely low levels of food waste per head (all of which are developing countries) are assigned the highest score for this indicator and excluded from this table.

Source: Economist Intelligence Unit, Food Sustainability Index 2018

出典:Fixing Food 2018

フランス・農業省の職員食堂では廃棄するものの分別がしっかりとなされていた(筆者撮影)
フランス・農業省の職員食堂では廃棄するものの分別がしっかりとなされていた(筆者撮影)

1位の米国は免責制度や税制優遇、余剰農産物処理法など

1位の米国は、余剰食品を福祉目的で活用するための法整備が整っている。

たとえば、善きサマリア人(よきさまりあびと)の法と呼ばれるGood Samaritans Law。たとえば寄付食品によって、万一、食品事故が起こったとしても、意図せざる、善意の行為であれば、寄付者に責任を問わないとするものだ。

余剰農産物を国が買い上げて活用できる余剰農産物処理法(PL480)は、1954年に制定されている。

また、寄付により、税金を安くする税制優遇制度もある。

飲食店で食べ残したものを持ち帰る「ドギーバッグ」もよく知られている。

イタリア最大手の食品メーカー、バリラ社。地球を守るという大きな視点で企業理念が掲げられている(撮影:Francesca Nota氏)
イタリア最大手の食品メーカー、バリラ社。地球を守るという大きな視点で企業理念が掲げられている(撮影:Francesca Nota氏)

4位の韓国は国家主導のフードバンクやフードマーケットが数百

同点2位のアルゼンチンとスペインは、筆者は渡航経験がなく、自分の目で確かめていないため、省略する。

4位の韓国は、1990年代後半の生ごみ問題や、2000年代に入ってからの朝食欠食の問題などを背景に、国家主導でのフードバンクや、経済的に困窮している人が無償で食品を持ち帰ることができるフードマーケットが普及している。

また、米国の「善きサマリア人の法」に相当する免責制度や、税制優遇制度もある。

韓国同様、台湾もフードバンクが進んでいる。おそらく宗教も背景にあると考えられる。

韓国のフードマーケット。決められた点数まで、経済的困窮者が無償で食品を受け取ることができる(セカンドハーベスト・ジャパン提供)
韓国のフードマーケット。決められた点数まで、経済的困窮者が無償で食品を受け取ることができる(セカンドハーベスト・ジャパン提供)

同点5位のフランス・イタリアは世界初など早いレベルで法整備

同点5位のフランスとイタリアは、食品廃棄を禁止する法律で、世界から注目を浴びた。

フランスは2016年2月3日に、イタリアは同じ年の9月14日に成立している。

イタリアのピエモンテ州では、環境配慮の3R(スリーアール)のうち、優先順位の上から2番目である「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」と「Reuse(リユース:再利用)」を重視し、食品ロスの削減に取り組んでいる。

イタリア・ピエモンテ州の行政の方たち(右から2番目が筆者、職員撮影)
イタリア・ピエモンテ州の行政の方たち(右から2番目が筆者、職員撮影)

日本はフードシェアアプリの事例が紹介されているものの、ベスト10圏外

日本の事例として、余剰食品をシェアして販売する、リユースの事例である「Reduce Go(リデュース・ゴー)」や、「TABETE(タベテ)」が紹介されている。

In Japan, for example, tech entrepreneurs are making it easier for people to make use of food that would otherwise be wasted. For example, the Reduce Go app allows registered users to collect unused food from restaurants and food outlets for a monthly fee of 1,980JPY (US$17.50). And CoCooking, a Tokyo-based food service company, has launched the Tabete website, which allows consumers to buy meals and food products that would otherwise be thrown away.

出典:FIXING FOOD 2018

(引用箇所中、原文では日本円を表す円マークが使われているが、表示できないため、筆者が該当箇所を「JPY」と変換した)

2018年12月には、国税庁と農林水産省が、組織がフードバンクへ食品寄付をした場合、「一定の条件のもと経費として全額損金算入を認める旨」を発表し、税制優遇制度が成立した。

だが、食品ロス削減の政策に関して、前述の報告書の「トップ10」に、日本は入っていなかった。

法律ができることが全てではない。市民の意識改革や行動を変えることも大切だ。

まずは、今国会で、日本の食品ロス削減法案が可決されることを期待したい。

記事中のフランスの写真に関して:筆者撮影

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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