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「え?なぜ2月にクリスマスケーキやローストチキンやおせち売ってるの?」恵方巻だけじゃない余る季節商品

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

2019年1月22日付の流通ニュースが『Yahoo!ショッピングはこのほど、「食品ロス対策」ページを開設した。』と報じた。

2019年1月22日付、流通ニュースの記事(公式サイトより)
2019年1月22日付、流通ニュースの記事(公式サイトより)

ついにYahoo!ショッピングに特集ページができたんだ!と思い、探してみたが、そのようなページはない。

担当者に問い合わせたところ、「特集ページ」が存在する訳ではなく、「食品ロス対策」の小さなアイコンを指している、とのことだった。

Yahoo!ショッピングページにある「食品ロス対策」のアイコン
Yahoo!ショッピングページにある「食品ロス対策」のアイコン

2月にクリスマスケーキ、ローストチキン、おせち・・・

「食品ロス対策」のアイコンをクリックすると、ローストチキンやおせち料理、クリスマスケーキなどが出てくる。

2019年2月5日現在、Yahoo!ショッピングで販売されているローストチキンやおせち料理(公式サイトより)
2019年2月5日現在、Yahoo!ショッピングで販売されているローストチキンやおせち料理(公式サイトより)

売っていることを責めている訳ではない。廃棄するより、ずっといい。事業者には「廃棄物をできる限り減らす(減量に努める)責任がある」ことが、廃棄物処理法という法律で定められている。販売している会社は、食品ロスの削減に努力しているということだ。

サイトでは、ローストチキンやおせち、クリスマスケーキなどの商品を、実際にカート(買い物かご)に入れている人もいる。2019年の春節は2月5日なので、この時期、お祝いごとで買う人もいるかもしれない。とは言え、買う人の数は限られるので、シーズンの時にできるだけ余らないほうが、このサイトでも早めに売り切れることができて、いいだろう。

季節商品は恵方巻きだけじゃない

「恵方巻きの廃棄のことばかり言う」と言っている人を見かける。

筆者は、クリスマスケーキのことも、うなぎのことも、おせちのことも、バレンタインのことも、記事として発信している。食品ロス問題に関わったのは、食品メーカーに勤めていたうちの2008年からだが、食品ロスのことが騒がれているのなんて、ごく最近だ。

北海道・札幌市の市場の中にあるカウンターだけの寿司店の寿司(筆者撮影)
北海道・札幌市の市場の中にあるカウンターだけの寿司店の寿司(筆者撮影)

「恵方巻きだけを悪者にして」と言われるが、寿司を憎んでいる訳ではない。一番好きな食べ物であるお寿司が、食べられずに捨てられて欲しくない。一時期、精神的に落ちてしまい、味覚が無くなり、一番好きなお寿司ですら、砂を噛んでいる味がしたことがあった。よく言う「砂を噛む」とはこういう味のことかと、初めてわかった。一生、味が感じられなかったらどうしよう・・・と思った。食べ物を食べられること、その味を感じられることが、どんなに幸せか、と身に沁みて感じる。

売り切れ御免でいいのでは?

その日にしか売れないもの、特に日持ちしない食べ物は、完全予約制にするか、店頭のものは売り切れ御免でいいと思う。お客であるわれわれは、売り切れていても、文句や苦情を言わない。お店も、「もう売り切れました」と、堂々と言う。

京都・佰食屋(佰食屋提供)
京都・佰食屋(佰食屋提供)

日本経済新聞社の月刊誌「日経WOMAN(ウーマン)」が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」で大賞を受賞したのは、1日100食限定の飲食店、佰(ひゃく)食屋を経営する、中村朱美さんだ。経済成長を重視する経済紙が、中村さんのような経営者を表彰してくれること自体、ありがたい。時代は変わったなあと思う。日経新聞のこの賞の関係者の方にも感謝申し上げたい。

中村さんのお店には、3店舗とも、冷凍庫がない。基本的に、その日のうちに使い切る。100食は、毎日14時か15時に売り切れるから、そのあと、まかないのご飯を食べ、翌日の仕込みをして、18時までに全員、店を出ることができる。ひとり親家庭の方も、家族の介護をしている方も、高齢の方も、みんな、無理なく働くことができている。

中村さんは、あるテレビのインタビューで「もっと営業時間を延ばせば、もっと儲かるんじゃないですか?」と聞かれ、「もちろん、そうだろうけど、それは私の働き方ではない」とハッキリ言い切っていた。

京都・佰食屋のステーキ丼。ステーキ丼のお店、肉寿司のお店、すき焼きのお店がある(佰食屋提供)
京都・佰食屋のステーキ丼。ステーキ丼のお店、肉寿司のお店、すき焼きのお店がある(佰食屋提供)

事業系の食品ごみだって市区町村民が納めた税金が使われて処理されている

事業系のごみには税金が使われていない、という誤解も散見される。

そうではない。

東京都練馬区の公式サイトなどにも書いてある通り、事業者から排出されるごみは、2つに大別される。

1つは、製造業者から出される産業廃棄物だ。事業者が責任を持って処理する。

もう1つは、産業廃棄物以外の、事業系一般廃棄物だ。

たとえば飲食店では、事業系一般廃棄物と産業廃棄物の両方が出る。食べ残しや調理残渣、使い終わった割り箸、紙コップなどは事業系一般廃棄物に区分される。蛍光灯や電球は産業廃棄物。

スーパーやコンビニも同じ。売れ残り食品は事業系一般廃棄物に区分される。

全国の自治体や行政書士が「事業系一般廃棄物と産業廃棄物」の違いについてわかりやすく説明

全国の自治体や行政書士が、事業系一般廃棄物と産業廃棄物の違いについて、わかりやすく情報を発信している。

埼玉県川口市

筆者が廃棄物の委員を務めている埼玉県川口市へ、2月4日に問い合わせてみた。「家庭ごみと、事業系一般廃棄物は、一緒に燃やされて処理されています」とのことだった。

川口市の公式サイトにあるイラストがわかりやすい。家庭ごみと、事業系一般廃棄物は、市民の税金を使って、一緒に焼却処分されている。

埼玉県川口市の公式サイトより。家庭ごみと、事業系一般廃棄物は、一緒に処理されている(川口市公式サイトより)
埼玉県川口市の公式サイトより。家庭ごみと、事業系一般廃棄物は、一緒に処理されている(川口市公式サイトより)

東京都世田谷区

東京都世田谷区「事業系一般廃棄物ガイドブック」は、読み手の立場に立って、親身な書き方をされている。

10ページ目には「廃棄物の処理ってお金がかかるんですか?!」という質問に対し「もちろん、無料ではありません」と答え、家庭系廃棄物と一緒に処理される事業系一般廃棄物について、1kgあたり55円の自治体の財源が費やされていることを説明している。

東京都世田谷区「事業系一般廃棄物ガイドブック」より
東京都世田谷区「事業系一般廃棄物ガイドブック」より

7ページ目では、廃棄カツの不正転売事件の際に環境省が出した通知の趣旨を箇条書きで書いてある。

「廃棄物処理法」という法律において、事業者は、廃棄物のリサイクルなどをすることで減量に努めなければいけない排出事業者責任があること、また、廃棄物の処理を他人に委託すればそれでOKというものではないこと、など、事業者責任がしっかりとわかりやすく書かれている。

京都市

リーフレットでわかりやすく説明している。

神奈川県横須賀市

横須賀市が発行する事業系ごみ適正処理の手引きが詳しい。2ページ目にイラストで図解している。

神奈川県横須賀市「事業系ごみ適正処理の手引き」p2より
神奈川県横須賀市「事業系ごみ適正処理の手引き」p2より

兵庫県加西市

兵庫県加西市公式サイトには、何が事業系一般廃棄物に該当するかの分類が書いてある。

兵庫県加西市公式サイトより「事業系一般廃棄物の分類」
兵庫県加西市公式サイトより「事業系一般廃棄物の分類」

東京都練馬区

「区の許可を受けた一般廃棄物収集運搬業者へ処理委託する」としている。もちろん、事業者も処理費を払うが、市区町村民が納めた税金も使って処理されている。

行政書士・加藤木剛氏の公式サイト

行政書士、加藤木剛氏の公式サイトにも、家庭ごみと事業系一般廃棄物の処理責任が市町村にあることが、図式でわかりやすく説明されている。例として、ファストフード店で発生するごみについて、

ファーストフード店(事業活動を行っている事業所・業種限定範囲外)から出た廃棄物のうち、

1)使用済み紙コップ・割りばし、広告チラシの残り、残飯、不用なコピー紙、やぶれた制服は、一般廃棄物 (事業系一般廃棄物)扱い。

2)割れた瀬戸物、割れたガラスコップ、柄の曲がったフライパン、使用済みてんぷら油、グリストラップ汚泥、洗剤のポリ容器は、産業廃棄物となるのです。

出典:行政書士・加藤木剛氏の公式サイト

と説明されている。

小売店や飲食店で捨てられる食べ物は、自分たちが納めた安くはない税金も使って、処理されている。もちろん事業者も払うが、われわれも税金を通して払っている。

そして、食料品価格にも廃棄コストは含まれているということ。チラシ代しかり、テレビのコマーシャルしかりだ。知らずに払わされていることに多くの人が気づいていない。他人ごとではない。

関連情報:

東京都世田谷区「事業系一般廃棄物ガイドブック」平成30年3月発行

「事業系一般廃棄物中の食品ロス排出状況調査」 小泉裕靖・寺嶋有史・飯野成憲・辰市祐久(東京都環境科学研究所年報 2018)

家庭ゴミからおせち、メロン丸ごと3個・・・ゴミ清掃員マシンガンズ滝沢さんが明かす家庭ゴミの中身(上)

クリスマスケーキ 大量廃棄の実態 一日500kgがブタのエサに 家庭ゴミにはホールの半分が捨てられ

「自給率5%のエビを捨てるなんて!」安く売買しすぐ捨てる日本への提言 マシンガンズ滝沢さん語る(下)

「コンビニの食品ロスは一日いくら?」大和エネルフ株式会社

環境省「スーパー及びコンビニエンスストアにおける食品廃棄物の発生量、発生抑制等に関する公表情報の概要」

注:タイトルの文字数の都合上、タイトルは「恵方巻」、記事は「恵方巻き」とした。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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