「ノルマはアルバイトだけじゃない」元食品メーカー社員が語る「取引先からノルマ 断ったら不利益被った」

(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

恵方巻きのノルマはパート・アルバイトだけでなく正社員にも

恵方巻きやクリスマスケーキ、土用の丑の日のうなぎなど、季節商品は、食品を販売する企業や店にとって、販促(販売促進)のチャンスだ。農林水産省が小売店に「需要に見合う数を」と通知した2019年1月も、百貨店やスーパー、コンビニエンスストアでは、恵方巻きの、店頭での販売が始まっている。

何しろ、大手企業は「前年実績を上回る」目標を立てているのだ。2月3日の節分の日だけでは前年を上回る目標販売額を達成できない。となれば、長期間かけて売りさばかなくては、という意気込みだろう。2019年1月20日に訪問したデパ地下では、ある店が売り、その隣の店でも、その向かいの店でも、のぼりを立て、店頭で恵方巻きを販売する光景が見られた。

パートやアルバイトがノルマを課せられ、尋常ではない量を買わされるという問題も例年取り上げられる。ブラックバイトユニオンの公式サイトには、事例集で具体的な問題が書かれている。しかし、ノルマを課せられるのはパートやアルバイトだけではない。正社員もだ。

2010年代の最近まで、ある食品メーカーに営業正社員として勤めていた方が、社名もすべて実名で経験談を語ってくれた(ここでは企業の実名は伏せる)。

地場のスーパーから季節商品のノルマを課せられ、断ったら取り扱い商品を減らされた

取引先である、地場の(全国展開していない)スーパーから、季節商品に関するノルマを要求された。断ったら、取り扱い商品のアイテム数を半分に減らされる、などの不利益を被ったと言う。

今回の農林水産省の通知を受け、恵方巻き大量販売や大量廃棄を防ぐ対策として、大手スーパーやコンビニエンスストアの中には「予約を強化する」と回答している企業がある。だが、元食品メーカーの営業曰く「予約を強化するとなると、量販店(スーパー)に出入りしている取引先に買わせる部分もある」という。

取引先である量販店のスーパーから、恵方巻きや、土用の丑の日のうなぎを大量に買わせるプレッシャーがありました。

2018年時点では、だいぶ無くなった、とは聞きますが、ゼロではない、と思います。

資源保護の面から、あるいはコンプライアンス(法令遵守)の面から、私はよくないと考え、量販店からの依頼を断っていました。この結果、取引先から不利益を受けることが多々ありました。

今回、「予約販売を強化する」とのこと。量販店に出入りしている取引先にまで買わせる部分もあると思います。

出典:元食品メーカー営業社員の発言

クリスマスケーキとおせちだけの買い取りをやむなく引き受けると、それだけで、冬のボーナスが50,000~60,000円消えていったそうだ。

自腹払いのノルマは日常茶飯事

元食品メーカー営業曰く「自腹で払わされるノルマは日常茶飯事だった」と言う。

恵方巻き、うなぎ、クリスマスケーキ、おせちなど、量販店から「付き合い」と称されました。購入しないと、自社の取り扱い商品を減らされる憂き目に遭いました。

これらの購入は、会社の経費ではなく、すべて自腹です。

常に断ると、量販店とメーカーとの間に入っている卸(問屋)の営業から「たまには付き合え」と言われました。

必要でもないクリスマスケーキやおせちなどを、なぜ無理やり買わせるのか?と聞くと、

「量販店にもノルマがあるから付き合ってくれ」と言われました。

出典:元食品メーカー営業社員の発言

元食品メーカー営業によれば、他の量販店を担当している同僚から、同じような話を聞いたそうだ。

コンプライアンス上、減ったとは言え、ゼロではない

元食品メーカー営業社員によれば、以前よりは減ってきたのでは、と語る。

今は、コンプライアンス(法令遵守)の強化や、取引先にこういうお願いをするとどこでバレるかわからない、ということで、多少は減ったようです。

その代わり、自社社員への押し付けのような形で買わせるようになっているのかもしれません。

出典:元食品メーカー営業社員の発言

倫理観を持ち経営している小売企業を見習って欲しい

元食品メーカー営業社員が語ったのは、ある企業がそうしていた、という事例である。すべての小売企業が取引先へのノルマを課しているわけではない。

小売業界でも、きちんとした倫理観を持って事業に取り組んでいる企業は、取引先への強要行為を禁じている。万一、このような事態が明るみに出たら、自社のブランドやイメージを著しく損なうことになり、そのリスクは甚大だと理解しているからだ。

信頼を築くのは一朝一夕にはできない。が、いったん失った信頼を取り戻すのは難しい。取り戻せたとしても、何年かかるかわからない。命に関わる食品企業であれば、なおさらだ。

食べ物の買い取りノルマ 社員・パート・アルバイト 誰に対してもやめよう

以上、元食品メーカー営業の発言を紹介した。

なぜ現役の食品メーカー勤務者がこのような問題提起をできないのか?元食品メーカー営業の発言にあった通り、「商売上の不利益を被るから」だろう。社員は皆、自社の看板をしょって業務に当たっている。たとえ個人的に思ったとしても、それを口に出して言うことは、組織の一員としてできない。

いち個人としてより、組織に所属して働く形態が多い日本では、今後もこれは続くだろう。

食品業界の場合、作り手(メーカー)より、その複数のメーカーから取り扱い商品を選べる売り手(スーパー・コンビニ)の方が、圧倒的な力を持っているのは否めない。だからこそ、公正取引委員会は、優越的立場の濫用を禁じている。 

しかし、本当にそれが機能していれば、今回のような通知が農林水産省から出される必要性はなかっただろう。

経済産業省と製配販連携協議会が、小売店からメーカーへの不当な返品を禁じる「加工食品における返品削減の進め方 手引書」を作成する必要も、なかったに違いない。大量販売や不当な返品を国が禁じようとするのは、それが存在する、という証拠にほかならない。なければ、そんなものは要らない。

食品ロス削減には、現在、5省庁が関わっている(農林水産省・環境省・消費者庁・経済産業省・文部科学省)。「縦割り」と言われる省庁が横断的に取り組むのは、食品ロスが、それだけ広い分野にまたがる社会的課題であると言えよう。

食品メーカー勤務経験者は、ぜひ声を上げて欲しい。現役で勤務している方は、なかなか言えないだろう(筆者は耳にしてはいるが)。そうであれば、地元で「大量販売しない」「前年同期比で販売」するなど、兵庫県のヤマダストアーのような、優れた企業の事例を、ぜひ教えていただきたい。

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