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青森でほたてソフトを食べ終わったら・・「食べたい時に食べる方が人も食べ物も幸せ」形式的なのは罰当たり

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

1月11日放映のNHK「News Watch 9」に恵方巻大量廃棄の件で出演

いつもテレビは飛び込み取材だが、今回も驚いた。

2019年1月10日、青森県弘前市の農園で取材し、翌11日昼、青森市内の商業施設で、友人が「美味しい」と教えてくれた「ほたてソフトクリーム」を食べていた。食べ終わったら、電話がかかってきた。NHKの報道番組「News Watch 9(ニュースウォッチナイン)」からだった。食べ終わるのをどこかで見ていたのだろうか。

その日の朝に書いた『今年こそ恵方巻の廃棄を減らそう!国がコンビニ・スーパーに対し「需要に合う量を売る」よう初の文書通知』という記事をご覧になられ、11日の21時からのNews Watch 9で、恵方巻大量廃棄問題と国が動き始めた旨を特集すると言う。「どこかで(取材の)時間はありますか」とのこと。

そのあとすぐ、青森県主催のシンポジウムで基調講演の予定だったため、登壇する前の控え室で電話取材を受けた。収録した音声と、過去にNHKに出演した時の映像を組み合わせて、1月11日の21時台に放映された。自分自身で番組を観ることはかなわなかったが、複数の知人が見ていて、写真を撮って送ってくれたり、メールで「見たよ」と連絡をくれたりした。

電話取材の時にご紹介した株式会社日本フードエコロジーセンターの高橋社長も、過去の放送映像と共に登場されたようだ。

講演している最中には、全国紙の記者の方から、同じ恵方巻廃棄の件で、何度か電話がかかってきていた。講演会場から駅まで移動し、帰りの新幹線に乗る前の駅構内で電話取材を受けた。いずれ記事になるそうだ。

毎年発生する恵方巻大量廃棄の事態に、ついに国が動く

毎年、話題となる、恵方巻の大量廃棄。国がついに動き出した。農林水産省が小売の業界団体に「需要に見合う量を販売する」よう、初めて通知を出したのだ。

記事で書いた通り、食品業界にはヒエラルキー(上下関係)がある。作り手が欠品を起こすと売り手から取引停止処分を受ける可能性があるので、作り手側から「適量作りましょう」とは言えない。だから、今回、国が小売に通知を出したのは、非常にありがたい。

一方、売り手である小売業界に対しては、国が通知を出す前に自制した売り方をして欲しかった、という思いもある。兵庫県のヤマダストアーのように「もう(恵方巻の大量販売は)やめにしよう」と自ら宣言する企業もあるが、必ずしもすべての企業がそうではないからだ。

クリスマスも恵方巻も売り手側の販売促進の一環に過ぎない

特定の日だけ、決まった食べ物を売るのは、恵方巻だけではない。クリスマスのケーキなども同様だ。

筆者は、2018年12月のクリスマスが終わってから、かつて青年海外協力隊で赴任していたフィリピンへ渡航した。今回滞在したのは、すぐに一周できるような、小さな島だ。

国民のほとんどがキリスト教徒のフィリピンでは、クリスマスが過ぎても、1月になっても、クリスマスの飾り付けをしていた。

フィリピンの島では1月になってもクリスマスの飾り付けがされていた(筆者撮影)
フィリピンの島では1月になってもクリスマスの飾り付けがされていた(筆者撮影)

小さな島も、観光客が来る一番のリゾートホテルは、それなりに綺麗に整えている。でも、村は、何十年経っても、まるで昔のままだ。

バイクですぐ一周できるような、小さな島。そんな小さな村でも、そこにはクリスマスへの強い思いが感じられた。

いろんな素材を使って、思い思いのクリスマスツリーが飾られていた。

2019年1月、フィリピンの小さな島に飾られていたクリスマスツリー(筆者撮影)
2019年1月、フィリピンの小さな島に飾られていたクリスマスツリー(筆者撮影)

一方、キリスト教徒が国全体の1.1%しかいない(「宗教年鑑」平成29年度版 p35より)日本はどうだろう。クリスマスが終わればさっさと飾り付けを片付け、次はお正月商戦だ。そこには何の思い入れもない。

日本では、クリスマスも恵方巻も伝統行事ではなくなってしまっている。売り手側の販促(販売促進)の一環に過ぎず、それに消費者が乗っかっているに過ぎない。

日本のキリスト教徒の方が、思いを持ってクリスマスを祝うのは、とてもいいことだ。言いたいのは、何の思い入れもなく、ただ「販促だから」「みんなが食べるから」という、前例や先入観に従う売り方や買い方に対してだ。

2019年1月、フィリピンの小さな島に飾られていたクリスマスツリー(筆者撮影)
2019年1月、フィリピンの小さな島に飾られていたクリスマスツリー(筆者撮影)

日本全国、同じ日に、同じものを食べるって・・・

北海道から沖縄まで、同じ日に一斉に一億人が同じものを食べる姿を想像して欲しい。「国家一律集団給食」か。

北海道の2月と沖縄の2月は違う。全国各地、気候も違う、人それぞれ、嗜好も食べる量も、その日の食欲も違う。それなのに、なぜ、同じ日に、同じものを食べなければならないのだろう。法律でも義務でもなんでもないのに。

恵方巻問題は、販売側にも売り方を再考して欲しい。が、われわれ消費者自身も考えなければならない。売り手側の販売促進を鵜呑みにするから、いつまで経っても大量販売・大量廃棄が終わらない。食料品価格や税金を通し、捨てるコストを毎日払わされているというのに。

では、このような風潮を是正するために、今日から何ができるだろう。

消費者にできること(1)「人と同じでOK」ではなく、自分の頭で考え、心で感じる生き方を

恵方巻のことだけじゃない。「人と同じことをしておけば安心」「社会の風潮に乗っておけばOK」というのは思考停止だ。自分はどう考えるのか。どう感じるのか。しっかり考えて生きていかないと、奇跡的に授かった自分の命は活かすことができない。

仕事でもなんでも、人と同じではなく、むしろ、人と違っていてもいい、と考えて行動したい。

消費者にできること(2)環境配慮に尽力している企業のことを発信する

消費者にできることは他にもある。環境配慮に尽力している企業のことを見出して、社会に知らせること。

2018年2月に「もう(恵方巻の大量販売は)やめにしよう」と広告を出したヤマダストアーのような企業だ。兵庫県の地元の方がツイートして、全国的に知られる運びとなった。

ヤマダストアーのように、全国的に知られていない企業の中に、いい取り組みをしているお店がある。地元の方は、ぜひ、いい取り組みをしている企業のことを、積極的に発信して欲しい。

消費者にできること(3)売り切れていてもクレームしない

たとえ売り切れていても「売り切れ御免」。完売はいいことなのだから、お店にクレームしない(苦情を言わない)。

消費者にできること(4)大量廃棄している恵方巻の中には生き物の命が入っていることを忘れずに

ある小売店の方は、「年末年始になると、三つ葉や卵が一斉に急激に売れる。需要が追いつかない。できれば、一年を通して、なだらかに売れて欲しい」と、食品ロスのシンポジウムで語っていた。

大量廃棄している恵方巻の中には、ニワトリが24時間以上かけてようやく1個生み出した卵や、命を捧げた魚たちが入っている。殺しておいて、さらに捨てたら、福が来るどころか、罰(バチ)が当たる。

取材と講演で訪れた青森県は雪が積もっていた(筆者撮影)
取材と講演で訪れた青森県は雪が積もっていた(筆者撮影)

消費者にできること(5)食べたい時に食べたいものを食べる その方がきっと人も食べ物も幸せ

人が作ったイベントに踊らされず、食べたい時に、食べたいものを食べること。特定の日に一気に作って売ろうとすると、必ず、負荷がかかる。それは、食べ物の元となる生き物に対してもそうだし、農家や漁師、作り手である製造業や、運送業者、売り手である販売業、電気や水などエネルギーといったように、すべてだ。

青森市内で販売されているほたてソフトクリーム(筆者撮影)
青森市内で販売されているほたてソフトクリーム(筆者撮影)

ちなみに、取材と講演で訪れた青森県は、雪が積もっていて真っ白だった。初めて食べた「ほたてソフトクリーム」は、甘いだけでなく、塩がほどよくきいていて、塩キャラメルのような味だった。冬だけど、この機会に食べてみて、よかった。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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