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今年の一皿2018「鯖(さば)」はブルーシーフード 同調性を持たないことが食の持続可能性に必要では

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

ぐるなび総研が主催する「今年の一皿」、2018年は「鯖(さば)」が選ばれた。ぐるなび総研の「今年の一皿」は、優れた日本の食文化を人々の共通遺産として記録に残し、保護・継承するため、その年の世相を反映し、象徴する食を選ぶのが目的だ。

ぐるなび総研が選定理由として挙げているように、なんといっても、注目を浴びたきっかけは、さば缶だろう。

京都・カンブライトで販売されるさばの缶詰(筆者撮影)
京都・カンブライトで販売されるさばの缶詰(筆者撮影)

魚の缶詰は、災害時にも重宝する。災害時の支援食品は、どうしても炭水化物中心のものに偏りやすく、肉や魚、卵などに多く含まれるたんぱく質や、野菜や果物などに多く含まれるビタミン・ミネラルが不足する。そのたんぱく質の供給源として、調理が不要で、開けてすぐ食べられる魚の缶詰は、とても便利だ。賞味期間も3年間と長く、常温での保存が可能だ。

最近では、水煮や味噌煮だけでなく、カレーやトマト煮など、バリエーションも増えてきた。

長野県のスーパーで販売されている「サバカレー」「イワシカレー」の缶詰(筆者撮影)
長野県のスーパーで販売されている「サバカレー」「イワシカレー」の缶詰(筆者撮影)

筆者の推測だが、単身世帯が増えてきたことも、魚の缶詰の需要が増えてきた背景にあると思う。大学生の一人暮らしはもちろん、高齢者の単身世帯の場合、焼くにも煮るにも、魚の調理は何かとおっくうだ。調理不要で、開封してすぐ一人分だけを食べられる魚の缶詰は、「あって良かった」と思う食品だろう。

鯖(さば)は資源が比較的潤沢にある「ブルーシーフード」

選定理由のもう一つに挙げられている通り、さばの年間漁獲量はおよそ50万トン(農林水産省「海面漁業生産統計調査」平成29年 年計結果より)。絶滅危惧種のニホンウナギや、枯渇するクロマグロなどが報道されているが、鯖(さば)は、海洋資源の中では、比較的、潤沢だ。

京都大学の構内にあるレストラン「カンフォーラ」では、山極(やまぎわ)壽一総長らが考案したブルーシーフードカレーが提供されている。鯖(さば)をはじめとした、海洋資源の中でも、天然の資源量が比較的豊富な海産物(ブルーシーフード)を食していこう、という趣旨で考案された。

京都大学の正門入ってすぐ左のレストラン「カンフォーラ」で提供しているブルーシーフードカレー(筆者撮影)
京都大学の正門入ってすぐ左のレストラン「カンフォーラ」で提供しているブルーシーフードカレー(筆者撮影)

持続可能性を担保する魚の選び方、摂り方を

現代のキーワードである「持続可能性」を考えると、持続可能性を担保できる魚は、もっと食生活の中に取り入れられていい。鯖(さば)の受賞を受けて登壇した大日本水産会の白須俊朗会長は、「漁獲が安定的に伸びており、持続可能な漁業の優等生」と述べている。

さばの受賞を受けて登壇した、大日本水産会の白須俊朗会長は「和食が5年前、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に選ばれ、海外から多くの方が来日しています。彼らにとって日本は“魚食の聖地”。もっと魚を食べようという中、救世主になったのがさば」と、訪日外国人の大きな目的が日本の魚で、その中軸にさばがあることを強調。「漁獲が安定的に伸びている。しっかりした資源管理の結果。持続可能な漁業の優等生です。青魚の中、DHAが多く、消費者の多くの健康志向に支えられ、さば缶がヒットし、店に置けば売れて消えていく。ツナ缶を抜き、トップの位置を占めています」と、さば缶の人気が急騰していると力説した。

出典:2018年12月6日付 日刊スポーツ

鯖(さば)が選ばれたという報道を受けてスーパーの鯖(さば)の缶詰を買いに走る、というのではなく、鯖(さば)の資源を管理するためにも、消費者には冷静に受け止めてもらえるといいなと願っている。

SDGs(持続可能な開発目標)の14番目のゴールは「海の豊かさを守ろう」(国連広報センターHPより)
SDGs(持続可能な開発目標)の14番目のゴールは「海の豊かさを守ろう」(国連広報センターHPより)

「みんなが食べるから自分も」ではなく「みんなが食べるなら自分は食べない」くらいの姿勢が食の持続可能性に貢献するのでは

鯖(さば)とは別の話だが、最近、オクラの健康効果がテレビで報道され、オクラが店頭から消えるという現象があった。

海外のスーパーで売られるオクラ。日本と違って緑のネットで大きさを揃えて入れるのではなく、大きさが違っていてもラップで包まれて売られる(筆者撮影)
海外のスーパーで売られるオクラ。日本と違って緑のネットで大きさを揃えて入れるのではなく、大きさが違っていてもラップで包まれて売られる(筆者撮影)

「これが健康にいい」と報道されると、すぐに買いに走る傾向は、今でもある。

筆者はフードファディズムが食品ロスを生むという記事で、消費者が一斉に特定の食品に走ることが食品ロスにつながることを指摘した。

12月24日にクリスマスケーキをどうしても食べたかったら、丸い大きいものではなく、一人一つの小さいものを買うとか・・・(筆者撮影)
12月24日にクリスマスケーキをどうしても食べたかったら、丸い大きいものではなく、一人一つの小さいものを買うとか・・・(筆者撮影)

これからの季節、クリスマスケーキや、(日本の場合、ターキーでなく)チキンなどは、皆が一斉に買い求める食品だろう。でも、12月24日のクリスマスイヴの日、みんなが食べるから、自分もそれを食べないといけないのだろうか。筆者は、2017年12月24日、鍋料理を食べた。

ある小売店の方は、「年末になると、三つ葉や卵が無くなり、価格が急上昇し、需要と供給のアンバランスが起こる。年間で一定して売れてくれればいいのに」と嘆いていた。

「みんなが食べるから自分も・・・」という同調性を持つのではなく、「みんながそれを食べるなら自分は違うものを選ぶ」くらいでもいいのではないか。食生活だけではなく、生きる姿勢としても。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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