サマータイム断念「分刻みで支えている現場で一度も働いたことのない人が言い出した絵空事」

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として議論された「サマータイム」。2018年9月27日、自民党の遠藤利明・東京五輪実施本部長が「2020年の導入は難しい」と語った。

筆者は8月30日、「サマータイムやめて」スーパーとコンビニの悲鳴の裏側という記事を書いた。

9月2日に開催されたシンポジウムでは、日本IT団体連盟専務理事でヤフーシニアアドバイザーの別所直哉氏が

「サマータイムでITシステムに様々な問題が起こるのは容易に想像できる。大きな事故が起きるのではないかと正直みんな思っている」

出典:2018年9月3日付 朝日新聞

と指摘している。

デメリットが大き過ぎ、議論の俎上に載せるまでもない

何かを決定するため議論するのは、メリットとデメリットが拮抗していて判断が難しい場合だろう。前述の通り、デメリットが大きいことが想像できるにもかかわらず議論の俎上に載せるのは、時間と労力の無駄でしかない。

9月28日付毎日新聞朝刊ではサマータイム断念、自民方針 世論の理解得られずと見出しにしており、「世間の理解が得られないから断念した」と読み取れる。世間の理解が得られないからではなく、客観的に見て、システムに混乱を招く可能性が大きく、コストや労働力の負荷が大き過ぎるから、ではないのか。

分刻みで支えている現場で一度も働いたことのない人が言い出した絵空事

前述の記事でも書いたが、電車のダイヤなども厳格に管理する日本で2時間ものサマータイムを実施するとは「分刻みで支えている現場で一度も働いたことのない人が言い出した絵空事」だ。

食品業界では、弁当やサンドウィッチは、日にちどころか時刻単位で消費期限が表示される。そしてその2~3時間手前には、食品業界の商慣習である3分の1ルールの「販売期限」がある。いくら消費期限が2~3時間残っていても、販売期限が切れればもうレジを通らない。時間厳守のため、大量の食品ロスが発生している現状だ。ここから2時間ずつ期限をずらすとなると、ITシステムにも負荷をかけるばかりか、非正規雇用者(アルバイトやパート)の多いスーパーやコンビニの店頭に、さらなる混乱を招く。

日本の食品業界の商慣習である「3分の1ルール」。賞味期限や消費期限ギリギリまで販売することは少なく、その手前に設定された「販売期限」で商品棚から撤去される(農林水産省資料を元に筆者作成)
日本の食品業界の商慣習である「3分の1ルール」。賞味期限や消費期限ギリギリまで販売することは少なく、その手前に設定された「販売期限」で商品棚から撤去される(農林水産省資料を元に筆者作成)

全国のコンビニには、多い店舗で一日6便のトラックが出入りする。この物流は、すべて、時間管理だ。西日本豪雨や北海道地震で交通網が寸断され、時間を厳密に守ることができず、どれだけ現場の人たちが苦労したことか。消費期限の短い食品を売ることができず、泣く泣く捨てざるを得なかった。サマータイム導入時期に自然災害が日本を襲う可能性は、ゼロではない。もしそうなったらどうするつもりなのだろう。

各報道ではサマータイムを「断念」した、という言葉が使われているが、「断念」とは「希望をあきらめること」。与党の数名が希望していただけで、国民の多くは、サマータイムなど、はなから希望していなかったのではないだろうか。