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「味が変わって飽きない」捨てられる魚のあらを使う麺屋武蔵のラーメン「あら~麺」わたす日本橋で限定販売

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
麺屋武蔵の「あら〜麺」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

物流や調理の効率化により、そのほとんどが捨てられている、魚のあら。そのあらから出汁(だし)をとって作ったラーメンが「あら~麺」だ。人気店麺屋武蔵の矢都木二郎(やとぎ・じろう)代表が東北復興のために料理ボランティアの会で提案し、のちに商品化した。本来食べられるはずの食材を捨ててしまう「食品ロス」(フードロス)の解決にも繋がり、東京の料理評論家や料理人が絶賛している。普段は宮城県石巻市の「石巻げんき市場」にあるフードコートで食べることができ、地元の人に好評を得ている。

石巻げんき食堂で提供される「あら〜麺」料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集
石巻げんき食堂で提供される「あら〜麺」料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集

2018年2月2日に開催された、ダニエル・グスタフソン国連食糧農業機関(FAO)事務局次長を迎えた「食品ロスを考える国際セミナー」。筆者はここで初めて料理ボランティアの会の事務局長、渡辺幸裕氏(株式会社ギリー)と麺屋武蔵の矢都木二郎氏に出逢い、「あら〜麺」の存在を知った。

このたび、東京で三井不動産が運営する「わたす日本橋」で、2018年10月末まで限定販売されているという。渡辺氏にお声がけ頂き、「わたす日本橋」までお話を伺いに行った。

麺屋武蔵の矢都木社長(三井不動産提供)
麺屋武蔵の矢都木社長(三井不動産提供)

三井不動産からいらしたのが、ビルディング本部 法人営業推進グループの大羽康允(やすまさ)氏、宮崎さち子氏、広報部の荒木孝氏。そして料理ボランティアの会の渡辺氏、麺屋武蔵の矢都木氏、わたす日本橋で料理長を務める梁島(やなしま)真吾氏の6名にお会いした。

「東北のポジティブな面を知ってもらいたい」

「わたす日本橋」は2015年3月に開店した。COREDO(コレド)日本橋のすぐ隣にある。三井不動産の宮崎氏が、被災地支援に通う中で「会社として何かできないか」とプロジェクトチームを立ち上げ、三井不動産の事業として店をオープンさせた(2018年1月22日付、日刊スポーツ17面より)。

店名の「わたす」は、南三陸と日本橋の間にわたす心の架け橋、という意味合いを込めている。宮崎氏は「東北のポジティブな面を知ってもらいたい」と語る。

当初は飲食店ということは考えていなかったが、情報発信の場と交流の場を創る中で、「食も外せない」という考えに至った。一階と二階が飲食、三階がイベントやワークショップを行うスペースになっている。

麺屋武蔵の矢都木二郎代表(右)と料理ボランティアの会事務局長の渡辺幸裕氏(左)料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
麺屋武蔵の矢都木二郎代表(右)と料理ボランティアの会事務局長の渡辺幸裕氏(左)料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

2004年の新潟県中越沖地震を機に発足した料理ボランティアの会

「料理ボランティアの会」は、2004年10月23日に発生した新潟県中越沖地震を機に発足した。当時の提唱者である料理評論家の山本益博氏、日本ホテル統括名誉総料理長で国連食糧農業機関(FAO)の初代親善大使である中村勝宏氏をはじめ、2018年9月現在、幹事団32名で構成されている。主要ホテルの総料理長や菓子店オーナーなど、幅広いジャンルの料理人がメンバーとなっている。「食を通じた貢献や交流」を、生産者や飲食業界、学校、自治体などと連携して行なっている。

事務局長の渡辺幸裕氏によれば、2017年からは「Fish & Dish Project」という魚メニュー開発プログラムがスタートしている。漁師曰く「煮たり焼いたりするのは生きの悪い魚だ」そうだ。年に4回、宮城の漁港に足を運び、生産者・料理人・消費者の三者で出来ることを追求している。基本は「出来る人が 出来る事を 出来るだけ」の「3D精神」だ。

帝国ホテル総料理長と日本ホテル総料理長、麺屋武蔵

「あら〜麺」は、2011年秋、宮城県石巻市で誕生した。料理ボランティアの会で、麺屋武蔵の矢都木氏が東北支援の目的で提案。ホテルの魚料理で使用した「あら」から出汁をとった。帝国ホテル 専務執行役員総料理長の田中健一郎氏と、日本人で初めてミシュランの星を獲得した、日本ホテルの統括名誉総料理長の中村勝宏氏が関わった。

2017年以降の「あら〜麺」の流れ

麺屋武蔵の矢都木氏は、2017年5月22日、宮城県の水産高校などを訪問し、地元の学生に指導を行った。

宮城県の水産高校の学生に指導する矢都木氏(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
宮城県の水産高校の学生に指導する矢都木氏(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

とんこつラーメンなどと比べると、「あら〜麺」のスープは澄んだ色をしている。

宮城県水産高校で作った「あら〜麺」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
宮城県水産高校で作った「あら〜麺」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

学生へ指導する一方、シェフなどとスープの味を吟味する「石巻ラーメン会議」も開催した。

2017年5月22日に開催された「石巻ラーメン会議」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
2017年5月22日に開催された「石巻ラーメン会議」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

2017年10月16日の世界食料デーでは、FAOなどが主催するイベントに協力した。

2017年10月16日、FAOなどが主催するイベントに協力 (料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
2017年10月16日、FAOなどが主催するイベントに協力 (料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

2017年10月20日には外務省で開かれた世界食料デーのイベントで「あら〜麺を食べる会」を開催。

外務省で開催された「あら〜麺を食べる会」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
外務省で開催された「あら〜麺を食べる会」(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

「あら〜麺」を食べた外務省員からは「残さず食べました」のコメントがあった。

外務省員のコメント (料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
外務省員のコメント (料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

2018年1月、FAOローマ本部から、ダニエル・グスタフソンFAO事務局次長が来日した折には、FAO駐日連絡事務所長のンブリ・チャールズ・ボリコ氏とともに宮城県石巻市で「あら〜麺」を食べてもらった。

ダニエル氏(右)とボリコ氏(左)(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)
ダニエル氏(右)とボリコ氏(左)(料理ボランティアの会 渡辺幸裕氏提供写真 筆者編集)

「わたす日本橋」の「あら〜麺」

今回の「わたす日本橋」で提供する「あら〜麺」は、矢都木氏が監修した。日によって取れるあらが違う。この日のあらは、石巻産の、ぶりのあら。上には野菜の端材などで作ったかき揚げがのっており、仙台産の野菜や気仙沼のメカジキ、タコなどが使われた。

「わたす日本橋」で提供している「あら〜麺」(筆者撮影)
「わたす日本橋」で提供している「あら〜麺」(筆者撮影)

スープを飲んでみると、普段、肉系のスープのラーメンを食べているせいか、スッキリとした味わい。麺は、筆者ごのみの「かた茹で」で、コシがしっかりしていた。

物流コストのために捨てられる鮮魚のあら

矢都木氏は、あらを扱う難しさをこう語る。

築地からあらを仕入れると、物流コストが高くなり過ぎる。あくまで何かがあっての副産物の「あら」。

魚は切り身にすることで物流コストが下がる。だからあらを捨ててしまう。魚丸ごと一匹で流通することが減ってしまった。宅配も、重量制限があり、30kgくらいまでだったりする。物流がネックになっている。

おそらく、日本のあら全体のうち、使われているのは1%以下ではないか。

出典:麺屋武蔵の矢都木二郎氏の言葉

新鮮なあらが手に入ることが条件なので、東京では、普段は提供していない。

「わたす日本橋」でディナータイムのみ提供する「あら〜麺」(三井不動産提供)
「わたす日本橋」でディナータイムのみ提供する「あら〜麺」(三井不動産提供)

「あら〜麺」の良さは、日によって味わいが変わることだという。

毎回、味が違う。味の変化をよしとすることがあら〜麺の良さ。

出典:矢都木代表の言葉

矢都木氏が将来、目指すのは、「あら〜麺」がどこででも食べられるようになること。

ラーメンじゃなくて、カレーでもいいと思う。(あらを使うのは)どういう料理でもいい。スナックのおばちゃんも出せるようになるといい。

たとえば、蕎麦屋さんではかつおだしで「あら〜麺」。焼肉屋では牛骨のあらを使って「あら〜麺」とか。

あらが捨てられないよう、循環したらいいと思う。

出典:矢都木氏の言葉

「わたす日本橋」では2018年10月末まで、ディナータイムのみ「あら〜麺」のセットを1,580円(税込)で提供している(ディナータイム:17-23時、ラストオーダー22時、日曜祝日・年末年始は定休)。「わたすnihonbashiコース」の〆(しめ)にも、ミニサイズの「あら〜麺」(かき揚げは無し)を提供する。

素材を余すところなく使い切るのがプロの料理人、という言葉がある。麺屋武蔵の矢都木二郎代表や料理ボランティアの会が目指す「食を無駄にしない」ことが、じわじわと広がっていくことを願って。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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