大手コンビニエンスストア加盟店オーナー30名近くにお会いし、そのうち数名を取材した。オーナー有志から、コンビニエンスストア11店舗の損益計算書を入手し、税理士の方に分析してもらった。
よく「食品ロスを減らそうとすると、発注が少なくなり、販売機会の損失になる(売り逃がしになる)。だから、足りなくなるより大量に発注・納品して、余ったら捨てた方がいい」と聞くが、それは本当だろうか。

11店舗のうち、見切り販売をしているのが9店舗
今回の損益計算書を入手できた11店舗のうち、いわゆる見切り販売(*)をしているのが9店舗、していないのが2店舗。
- 見切り販売とは、消費期限などの期限が近づいたものを値引きして販売すること。
それら11店舗の損益計算書を、会計に詳しい税理士の方に、年単位ごとに分析してもらった。

見切り販売すれば例外なくオーナーの取り分(利益)は増えている
今回、対象となった店舗のうち、見切り販売している店舗については、見切り販売していなかった時期のものと合わせて損益計算書を頂き、それを税理士の方にお渡しした。ただ、あまりに現在よりかけ離れた時期だと、景気動向なども違ってしまうとのことで、10年以内で比較ができる4店舗を対象とした。

1店舗目:見切り販売することでサラリーマンの年収単位で利益増加!
1店舗目は、見切り販売していなかった時期の、不良品考慮後の売上総利益率が、26.41%。対して、見切り販売してからの、不良品考慮後の売上総利益率は28.18%。パーセンテージで見ると、そう差がなさそうに見える。
が、この店の売上は2億単位だ。利益率に2%差がある、ということは、400万円の差である。それが、廃棄の損となるのか、利益となるのか、その差は大きい。
国税庁の平成28年分民間給与実態統計調査結果によると、日本人の平均年収は、約420万円である。サラリーマン一人当たりの年収だ。見切りするかしないかで、サラリーマン一人分の年収の差が出ている。税理士曰く、この差は「廃棄で消えてなくなるのか、利益になるのかは、ものすごく大きい」とのこと。
1店舗目は、見切りしていなかった時の年間廃棄額は550万円近く。対して、見切りしてからは100万円台でおさまっている。

2店舗目:見切り販売により、やはりサラリーマン一人分の年収単位で利益アップ
2店舗目。見切り販売していなかった時の、不良品考慮後の売上総利益率は、27.6%。見切り販売するようになってからの不良品考慮後の売上総利益率は、29.42%。パーセンテージの差は2%弱だが、この店舗も売上は2億近くある。ということは、やはり、1店舗目と同様なくらい、利益に違いが出る、ということだ。
廃棄は、見切り販売前は年間350万円以上あり、見切り後は60万円台におさまっている。

3店舗目:税理士お墨付きの優良店舗。「数字にパワーがあふれている」
3店舗目は、見切りする前の損益計算書はないが、税理士が「この店は、おそらく優良店舗だと思う。しっかりと利益が出ている」とお墨付きを与えた店舗だ。なぜならば、年間の廃棄額が20万円台だからだ。実際には30万近いが、それでも、他の店舗とはケタ違いに少ない。
不良品考慮後の売上総利益率は25.99%。
税理士の方は「パワーのあるオーナーさんじゃないかなって、数字見ても思う」とのこと。
筆者は実際にこのオーナーさんにお会いしているが、廃棄金額(商品売価合算)を聞いたところ
だいたい1日1,000円台ですね。ですから月に3〜4万円台。
とのことだった。

4店舗目:やはりサラリーマン年収レベルの利益を確保
4店舗目。ここは見切り販売前の、不良品考慮後の売上総利益率が26.81%。対して見切り販売している一年間は29%。3%近い差がある。売上が2億弱。1店舗目と2店舗目と同様だ。

16名のオーナーに座談会で意見を聞くと・・
損益計算書を入手したオーナー11名と一部重複するが、16名のコンビニオーナーにも話を聞いた。
「月60万円の廃棄を出していたのが、見切り販売をするようになって、廃棄は月5万になった。すぐ近くに店舗出されて、複数店舗の経営はできなくなった。」
「月に40万円の廃棄を出していた。見切り販売をするようになり、廃棄は月6万円になった。」
「コンビニは一日3便の配送があるが、3便も要らない。棚をいっぱいにしておく必要があるのか?と思う。
深夜1時から6時までの売り上げは一桁しかない。深夜時間帯の営業についても考えるべき。」
「病気をしたため、店をたたまなければならないくらいまでなった。それまでは、廃棄に対しての頭がおかしくなっていた。年間400万円くらい廃棄出していた。本部指導でやると廃棄が増える。」
「本部は、仕入れれば儲かる仕組み。年間450万円分の食品を捨ててたのが、見切りをするようになってから、廃棄は年間1万円以下になった。」
「(売れ残った原価をオーナーがほとんど持つ)コンビニ会計の仕組みは、契約前に、ほとんどのオーナーは理解してないと思う。誤解している。このことは、世の中に知らさなければならない。」

見切り販売はフランチャイズ契約には抵触していない
税理士曰く、本部とオーナーとが当初締結しているフランチャイズ契約は「こういうルールでやりますよ」「廃棄分はオーナー負担ですよ」ということでやっているので、見切り販売は、フランチャイズ契約には抵触していない。
当初は、売れ残り分の原価は100%オーナー負担だったが、途中から契約を変えており、本部が一部負担している。企業によってそのパーセンテージは違うが、15%から20%くらいを負担するようになった。ただし、それはオーナーが合意してサインして捺印した場合のみ。「本部負担は不要」と言ったオーナーの場合、本部負担は、ない。
筆者が複数のオーナーに取材した限りでは、「契約内容を100%理解して締結しているオーナーはいないと思う」とのこと。

「見切り販売をある程度使っていくことが店にとって有効」
税理士の見解では、「見切り販売は、フランチャイズ契約に抵触するわけではないので、ある程度、使っていくことが、店にとっても有効ではないか」と言う。
3番目の店舗オーナーは、だいたい2段階に分けて見切りをしていると言う。
「だいたいの商品は2段階値下げ、1回目にある程度の金額を下げて、それでも駄目だったらもう少し下げるっていう。
もっと細かくやるときには3段階でやったりもするんですけどね。それで、できるだけちょっとでも利益取れればいいなって言う。原価だけの回収じゃなくて、少しでも利益取れたらいいなっていうやり方をやってるんですけど。」
「普通の感覚から言っておかしい。これ続けていくと、どこかに歪みが出る」
税理士は語る。
普通の感覚から言って、おかしいですよね。一般の市民の感覚からしても・・・
せっかく作った、食べられるものを捨てて、それで利益が上がるんだみたいなのは、おかしいです。心が痛む。
やり方がちょっと強引ですよね。
こういうことを続けると、結局、どこかしらに歪みが出るし、最終的に、本部に回っていきそうですね。(オーナーと)一緒にやっていくっていうのがないと、長続きはしないんじゃないでしょうか。
問題提起していくことは必要だと思います。
集まった企業のうち、セブン-イレブンジャパンのオーナー向けに発行されている冊子には、食品ロスを減らしていく、ということが説明されていた。


一方、同じ冊子の中には「販売機会ロスを失わないこと」も、好事例の一例として、アピールされていた。

コンビニでもスーパーでもこれからも買い物はしていきたいし、食べられる食べ物は捨てたくない。オーナーさんたちにも「働くことができて幸せ」と思って欲しい。
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<大手コンビニエンスストア2社本部の「見切り販売」に関する回答と「コンビニ会計」の仕組みについて>
<国税庁資料>