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スーパー商談でメーカーが渡す食品サンプルとメディア向けプレスリリースの共通点

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

スーパーマーケットやコンビニエンスストアの商談で食品メーカーが渡す食品サンプルと、メディア向けのプレスリリースとの間には共通点がある。

商談後に捨てられる食品サンプル

全国の複数のスーパーマーケットに勤務している社員291名に「食べ物を捨てた経験」について聞いたところ、89%が「捨てたことがある」と答えた。

スーパー勤務者291名に聞いた結果(株式会社朝日ネットの開発したリアルタイムアンケートシステム「respon」を使い描いたグラフ)
スーパー勤務者291名に聞いた結果(株式会社朝日ネットの開発したリアルタイムアンケートシステム「respon」を使い描いたグラフ)

具体的に捨てたものについて聞いたところ、「食品サンプル」は、回答の多いうちの一つだった。

「サンプル」とは、新商品発売時、スーパーマーケットに「定番商品」として採用してもらうため、食品メーカーが、スーパーマーケットの本部商談などで提供するものだ。商品そのものの場合もあるし、パッケージがない中身だけの場合もある。すでに発売されている「既存品」であっても、「改訂品」と呼ばれる「ボトルデザインの変更」や「フレーバー(味)の種類の追加」などもある。

食品サンプルのほか、チラシや啓発資料の撮影をするのに使った食品を撮影後に捨てる、試食販売の余り、なども挙げられた。食品業界では、春と秋の年に2回、新商品展示会が開催されることが多い。その展示会に来場したスーパーマーケット関係者にも、新製品や改訂品などのサンプルが配られる。

食品メーカーの営業マンの立場からすれば「ぜひ、うちの新商品を採用してください」という思いで食品サンプルを渡す。だが、それを受けるスーパーマーケットなど小売の立場からすれば、扱うアイテム数が多過ぎて、全部は食べきれない(飲みきれない)だろう。必然的に捨てざるを得なくなる。もちろん、このアンケートから「四六時中捨てている」と言えるわけではない。「一度でも捨てた経験がある」ということは言えるだろう。

スーパーマーケットの棚(画像:iStock)
スーパーマーケットの棚(画像:iStock)

到着後に捨てられるプレスリリース

食品サンプルの場合、多数の食品メーカーから、スーパーやコンビニなどの小売店に大量に渡され、消費しきれずに捨てられている。

同じようなのが、全国の企業がマスメディアに送るプレスリリースだ。新商品の発売、新サービスの開始、社長の交代、合併、など、色々あるだろう。送る方は「ぜひ、うちのプレスリリースを載せてください」という思いを込めて送る。でも、それを受けるメディア側は、多ければ一日100件、それ以上のプレスリリースを受け取るメディアもある。送られる手段はメールやFAX、郵送など、さまざまだ。仮に100件のプレスリリースが全て郵送で届いたとしたら・・・全ては読みきれないだろう。開封するだけでも大変だ。必然的に、タイトルだけ見て判断し、あとはゴミ箱直行の場合もある。

筆者は食品メーカーで広報を14年5ヶ月務めていた。退職後はNPO(フードバンク)の広報を依頼されて3年間務めた。その後は、大学の広報室会議のオブザーバーを依頼されて現在に至るまで毎月出席し、2018年4月で4年目になる。これまで合計20年くらい広報に関わってきた。企業広報の時代は、マスメディアの方に「広報はどう振る舞うべきか」「いい広報 悪い広報」などのレクチャーを受けることが多かった。いわゆる「五大メディア」と呼ばれる新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、ウェブサイトの方々の話を聞いてきた。単なるプレスリリースは「捨てられる」。じゃあ、どういう情報を提供すればいいのか。

一つの答えにたどり着いた。それは「相手の(メディアの)立場に立つこと」。具体的な回答はこの記事の本筋ではないので割愛するが、自分の立場(いち企業の広報)のメリットだけではなく、相手の立場のメリットまで俯瞰して考え、配慮することができれば、結果は変わってくる。渡した情報が捨てられなくなる。

書面(画像:iStock)
書面(画像:iStock)

スーパーやコンビニの商談でメーカーが渡す食品サンプルとメディア向けのプレスリリースとの間の共通点

スーパーやコンビニの商談で、メーカーが必死の思いで渡す食品サンプル。その実態を見てみれば、多くが捨てられている。山のようにメディアに届くプレスリリース同様に。そして、それは食品ロスになる。

では、どうしたらいいのか。

プレスリリースと同様、「相手の(スーパーやコンビニの)立場に立つこと」ではないだろうか。たとえば、商品の規格量が500グラム入りだったとする。でも、相手(スーパーやコンビニ)は、他社からも山のように食品サンプルを受け取るわけだから、500グラムも渡したら多過ぎるかもしれない。少量にする。小分けにする。

あるいは商談の場で飲食してもらい、サンプルは渡さないようにする。相手に負担をかけない。結果的にゴミになってしまえば、それは相手の会社が廃棄コストを費やして捨てることになってしまう。そのような労力やコストの負担を相手にかけさせないようにする。

”親バカ社員”がサンプルの食品ロスを増やす

広報の勉強会で印象的だったのが、ある雑誌の編集長の言葉だ。

悪い広報は、親バカ広報。「うちの子(会社)がね、うちの子(商品)がね・・・」を繰り返す。うちの子のことしか語ることができない。

いい広報は、担任教師広報。自社の、業界での立ち位置を俯瞰して把握し、いい点と悪い点を客観的に語ることができる。

出典:ある雑誌編集長の語る「いい広報 悪い広報」

自分の(会社の)ことしか見えないか、それとも相手の(会社の)ことも、ひいては業界全体や社会のことまで見えているか、そこに尽きるのではないか。自分の会社のことしか見えない”親バカ社員”は、相手構わず、サンプルを配りまくり、押し付ける。そして、それは相手の会社(スーパーやコンビニ)で食品ロスになる。

捨てられるパン(画像:iStock)
捨てられるパン(画像:iStock)

スーパーの社員291名のアンケートで挙げられた回答のうち、「食品サンプル」に関するものを、改めて挙げてみたい。

「プレゼン時のメーカー様のサンプル。一口ずつ食べて、後は全て捨てています」

「新商品プレゼンで、一口ふた口食べて、その残りのほとんどは捨てていると思います」

「頂いたサンプルが食べ切れず、賞味期限を過ぎてしまった」

「サンプルを大量に」

「サンプルをたくさん」

「サンプル試食残を大量」

「商品サンプルの賞味期限切れ」

「サンプルをもらったのに賞味期限切れで捨てたことがあります」

「菓子の食品サンプル」

「試食品の見本品の残り」

「試食品を。時には大量に」

「商品サンプルの廃棄」

「会議用サンプル」

「展示会での残飯を実施後に処理する」

「試食で、毎回」

「仕事での試食品。半分程度」

「試食の残り、消費期限切れ」

「スーパーチラシ製作における商品撮影時に終了後廃棄」

「撮影用商品」

「試食販売の、食べて頂けなかった、冷たくなった試食」

出典:スーパーマーケットで捨てる食べ物 社員291名に聞いた結果

あるスーパーの方に、このアンケート結果を踏まえて食品サンプルについてのご意見を伺ったところ、常に余ってどうしようもない、ということではないとのこと。企業の規模や社員数によっても状況が違うので、一概には言えないとのことで、

作る側は、計画してサンプルを作ること。受け取る側のことを考えて数を調整して渡すことも大事。受け取った側は、忘れずにきちんと消費すること。つまり、(サンプルは)無料だからと言って、ないがしろにしていないだろうか?ということだと思う

出典:あるスーパーの方の言葉

とおっしゃっていた。

自社の立場だけでなく、相手の会社の立場も慮ることで、商談や展示会でのサンプルの食品ロスを減らせる可能性はあるだろう。

参考記事:

スーパーマーケットで捨てる食べ物 社員291名に聞いた結果

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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