「食品ロス」いつ頃から言われるようになった?

(写真:アフロ)

2018年3月13日、テレビ東京系列「ガイアの夜明け」でシリーズ ニッポン転換のとき 追跡!食品ロスとの闘いが放映され、筆者も専門家として出演した。

最近、よく「食品ロス」という言葉をメディアで聞くようになったね、と、何人かの人に言われた。

そもそも「食品ロス」という言葉は、いつ頃からメディアに登場するようになってきたのだろうか。そこで、日本最大級のビジネスデータサービスであるG-Searchデータサービスを使い、過去30年間に、国内外の新聞・雑誌、主要150紙誌に登場した「食品ロス」の件数を調べてみることにした。

調査期間は1988年1月1日から2018年2月24日まで。

エクセルの専門家である米谷学(よねや・まなぶ)氏にグラフ作成をお願いした。縦軸に登場回数、横軸に西暦をとった。

1988年1月1日〜2018年2月24日までの「食品ロス」の登場回数( 米谷学氏 グラフ作成)
1988年1月1日〜2018年2月24日までの「食品ロス」の登場回数( 米谷学氏 グラフ作成)

念のため、「フードロス」という語句でも同様に回数を調べた。

1988年1月1日〜2018年2月24日までの「フードロス」の登場回数( 米谷学氏グラフ作成)
1988年1月1日〜2018年2月24日までの「フードロス」の登場回数( 米谷学氏グラフ作成)

「フードロス」は、過去30年間で合計314回。一方「食品ロス」は合計6792回で、「フードロス」の約21倍多い。食品ロスの関係省庁は「食品ロス」という語句を使っており、時代の流れや年による違いは「食品ロス」の方がわかりやすいため、主に「食品ロス」について、グラフをもとに、これまでの経緯を見てみたい。

注目ポイントその1 1997年までは「食品ロス」ゼロ件

まず、1988年から1997年までは、「食品ロス」の登場回数はゼロだった。すでに高度経済成長期は終わっていたとは言え、今ほど環境配慮の機運は無かった。通称「コップスリー」と呼ばれる、気候変動枠組条約第3回締約国会COP3が、1997年12月に京都で開催された。翌年1998年に1件、出ている。この1件は、日本農業新聞 1998.8.27付の記事「生ごみの8割食べ残し、全国生鮮食料品流通情報センター」(掲載面4面)というものだった。

食品ロス削減の先進自治体である京都市は、取り組みの複数あるきっかけの1つが、このCOP3だったと、以前取材で話していた。

家庭ごみの中から出てきた、賞味期限前・消費期限前の食品(筆者撮影)
家庭ごみの中から出てきた、賞味期限前・消費期限前の食品(筆者撮影)

注目ポイントその2 2000年代に入ると安定的に2桁

1998年に1件登場した後は、1999年に18件、2000年に26件、2001年に117件・・となり、2008年までは安定的に2桁を保っていく。

2000年は、食品業界にとって、大きな出来事が起こった年だった。大手乳業メーカーの食中毒事件である。これは業界全体に大きな影響をもたらした。消費者は、それまで気にしなかった些細なことでも、企業に問い合わせたり返品したりするようになった。流通は、食品メーカーに対し、製薬企業並みの品質管理を求めるようになった。ちょうど6月だったこともあり、夏の時期は連日、全国紙に「社告」と言われるお詫び広告が食品メーカーによって掲載された。いわゆる「自主回収」である。筆者も当時勤めていた食品メーカーで2000年の7月、8月と続けて経験した。

特定保健用食品(トクホ)の認可について社内営業会議でプレゼンする筆者(社員撮影)
特定保健用食品(トクホ)の認可について社内営業会議でプレゼンする筆者(社員撮影)

注目ポイントその3 2001年は農林水産省の食品ロス統計調査により3桁に

2001年は、117件と、件数が3桁になっている。2001年1月1日には「農産物流通技術年報」に「わが国における食品ロスの実態(2001年版 農産物流通技術年報-農産物流通技術上の問題点と対策)」(粕谷 敦子)が掲載されており、続いて、農林水産省統計情報部による「平成12年度食品ロス統計調査結果の概要」が、「日食協四季報」や「農業観測と情報」などに掲載されている。また、農林水産省だけでなく、東北農政局も食品ロスの統計調査を行なっており、これらの結果掲載が2001年に増えている。ちなみに117件のうち、最も多いのは朝日新聞の13件である。

農林水産省 第一回食品産業もったいない大賞授賞式でプレゼンテーションする筆者(スタッフ撮影)
農林水産省 第一回食品産業もったいない大賞授賞式でプレゼンテーションする筆者(スタッフ撮影)

注目ポイントその4 「フードロス」は1988年から2006年までゼロ件

「食品ロス」は1998年に初めて登場するのだが、「フードロス」は2007年にようやく3件登場する。面白いのは、2007年の3件のうちの1件と、2008年の1件は、ともに佐賀新聞であることだ。2007年12月4日付では「食が粗末に」というタイトルで、2008年3月30日付では「飽食を見直す時だ」というタイトルで記事が出ている。

最初に「フードロス」という言葉を使っているのは、メディアでの登場をみる限り、昭和学院大学人間生活学科の教員の方のようである。

東京都主催食品ロスについての講演をする筆者(2018年2月28日、東京都職員撮影)
東京都主催食品ロスについての講演をする筆者(2018年2月28日、東京都職員撮影)

注目ポイントその5 「食品ロス」は2009年に対前年比で倍増の161件

2008年に88件だった「食品ロス」は、2009年に161件と、倍増している。この年は何があったのか。最も多くこの件数が登場しているのは毎日新聞の22件。

1つは、セブンイレブンジャパン本部が店のオーナーに対し、弁当などの見切り販売(値下げ販売)を制限するのは不当だとして、公正取引委員会より排除命令が出たことである。

関西最大の食品リサイクル工場「エコの森京都」に入ってきた食品(筆者撮影)
関西最大の食品リサイクル工場「エコの森京都」に入ってきた食品(筆者撮影)

2つ目には、2017年から2018年にかけての時期と同様、この年も、野菜が高騰している。そこで、野菜保存袋「愛菜果(あいさいか)」(165円)という保存袋に注目が集まっているという記事が出ている。例えば産経新聞は「野菜高騰で保存袋に脚光 より長持ち 消費者動く」と題し、2009.09.22付で東京朝刊・16頁(生活面)で報じている。

3つ目には、2008年に立ち上がったフードバンク(まだ食べられる食品を引き取り、必要とする人へ届ける活動もしくはその活動主体)が取り上げられている。2007年に日本初のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパンが民放に取り上げられ、2008年には、山梨・広島・沖縄でフードバンクが立ち上がった。そのうち、山梨の記事などが出ている。

2012年、食生活ジャーナリストの会主催、シンポジウムでフードバンクと食品ロスについて講演する筆者(食生活ジャーナリストの会撮影)
2012年、食生活ジャーナリストの会主催、シンポジウムでフードバンクと食品ロスについて講演する筆者(食生活ジャーナリストの会撮影)

注目ポイントその6 東日本大震災発生の2011年には前年の3桁から2桁に落ち込み

2010年には111件だったのが、2011年には57件と、およそ半分に落ち込んでいる。これはおそらく3月11日に発生した東日本大震災の影響だろう。筆者は当時、食品メーカーの広報室長だったが、1ヶ月近く、プレスリリースの発行を自粛した。他の企業の広報も、多くは同様の措置をとっていたと思う。あの時は、命に関わる報道が優先だった。

2011年4月、当時勤めていた食品メーカーとして、被災した仙台支店の2名にトラックで支援物資を持ってきた筆者(セカンドハーベスト・ジャパンスタッフ撮影)
2011年4月、当時勤めていた食品メーカーとして、被災した仙台支店の2名にトラックで支援物資を持ってきた筆者(セカンドハーベスト・ジャパンスタッフ撮影)

注目ポイントその7 食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチームが立ち上がった2012年10月から再び2桁から3桁へ

食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチームが、2012年10月に立ち上がった。農林水産省、流通経済研究所が先導し、各食品の業界団体から選ばれた企業が、製造・卸・小売と、組織横断的に参加し、いわゆる3分の1ルールと言われる、食品ロスを年間1200億円以上、生み出している業界のルールを緩和するために動き始めた。

筆者は2011年3月11日の震災を機に独立し、この年の秋から3年間、セカンドハーベスト・ジャパンの広報を担当していた。はっきり覚えているのは、2012年10月のワーキングチーム発足のニュースを知った全国紙と民放のテレビ局複数社が一気に取材に駆けつけたことである。夕方のニュース番組の担当者は、とにかく映像を取らなければという血相だった。

この、ワーキングチーム発足、そして毎年、実施されていたこともあり、2012年には88件だったのが、2013年には302件、2014年には421件、2015年には452件と、2桁安定から3桁安定へと増えていった。

農林水産省、食品企業、フードバンクの議論。立って発表する筆者(知人撮影)
農林水産省、食品企業、フードバンクの議論。立って発表する筆者(知人撮影)

注目ポイントその8 2016年1月の廃棄カツ事件で一気に4桁へ急増

2015年には452件だったのが、2016年には2964件と、6倍以上に増えている。いったい、何が起こったのか。

一つは、2016年1月に報道された、廃棄カツ横流し事件である。これは、良くも悪くも「食品ロス」に世間の注目が集まるきっかけになった。

毎日新聞  廃棄カツ横流し事件

(c) yasuhiro (c)Fotolia
(c) yasuhiro (c)Fotolia

また、2015年秋の国連サミットで、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が定まったことも大きい。17のゴール(目標)のうち、12番目に「2030年までに世界の食料廃棄を半減する」というターゲットが掲げられた。

注目ポイントその9 2017年も4桁

廃棄カツ横流し事件の起こった2016年ほどではないが、2017年も1553件と、安定の4桁だった。

SDGsも、先進的な企業は、すでに企業の経営理念や3カ年計画などに取り入れ始めている。

SDGs:持続可能な開発目標(国連広報センターHPより)
SDGs:持続可能な開発目標(国連広報センターHPより)

注目ポイントその10 2018年もコンスタントに増え続けて323件(3月14日現在)

グラフを作った2018年2月24日時点では、2018年の露出は228件だったが、3月14日現在では323件となっている。

最も多いのが北國・富山新聞の28件。そして全国紙、読売新聞の26件、次いで朝日新聞の23件。

1ヶ月あたり100件のペースで増えている。

先週は、小学館の女性週刊誌「女性セブン」の取材を受けた。7ページで食品ロスの特集が組まれた。女性週刊誌は、美容院や医院などにも置かれるので、いわゆる回読率(1つの雑誌が回し読みされる割合)も高い。より一般の人たちに「食品ロス」が少しずつ知られるようになってきている。

お茶の水女子大学の関係者に講演する筆者(参加者撮影)
お茶の水女子大学の関係者に講演する筆者(参加者撮影)

以上、つたない解説ではあるが、過去30年間の「食品ロス」ワードのメディア露出を振り返りながら、経緯と背景を見てきた。

一般の方は、初めて「食品ロス」という言葉を聞いた方も多いかもしれない。が、こうして振り返ってみると、省庁、企業、メディアなど、様々な立場の多くの方が、ずっと以前から「食品ロス」に注目し、携わってきたことがわかる。今回のメディア記事には登場していないが、京都大学は、昭和55年から、家庭由来の食品ロスの調査を続けている。京都市も京都大学と連携し、食品ロス削減対策を進めている。実は「食品ロス」は、ポッと出てきた言葉ではないし、今になって、削減の対策が急に始まったわけでもないのだ。これまで尽力を続けてきた先人への敬意を忘れないようにしたい。

今後も、「食品ロス」という社会的課題に関心が集まり、少しずつでも改善に向かうことを心より願っている。

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。Champions12.3メンバー。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/第一回食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

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