ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018 The Future of Food持続可能な食の未来へ

Nobel Media AB/ Photo:Alexander Mahmoud

ノーベル・プライズ・ダイアログ(ダイアログ)はノーベル賞受賞者、世界をリードする科学者などを集めて、グローバルな課題について議論を行なうイベントだ。毎年スウェーデンでノーベル賞授賞式の前日に開催されているノーベル・ウィーク・ダイアログの派生版として、2012年以降、日本を含む世界各地で開催されるようになった。

(c)Nobel Media AB/ Photo: Alexander Mahmoud
(c)Nobel Media AB/ Photo: Alexander Mahmoud

2018年3月11日、「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018」が、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催された。ノーベル賞受賞者や著名な研究者、ビジネス界のリーダーなどが集まり、今年のテーマ「The Future of Food 持続可能な食の未来へ」に基づいて議論された。

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(c)Nobel Media AB/ Photo: Alexander Mahmoud

このたび、国際食糧政策研究所 ハーベストプラス創始者で経済学者のハワース・E・ビュース博士にインタビューすることができた。ハワース博士は、経済学者として食料需要と栄養状態をテーマとした研究に従事しており、途上国における微量栄養素(ビタミン・ミネラル)欠乏症患者の減少を目指している。私がテーマとしている「食品ロス」とは少しずれる部分もあるかもしれないが、今回のシンポジウムの大テーマが「持続可能な食」ということで、食品ロスもその中に含まれる大きな課題である。そこで、ハワース博士へのインタビューと、彼が登壇する2つの分科会(「持続的発展 開発途上国と食」と「食を巡る政策・制度」)について、取材を行なった。

会場のパシフィコ横浜(筆者撮影)
会場のパシフィコ横浜(筆者撮影)

ハワース・E・ビュース博士へのインタビュー

Q (筆者)

ハワース博士は、野菜への栄養強化を広め、多くの国の栄養状態を向上させることに多大に寄与して来られた。日本では、ライフライン(電気・ガス・水道)が途絶えて調理できる環境にない人や、調理技術を持たない人が多くいる。他国の野菜への栄養強化の先進事例を教えて欲しい。

A (ハワース博士)

途上国での栄養失調に関する主な問題は、野菜や果物、肉などを買えない事情があるということ。たとえ買えたとしても、買える量が少ないため、本来、必要な微量栄養素を摂取しきれない。そこで我々のプロジェクトでは、彼らが大量に摂取する主食の中に微量栄養素を豊富に含ませている。

Q 筆者の経験だと、フィリピンでも、人々が野菜を摂らない傾向にある。そこで麺の中にかぼちゃやモリンガ(フィリピンでは「マルンガイ」と呼ばれる、栄養価の高い緑黄色野菜)を練りこんだものが市販されている。筆者は、日本に輸出されているオクラのうち、規格外で廃棄されるものを刻んで麺に練り込むという実験を行なった。そのような事例はあるか?

筆者がフィリピンで規格外のオクラを廃棄せず、刻んで麺に練りこんで作ったオクラヌードル(筆者撮影)
筆者がフィリピンで規格外のオクラを廃棄せず、刻んで麺に練りこんで作ったオクラヌードル(筆者撮影)

A モリンガは、確かに栄養価が高い。が、フィリピンでの使い方を見ていて気づいたが、スープに入れる時は数枚しか入れない。摂取する絶対量が少ない。そこで、我々が、栄養強化の取り組みとして、主食であるコメに亜鉛を含ませる。食事の中で最も摂取量が多いコメに亜鉛を含ませることで、摂取量の絶対値が上がる。

フィリピンの食事の一例。オクラなど、ネバネバする食感は好まれないため、刻まずに、丸ごと炒め煮などにする(筆者撮影)
フィリピンの食事の一例。オクラなど、ネバネバする食感は好まれないため、刻まずに、丸ごと炒め煮などにする(筆者撮影)

Q フィリピンにはシューマート(SM)と言われるショッピングモールがあり、モリンガコーナーがある。そこにはモリンガを練りこんだ麺や、モリンガを使ったクッキーなどが市販されている。見たことは?

A 見たことがない。(フィリピンに住んでいるので)今度、見てみる。モリンガを使うと加工した麺は価格が高くなるのではないか?

Q(筆者)モリンガヌードルの市販価格を覚えてはいないが、オクラヌードルを実験で作ったことはある。フィリピンの企業では、冬の時期、日本向けに毎日オクラが空輸されるが、規格が厳しく、年間100トンから200トン、廃棄している。そこでこれを引き取り、フィリピンの16の施設に配分したり、賞味期間を延ばすため、オクラヌードルを作ったりした。

筆者が青年海外協力隊時代に任地だったフィリピンのTSU(Tarlac State University)で、行政(赤いシャツ)が大学職員と大学生に、オクラヌードルの作り方を指導した(筆者撮影)
筆者が青年海外協力隊時代に任地だったフィリピンのTSU(Tarlac State University)で、行政(赤いシャツ)が大学職員と大学生に、オクラヌードルの作り方を指導した(筆者撮影)

Q 具体的にフードロスを使った栄養強化の事例はあるか?

A 栄養価向上(栄養強化)については、植物が育っていく過程で、すでに栄養強化されていっているので、収穫された時点で栄養価がすでに高い。収穫した時と比べると、その後の粉砕などの工程を通ると、食べる時には栄養価が下がってしまう。収穫した時と、食べる時の量は違う。しかし、それでもなお、一日摂取必要量のうちの40%は摂取できる。そういう効果を持っている。

Q フィリピンでは、亜鉛を強化するコメを使っているとのこと。人々はフライドチキンやコーラが好きなので、それらの摂取でミネラル摂取の効果が相殺される懸念はないのか?

A フライドチキンやコークを買える人は、所得水準の高い人。我々が対象にしているのは、ある程度、野菜は摂取できるけど、必要な摂取量を満たすことができない人。動物性の栄養素を摂取するとしても、非常に小さい量のお魚、乾燥させたものしか摂取できていない。そういう人々を対象にしている。でもフライドチキンは食べない方がいいと思う。教育の問題もある。フィリピンでは、肥満や糖尿病という問題が悪化している。過剰摂取の問題。我々が取り組むのは、その逆の、飢餓状態の人。

Q 最も印象に残っているプロジェクトは?

A これまで、壮大なプロジェクトに関わってきた。コメ、小麦、メイズ(とうもろこし)、キャサバなどを対象に栄養強化を行なってきた。我々の取り組みは「可視化」を推奨している。たとえばビタミンA を含んでいるものはオレンジ色なので、オレンジ色のものを意識させる、といった。アフリカの人々が摂取しているのは白いメイズ。ビタミンA不足のビタミンA欠乏症は、アフリカでは深刻な問題となっている。

アフリカでは、オレンジ色のメイズも白いメイズも同じ価格。そこで、母親に「家族をビタミンA欠乏症から守るために、白ではなく、オレンジのメイズを買ってください」という啓発活動を行なっている。そうすると、母親たちから「味はどうなのか?」と聞かれる。幸い、味は気に入ってもらった。20年後のアフリカでは、オレンジ色のメイズしかない国を実現させたい。人参も、今でこそオレンジだが、もともとは白い人参だった。

Q(筆者)ナスも、ヨーロッパでは白いが、日本では紫色だ。

A その通り。アスパラガスも、ヨーロッパでは白い。

(今日している)このネクタイは、オレンジを意識して選んでいる。

ハワース・E・ビュース博士(撮影:ハーベストプラス Maggie Kamau-Biruri)
ハワース・E・ビュース博士(撮影:ハーベストプラス Maggie Kamau-Biruri)

Q 一番難しかったプロジェクトは?

A どの食物にも、ハイポイント、ローポイントがある。先ほど、オレンジのメイズの事例をあげた。十分なビタミンAを含むオレンジのメイズを当初見つけることができなかったので、無理かもしれない・・と、途中、中止になりかけた。その時に、タイでビタミンAの含有量の高いオレンジメイズを見つけることができた。白のメイズの方が歩留まりはいいが、栄養価の(VAの)いいオレンジと品種勾配し、オレンジのメイズを栽培することができるようになった。その後、遺伝子科学者がある遺伝子を調整することで、さらにビタミンAの栄養価をあげることができた。

研究を行なっていると、必ずしも結果が出るとは限らない。が、成果が出ない時は、もともとの設計に問題がなかったか、立ち戻って、そこを修正することによって、いい結果が出ることもある。一つの方法がダメでも、いろいろな方法を粘り強く、導き、方法を編み出していく。

一つの作物について、いろんな方に普及活動を行なう中でも、教え方が悪くてなかなか広がらないこともある。そんな時は栽培が広がらないこともあるので、いろいろな方法を試し、粘り強く努力をすることが鍵だと思います。

Q 博士のその粘り強さはどこで培われたのか。

A「これがいいアイディアだ」というところに信念を持ったから。諦めてしまうと、他にやることがなくなってしまう。これが無理ということを自分自身が納得するまで、粘り強く推進していくこと。全てにおいて粘り強いわけではない。料理の腕は上達しない。作物の25年はいいが、料理の10分は耐えられない。

以上

(会議通訳:日本コンベンションサービス株式会社 青木絢氏)

(同席者:ハーベストプラス Maggie Kamau-Biruri、MMSコミュニケーションズ株式会社 村勢達郎氏)

会場には宇宙食も展示され、宇宙飛行士の向井千秋氏も会議で登壇した(筆者撮影)
会場には宇宙食も展示され、宇宙飛行士の向井千秋氏も会議で登壇した(筆者撮影)

「将来の食と持続的発展に向けた挑戦」13:45からの分科会 「持続的発展 開発途上国と食」

講演者プロフィール

(文章中、敬称略)

モデレーター 岩永勝

スクリーンに映し出された岩永勝氏(写真右端、筆者撮影)
スクリーンに映し出された岩永勝氏(写真右端、筆者撮影)

アキンウミ・A・アデシナ(以下、アキンウミ)

どのように1億8000万人に食を提供するのか。アフリカでは、汚職対策を行なった。実際に政府が購入していた肥料が、農民の手に届いていないことがあった。肥料のうち、11%程度しか、農民の手に渡らないという現状。そこで中間業者を無くすという大きな改革を行なった。

スクリーンに映し出されるアキンウミ氏(写真、右から2番目、筆者撮影)
スクリーンに映し出されるアキンウミ氏(写真、右から2番目、筆者撮影)

ハワース・E・ビュース(以下、ハワース)

微量栄養素の分野は、なぜそんなに重要なのか。国際政策栄養研究所の、いくつか成功事例を示す。かつて、栄養状態を示すバロメーターとしては、エネルギー(カロリー)しかなかった。しかし調べてみると、食事の質が問題だということがわかった。インドネシアの一万人の子どもにビタミンAのサプリメントを提供し、プラセボ(コントロール群)より30%死亡率が低くなった。8カ国で同様の実験を行ない、死亡率が平均で23%下がった。鉄に関しては、就学前の子どもに与えることで、認知力が上昇した。亜鉛に関しては、免疫力が上昇する。毎年45万人が、亜鉛の欠乏で亡くなっている。なぜ世界の20億人もが欠乏症になっているのか。ここで主食と、非主食に分けて考えてみると、世界では、主食の生産は満ち足りている。価格は過去50年変わっていない。一方、フルーツや、野菜、動物性たんぱく質(肉など)の価格は、2倍、もしくは数倍に増えている。つまり、食事の質を変える必要がある、ということだ。十分なビタミン・ミネラルを供給していない。大豆やコメは、毎日、人々が摂取する。そこで、そこに栄養強化する。180種類の栄養素のものを、35カ国で販売している。貧しい人の食事に盛り込もうと思っている。

スクリーンに映し出されるハワース博士(写真、右から3番目、筆者撮影)
スクリーンに映し出されるハワース博士(写真、右から3番目、筆者撮影)

岩永勝

そういえば、昔、学校給食で、ビタミンAの錠剤飲まされたことがあった。

マリオン・ギユー(以下、マリオン)

日本では、土壌の重要性は理解されているが、どのように土壌の健全性を高めるのかについては十分な理解がなされていない。土壌問題は確かに増えているが、解決法もある。土壌の炭素量をどう増やすか、ということ。炭素量を増やすことで、より多くの微生物が住めるようになり、環境が良くなる。フランスでは、どうすれば土壌の活力が増えるのかを研究するため、二酸化炭素におけるいろんな測定を行なっていた。

スクリーンに映し出されるマリオン氏(写真、左から2番目、筆者撮影)
スクリーンに映し出されるマリオン氏(写真、左から2番目、筆者撮影)

フィン・E・キドランド(以下、フィン)

コペンハーゲン・コンセンサスでは、4~5人のノーベル賞受賞者を招いている。飢餓と栄養不足の解決策は、常にトップに上がってくる。

子どもに対する、亜鉛やヨウ素の栄養強化など。これを、便益費用比(コストパフォーマンス)で判断することがあるが、その比率には不確実性要素が含まれている。

アキンウミさんが午前中に言ったように、子どもが生まれてから1000日は、発達障害を防ぐ上で重要な期間。母親の胎内にいた9ヶ月間と、生まれてから2歳になるまでの合計3年間。インドネシア、フィリピン、インド、ベトナムなどでみてみると、必要なコストである1人あたり100ドルという値段は、国によって変わらない。が、便益が異なる。バングラデシュは真ん中くらいの便益。

アキンウミ

アフリカでは、アフリカン・リーダーズ・ポリティシャンと言って、栄養のためのアフリカリーダーの制度を作った。政策として進め、人を採用する。また、「アフリカ栄養指数」という指標も作った。インフラ対応や栄養成分強化、バイオ栄養強化、母乳への栄養強化など、早く行動していく必要がある。新たなやり方で栄養強化をしていく。

マリオン

ありとあらゆる栄養戦略に関係することが、世界の全ての大陸で起こっている。糖や脂質は安いが、非主食が(高くて)手に入らない。栄養問題は、一つの問題には留まらない。教育、財務、価格など、包括的に、全てを考えなければならない。食べることは個人の判断だが、TVのコマーシャルに影響されて、食べ過ぎることもある。食文化や、住んでいるところ、価格、購買力、学校に自販機があるかどうかなどの違いにも影響される。

Q&A

Q 近代化する前の日本を調査しているが、かつてはし尿が肥料に使われていたのに、水洗トイレの普及により、それが消えてしまった。栄養素が過剰になり公害になっているのではないか。

A アキンウミ

アジアのグリーン革命では、「種子」と「肥料」がアジアで貢献した。アフリカでは先に述べたように肥料が十分ではなかった。2006年、私を含む2人でアフリカの肥料サミットを開催した。アフリカでは、肥料の過剰な使用ではなく不足が問題となっている。もちろん、マリオンさんが、今朝、土壌の構造について言及していたように、肥料だけでなく、土壌中の有機物にも注目しなければならない。世界の100億人を養うのに、有機農産物だけで養えるのか?という問題がある。中国では、3000万人が飢餓で亡くなっている。バランスの問題。

Q 自分は大学生。日本ですら、非主食が足りていない。なぜ野菜がこんなに摂取できないのか。なぜ先進国でもこうなのか。価格の差が存在しているのか。

A ハワース

健康と、所得と、どちらが大事?という質問をすると、多くが「所得」と答える。国の健康のために政策を作るのか、それとも所得のために政策を作るのか、と聞くと、所得が優先されている現状がある。

岩永氏(筆者撮影)
岩永氏(筆者撮影)

A 岩永勝

コメ、トウモロコシなどの主食には、研究費がたくさん使われて、うまく作られるようになった。しかし、野菜については十分な研究がなされていない。研究や生産がうまくいけば。どうしても、お腹いっぱいになるもの(主食)を食べてしまう。日本ですら、野菜の摂取量は減っている。自分は最初、農学部の園芸学科に在籍していたが、後にそこから移ってしまった。そこに居続ければ、野菜の生産に貢献できたかもしれない。若い人には、ぜひ、野菜の研究をして欲しい。

会場のゴミ箱は7種類に分別されるようになっていた(筆者撮影)
会場のゴミ箱は7種類に分別されるようになっていた(筆者撮影)

「将来の食と持続的発展に向けた挑戦」14:45からの分科会「健康 食を巡る政策・制度」

(文章中、敬称略)

東日本大震災が発生した14時46分、全員で1分間の黙祷を行なった。

モデレーター 藤垣裕子

表示はどれくらい役に立つものか。どうすれば消費者に適切な情報を提供できるか。

スクリーンに映し出された藤垣氏(筆者撮影)
スクリーンに映し出された藤垣氏(筆者撮影)

マリオン・ネスル(以下、ネスル)

東日本大震災のあの時、日本にいた。講演していた。全てが揺れた。忘れることができない。黙祷の機会に感謝。

ネスル氏(手前から2番目、筆者撮影)
ネスル氏(手前から2番目、筆者撮影)

ハワース・E・ビュース(以下、ハワース)

ビタミンA欠乏症はアフリカにおける重大な疾病。彼らが主食としているのは白いメイズ(トウモロコシ)。ビタミンAが入っていない。そこで、オレンジ色のトウモロコシを開発した。値段は同じなので、オレンジのを食べて欲しいと母親に啓発している。ブラインドテストをしたところ、オレンジの方がちょっと甘みがあり、現地の好みにも合致したので、こちらが選ばれるようになった。そこで、オレンジ色のトウモロコシを使って、テレビドラマをやったり、ノリウッドの映画の中にオレンジのトウモロコシを入れたりした。やがて、口コミでこれが広がっていった。20年、25年かけて実施した。

ハワース氏(筆者撮影)
ハワース氏(筆者撮影)

クロード・フィッシュラー(以下、クロード)

混乱するのに「表示」は大いに役立つ(会場、笑)。

「もっと情報を」という人がいる。でも結局、消費者は、賞味期限の日にち、消費期限の日にちしか見ていない。たくさんの情報があっても、結局はそう。加工食品を食べているから、そういうことになる。さらにそこにパッケージの情報がある。健康に関しては、モラル的な要素がある。そこにはバイアスがある。こうせよ、ああせよ、何を食べろ、ということには道徳的なニュアンスがある。

クロード氏(筆者撮影)
クロード氏(筆者撮影)

ネスル

超加工食品や、ジャンクフード、乳製品といったものには表示がある。でも、野菜には、そういうのはついていない。アメリカでは、消費者側は、「何が入っているのを知りたい」から表示がある、というのがある。たとえば飽和脂肪酸や糖分、塩分がどれくらい入っているかを知りたい。食品企業は「これが健康にいい」と言いたいから表示したい。全く(表示が)ないものを食べたほうが、健康にいいのかも。

アダ・ヨナット(以下、アダ)

表示は単純な話ではない。複雑な問題。賞味期限、消費期限は、(実際より)かなり早く設定して、(企業は)どんどん売ろうとする。生鮮食品には、それ(表示)はついていない。ダメだと思えば食べない。

ノーベル賞受賞者のアダ氏(筆者撮影)
ノーベル賞受賞者のアダ氏(筆者撮影)

クロード

40~50年前に比べたら寿命が延びた。昔はそんなラベリング(表示)はなかった。どれくらい長生きできるかと、自分が何を食べているか知っているということは、必ずしも一対一(比例関係)ではない。

藤垣

サプリメントは、売る人にとっては機能している。

ネスル

大儲けしている。米国では50%以上の人が摂取している。

クロード

人間の行動は、理性だけではないし、気まぐれだけでもない。

ハワース

途上国では、ビタミン・ミネラルを就学前の子どもに与えることが貢献している。高容量のビタミンA投与すると、20から30%ぐらい、死亡率が改善する。ユニセフではこれまで100億個のサプリメントを提供してきている。これは良い投資。下痢の子どもたちには亜鉛のサプリメントを提供する。

アダ

本当に必要なところに提供することと、そうでないところに提供するのとは、大きな違いがある。

Q 教育プログラムがあれば、より良い選択につながるか?

A ネスル  

食環境全体を健全な状況にしていく。個人のレベルでは済まない。

A クロード

もっとも栄養教育に力を入れてきたのは米国。

(ネスルより「結果は?」と問いが入り、会場から笑)

A クロード

評価していいんじゃないですか?人々には、こういう栄養価、生活をこう改善しよう、と。

マリオン・ネスルさんが言うところの「合理的なシステム」に変わっていくのかもしれない。

個人の習慣を変えさせるのは難しい。「肥満」はどこの国もみられる。南半球でもみられる。肥満問題は、貧しい人たちが一番大きな打撃を受ける。教育に止まらず、社会的な問題でもある。食の資源配分を考えなければいけない、と。必要なのはアメリカンスタイルの栄養教育ではない。

A ハワース

環境を適正にすること。行動を変えることは難しい。コメ、小麦、トウモロコシ・・・価格は長年にわたって下がってきた。50年の間に、野菜などの値段が2倍になった。もっと野菜、果物、動物性タンパク質が摂れるように。価格が2倍になれば、人々の行動が変わってくる(のは当然のこと)。

A アダ

博士や先生に言われると、ああそうだ、と思うのだが、家に帰ると、博士や先生に言われたことは(実際は実行)できない。その背景に、それを支える環境がなければいけない。

A ネスル

環境を変えるのは難しい。変えよう、という、政治的なことがない。一方で、統一化された食品産業がある。まずは教育。

A クロード

パリでは一日一万歩、歩いている。パリの地下鉄は階段が多い。オフィスまで、車でいけば一日1000歩しか歩かない。でも地下鉄に乗ったら1万1000歩歩く。パリでは、地下鉄を使っている人が一番歩いている。

Q 自分は、健康ではない食品を摂取しているかもしれない。健康になるために、より避けるべきものは?

A ネスル

どれくらい食べるかによって異なる。何を食べるかより、どれくらい(の量を)食べるかが重要。砂糖入りのドリンクも、少しならいい。大量に飲むからいけない。「絶対食べてはいけない」とは「絶対」言わないようにしている。

A クロード

何を食べろ、とは言わない。食べ過ぎると毒になる。

A ハワース 

微量栄養素、相関関係、動物性蛋白で出てくる。

Q 健康のイメージ、何か数字、「この数字を達成したら健康になる」というのはある?

A ネスル

反対の話(不健康になるためのこと)を規定するのは簡単だが。(この質問に対しては)言葉がない。定義されていない。いろんな側面がある。なぜそんな定義を知りたいのか?

Q 別の言い方をすれば、毒が入っていなければ、何を食べてもいい、ということ?理想像がある?

A ネスル

生きるために、エネルギーや、微量栄養素など、必要な割合で手に入れる方法には無限のやり方がある。十分な量を摂り、いろんな種類の食品を摂取し、できるだけ加工レベルが低いものを摂るということ。決まった処方箋はない。

A ハワース

途上国の子どもは身長が低い。SDGsでは、子どもたちの発育に言及されており、発育不全の数字(割合)を下げていく。個々人ではなく、手段として。

Aアダ

肺炎だったらその瞬間は健康でない。治れば「健康」になる。そんな単純な問題ではない。なぜそんな定義を知りたいのかわからないが、難しい問題。

A クロード

別のことから立て直してみると、これはいい質問。我々は、どうしても、一つの最適な食べ物があるかのように話してしまう、地中海式とか、日本式、沖縄スタイルなど。でも健康になるには無限の可能性がある。たとえばイヌイットは植物(性のもの)を摂取しない、東南アジアでは肉食はあまりしない、オムニボラス(なんでも食べる)。長寿、を基準にすることは、必ずしもいいことではないが、たとえば100歳。加工食品を食べて、長々と生きている人がいる。

午前中のメイン会場。ノーベル賞受賞者の大隅良典氏が基調講演「オートファジー研究から食について考える」を、続いてパネルディスカッションを行なった(筆者撮影)
午前中のメイン会場。ノーベル賞受賞者の大隅良典氏が基調講演「オートファジー研究から食について考える」を、続いてパネルディスカッションを行なった(筆者撮影)

以下は、3月11日付プレスリリースで発信された内容。

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018について

ノーベル賞受賞者や著名な研究者、ビジネス界のリーダーなどが本日、3月11日に集まり、最近の社会や医療、科学分野での課題及びその解決策について話し合いました。今年のテーマ「The Future of Food 持続可能な食の未来へ」はメディア、専門家、有識者、政界関係者、ビジネス界のリーダー、研究者、学生など、国民全般から広く注目されているテーマです。

ノーベル財団のラース・ヘイケンシュテン(Lars Heikensten)専務理事はノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018の開会挨拶で次のように述べました。「アルフレッド・ノーベルは、模範となる人や組織は、世界を理解し改善できるということを示している、と考えていました。この考えのもと、ノーベル財団はSNS、ストックホルムやオスロのミュージアム、国際会議及び博覧会において課題と解決策を示し活動しています。世界中の人たち、特に若い人たちに、科学、文学や平和の分野に興味を持っていただきたいと思っています。

本日のテーマ「The Future of Food 持続可能な食の未来へ」はグローバルな食料の供給及びそれに関連した多様な課題を取り上げます。気候変動については既に限界を迎えており、今後食生活を変えざるを得ないときがくると思います。そして、それが人間にとって、社会にとって、食生活にとって、そして食べ方自体にとってどのような影響を及ぼすか。非常に興味深いです。」

公式ウェブサイト

今回登壇いただいたノーベル賞等受賞者:

ヨハン・ダイゼンホーファー 1988年ノーベル化学賞

ティム・ハント       2001年ノーベル生理学・医学賞

フィン・E・キドランド   2004年経済学賞

アダ・ヨナット       2009年ノーベル化学賞

大隅 良典         2016年ノーベル生理学・医学賞 (5名)

講演者リスト 

ノーベル・プライズ・ダイアログ(ダイアログ)はノーベル賞受賞者、世界をリードする科学者、有識者や専門家を斬新かつ学際的な組み合わせで集め、だれもが影響を受けるようなグローバルな課題について議論を行うイベントで、一般公開されています。科学者間だけではなく、科学と一般社会の間の情報共有やディスカッションを促すことを目的としています。

ダイアログは参加無料で世界中からオンラインでも視聴可能になっています。2012年から、毎年スウェーデンでノーベル賞授賞式の前日に開催されているノーベル・ウィーク・ダイアログの派生版として日本を含む世界各地で開催されるようになりました。

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018はノーベル・メディアAB及び独立行政法人日本学術振興会により開催され、ノーベルインターナショナルパートナーの3M、ERICSSON、SCANIA及びVOLVO Cars、特別スポンサーの株式会社ロッテ、株式会社ヤクルト本社及びスポンサーの大正製薬株式会社より支援されています。

イベント映像(講演など)配信チャンネル(英語・日本語で視聴可能)

【本件お問い合わせ】

独立行政法人日本学術振興会

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018事務局

TEL:03-3263-1725 E-mail:nobelprizedialogue@jsps.go.jp

出典:2018年3月11日付プレスリリース