Yahoo!ニュース

スーパーマーケットで捨てる食べ物 社員291名に聞いた結果

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

全国の、複数のスーパーマーケットに勤務している社員の方々に、仕事上で食品を捨てたことがあるかどうか、捨てたことがある場合、その食品と量について、アンケート調査を行なった。調査は、株式会社朝日ネットが開発したシステムrespon(レスポン)を活用し、2017年10月に実施した。800名強に質問したうちの291名が回答した。

最初に強調しておきたいのは、特定の企業やスーパーマーケット業界を批判するのがこの記事の目的ではなく、大量生産・大量販売・大量消費といった社会構造を変えていくこと、消費者の「商品棚の奥に手をのばして新しいものを取っていく」などの購買行動を変えることが目的である、ということだ。スーパーマーケットなどの小売業界は、すでに2012年(平成24年)から2015年(平成27年)にかけて、農林水産省や流通経済研究所と食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチームで、食品ロス削減のためのさまざまな取り組みを続けてきている。

食品ロスの発生には、事業者も消費者もすべての人が関わっている。生産から消費までの「フードバリューチェーン」の至るところで起きている。(フードバリューチェーンとは、生産から流通、製造、加工、卸、小売、消費段階に至る一連の流れを指す)

スーパーマーケットで廃棄する原因は、消費者が作っている場合も多い。買い物をする消費者の多くが、より新しい日付の賞味期限の食品を購入しようとして、商品棚の奥に手をのばしたことがあると語っている(respon:レスポンを使っての筆者調査による)。棚に残った日付の古いものは、販売期限が切れたら処分される。美味しさの目安である「賞味期限」を、品質が切れる日付と誤解している人も多い。「新しければ新しいほど良い」との思い込みもある。われわれ消費者の側も意識を変えることが必要だ。前述のような、食品ロスを生み出す食品業界の商慣習を変えていくことも重要だ。

全体の89%が「仕事上で食べ物を捨てたことがある」と回答

今回の調査では、仕事上で、食品を捨てたことがあるかどうかについて質問した。

仕事で食べ物を捨てたことがありますか?(responのシステムで筆者が調査しグラフ作成)
仕事で食べ物を捨てたことがありますか?(responのシステムで筆者が調査しグラフ作成)

89%が「はい」と答えた。

次にどのような食べ物を捨てたことがあるか、量がわかる場合は量についても聞いてみた(自由回答)。個人的なことと誤解していると思われる回答は排除した。企業が特定されそうなものは、特定な固有名詞を除いて表記する。

捨てられるパン(画像:iStock)
捨てられるパン(画像:iStock)

「想像つかないくらい捨てた」

まず目についたのが、食品の名前を挙げずに、大量に捨てたことを示す回答である。重量や、ゴミ袋の数だけを示した回答もあった。

「大量」

「数え切れないくらいの食品」

「数え切れないくらい」

「想像つかない」

「覚えてないくらい」

「わからないけど相当量」

「わからないくらい捨てています」

「もったいないと思うくらい」

「わからないくらい」

「数えきれない」

「色々な物」

「約10kg」

「ゴミ袋で3袋」

「1kg」

「いろいろなものをかなりの量」

「日によって色々」

「1日に2,000円から3,000円」

家庭ごみの中に入っていた賞味期限・消費期限前の高級菓子、菓子パン、カツ丼、ピザ、惣菜など(筆者撮影)
家庭ごみの中に入っていた賞味期限・消費期限前の高級菓子、菓子パン、カツ丼、ピザ、惣菜など(筆者撮影)

商品サンプルが多く捨てられている

多く挙げられていたのが、食品メーカーからの「サンプル」だ。「サンプル」とは、新商品発売時、スーパーマーケットに「定番商品」として採用してもらうため、食品メーカーが、スーパーマーケットの本部商談などで提供するものだ。商品そのものの場合もあるし、パッケージがない中身だけの場合もある。既存品であっても、改訂品と言われる「ボトルデザインの変更」や「フレーバー(味)の種類の追加」などもある。

チラシや啓発資料の撮影をするのに使った食品を、撮影後に捨てる、試食販売の余りなども挙げられた。食品業界では、春と秋の年に2回、新商品展示会が開催されることが多い。その展示会に来場したスーパーマーケット関係者にも、新製品や改訂品などのサンプルが配られる。

スーパーの棚(画像:iStock)
スーパーの棚(画像:iStock)

以下が回答である。

「プレゼン時のメーカー様のサンプル。一口ずつ食べて、後は全て捨てています」

「新商品プレゼンで、一口ふた口食べて、その残りのほとんどは捨てていると思います」

「頂いたサンプルが食べ切れず、賞味期限を過ぎてしまった」

「サンプルを大量に」

「サンプルをたくさん」

「サンプル試食残を大量」

「商品サンプルの賞味期限切れ」

「サンプルをもらったのに賞味期限切れで捨てたことがあります」

「菓子の食品サンプル」

「試食品の見本品の残り」

「試食品を。時には大量に」

「商品サンプルの廃棄」

「会議用サンプル」

「展示会での残飯を実施後に処理する」

「試食で、毎回」

「仕事での試食品。半分程度」

「試食の残り、消費期限切れ」

「スーパーチラシ製作における商品撮影時に終了後廃棄」

「撮影用商品」

「試食販売の、食べて頂けなかった、冷たくなった試食」

賞味期限(黄色)と消費期限(赤)の違い。グラフの縦軸に品質、横軸に経過日数を示している(農林水産省HPより)
賞味期限(黄色)と消費期限(赤)の違い。グラフの縦軸に品質、横軸に経過日数を示している(農林水産省HPより)

「消費期限」「賞味期限」「販売期限」の違い

「消費期限切れ」「賞味期限切れ」「販売期限切れ」といった、「期限切れ」という語句も多く見られた。ここで、それぞれの用語について、整理しておきたい。

「消費期限」は、主に、日持ちが5日以内のものにつけられる。たとえば、惣菜や、弁当、サンドウィッチ、生クリームを使ったケーキ、精肉類など。

「賞味期限」は、美味しさの目安。レトルト食品などは1年以上、乾麺も2年以上のものが多い(そうめんなどはそれ以下のものもある)。缶詰は、缶の品質が保持される3年間とされている。

「販売期限」は、賞味期限や消費期限より手前に設定される。食品業界の商慣習である「3分の1ルール」では、賞味期間全体のうち、賞味期限の手前3分の1に設定される。例えば6ヶ月の賞味期間がある食品であれば、その手前3分の1である4ヶ月で販売期限は切れる。

賞味期間が1年以上のペットボトルにもキャップ部分などに賞味期限が記載されている。年月日表示から年月表示へ移行しているが、充分ではない(筆者撮影)
賞味期間が1年以上のペットボトルにもキャップ部分などに賞味期限が記載されている。年月日表示から年月表示へ移行しているが、充分ではない(筆者撮影)

期限表示は廃棄を生みやすい

以下が、実際の回答のうち「期限切れ」という語句が入っていたものである。

「自社商品 出荷期限 3分の1ルール切れ」

「使用期限切れの食材」

「賞味期限が切れてしまったものを捨てています」

「日付切れ商品を45リットルゴミ袋に20袋」

「賞味期限切れを大量に」

「賞味期限切れ商品をたくさん」

「賞味期限の切れたもの」

「過剰仕入れして、賞味期限が残り少ないものや、切れたもの。返品になったもの」

「日切れの商品たくさん」

「期限切れの商品を、1日平均2個」

「消費期限切れの商品」

「賞味期限切れ商品」

「期限切れの商品を、今までに大量に」

「期限切れ商品」

「日付切れの商品」

「揚げ物やおにぎりなどの賞味期限が切れたもの」

「日付切れのパンを10個ぐらい」

「賞味期限切れの商品を相当数」

「賞味期限が切れた商品」

「販売期限切れのあらゆる食品を数え切れない量、捨てました」(コンビニエンスストア)

「消費期限切れの米飯類」

「パンをゴミ袋一杯に捨ててます。飲み物も期限切れのものはどんどん捨ててます」

「期限切れのパンや調味料を大量に」

パン(筆者撮影)
パン(筆者撮影)

炊いた米飯やパンも多い

外食業界の食品ロスでも目立つのが、「米飯」「パン」「麺」といった主食、炭水化物類だ。今回の調査でも多く挙げられた。

「パンを300斤」

「パン30パック」

「お弁当」

「弁当やサンドウィッチ類を1日20人前以上」

「白飯、数え切れないほど」

「お米を5合」

「ご飯を100g程度」

「ご飯。冷凍して、その後、たくさん捨てている」

「ご飯」

「惣菜、パン、毎日数万円(分)」

「パンを山ほど」

「ケーキ、パン」

「ハンバーガーに使うパンやお肉などたくさん」

「野菜、魚、パンなどたくさん捨てました」

「パンを6個ぐらい」

「ドーナツをたくさん」

「お弁当」

寿司(筆者撮影)
寿司(筆者撮影)

精肉や鮮魚

「日配品」と言われる、日持ちのしづらい精肉類や鮮魚、刺身、寿司なども目立った。

「寿司、揚げ物、100kg」

「皿盛りや生寿司で正規売価30,000円」

「寿司を10人前」

「シャリをたくさん」

「惣菜、寿司、月60,000円くらい」

「寿司を40パックほど」

「肉、野菜、タレなど」

「お刺身300gパック5個、野菜」

「刺身10パック」

「生魚を1切れ」

「生物を沢山」

「魚」

「魚をたくさん」

「魚を週に5kg」

「加工品、魚、1kgぐらい」

「甘った数の子10kg」

「刺身、大量」

「鶏肉1kg以上」

「肉500g」

「肉300g」

「お肉、かなりの金額を捨てています」

「肉をそれなりに」

「肉を1パック」

「肉、野菜など」

「肉、めん類、豆腐、スープ」

「肉の脂を結構」

「フライドチキン」

「鶏肉」

「肉80グラム」

鶏の丸焼き(筆者撮影)
鶏の丸焼き(筆者撮影)

野菜・果物

野菜や果物などは、家庭の冷蔵庫でロスになる場合も多いが、スーパーでも多くロスになっている。

「みかん300ケース」

「バナナ10ケース」

「傷んだ果物を1袋」

「果物、野菜、1日2〜3点」

「フルーツの販売できないものを廃棄」

「野菜、果物、食品全般」

「野菜を1箱」

「野菜」

「キャベツ半分」

「レタスいっぱい」

「野菜の残り」

「野菜を丸ごと」

「果物、野菜をたくさん」

「野菜をいっぱい」

キャベツ畑(画像:iStock)
キャベツ畑(画像:iStock)

惣菜・豆腐・卵・漬物・乳製品・生菓子

パンや肉・魚、野菜、果物と合わせて「日配品(にっぱいひん)」と呼ばれる、いわゆる日持ちの短い食品は、ロスになりやすい。たとえば、惣菜類や、豆腐・大豆製品、卵、牛乳・乳製品、漬物、生菓子など。以下、意見を挙げる。

「牛乳120本」

「主に惣菜を中心に、1日3万円くらい」

「4人前の中華料理を一口味見してほとんど廃棄」

「惣菜」

「毎日のように惣菜を廃棄」

「加工品サラダを4ケース分くらい」

「漬物」

「コロッケ5個」

「生鮮品」

「生鮮食品、惣菜」

「日配商品を少し」

「キムチ」

「ほぼ毎日、お惣菜の廃棄があります」

「惣菜」

「和菓子」

「主に、洋生菓子と豆腐」

「お菓子を数個」

「豆腐、生麺」

「割れたパック卵」

「卵」

「お菓子を3箱ぐらい」

「米、魚(刺身)、惣菜原料など、沢山 (1回の商品開発会議で45リットルのゴミ袋を2~4袋)」

「ドレッシング、牛乳、豆腐、干物、練り物、漬物、ほか、たくさん捨てました」

「ジュースを5リットルくらい」

魚(筆者撮影)
魚(筆者撮影)

その他

「商品の90%程度」

「品質不良 数万パック」

「アイスクリーム100個」(筆者注釈:アイスクリームはマイナス18度以下で保管され、品質の劣化が緩やかなので、賞味期限表示は省略可とされている)

「売れ残り商品」

「前日商品の見切り品」

「弁当の下に敷いてある野菜」

「食べ残しの食材」

「パセリを少々」

「カップラーメンを少し」

「一般食品を少し」

「イベントの懇親会、パーティーのオードブル、3分の1ぐらい」

「コンビニエンスストアで、毎日おにぎりや弁当を10から30個、クリスマス後にはホールケーキを20」

「腐敗しても、業者がいるので、ない」

アイスクリーム(画像:iStock)
アイスクリーム(画像:iStock)

以上、291名からのアンケート結果を、主な食品ごとに挙げてみた。

提言その1、食品メーカーは商品サンプルの見直し

食品メーカーは、スーパーマーケットに渡すサンプルの、数は少なくできないにしても、1個あたりの量をもう少しだけ少なくすることができないだろうか。1企業からは少しずつのサンプルでも、受け取る側のスーパーマーケットに集まるのは大量になる。スーパーマーケットは一店舗に数千以上のアイテム数があることが多く、大規模な店舗やフランチャイズチェーンなどでは、それだけメーカーからのサンプルも多く受け取ることだろう。この量を少しずつでも減らすことはできないものだろうか。あるいは、スーパーで受け取って消費しきれない未開封のサンプルは、Reuse(再利用)、寄付などに回すことができないだろうか。

提言その2、食品業界の商慣習である3分の1ルールのさらなる緩和

食品業界の商慣習である3分の1ルール。賞味期間を、均等に3分割し、最初の3分の1の期間までにメーカーはスーパー・コンビニエンスストアなどの小売に納品する(納品期限)。次の3分の2までの間に小売は売り切り、売り切れなかったものは商品棚から撤去する(販売期限)。納品期限は、日本は3分の1、米国は2分の1、ヨーロッパは3分の2、英国は4分の3と、諸外国は長い。これを緩和する実証実験が農林水産省と食品業界のワーキングチームで行われ、複数の企業では緩和された。が、まだ、全部の企業ではない。

食品業界の商慣習、3分の1ルール(流通経済研究所の調査を元に筆者作成)
食品業界の商慣習、3分の1ルール(流通経済研究所の調査を元に筆者作成)

提言その3、Reduce(廃棄物の発生抑制)できないならReuse(再利用)

食品リサイクル法でも、環境の3Rの原則でも、最優先は「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」だ。作り過ぎない、売り過ぎない、消費し過ぎない。

それが難しい場合は、次の策として、「Reuse(リユース:再利用)」だ。フードドライブを行ない、食べられるけれど商品として流通できないものを集めて再利用する。フードバンクなどに寄付をする。すでに、全国ではフードドライブの実施やフードバンクの寄付を始めているスーパーマーケットが出てきている。

環境の3Rの原則はReduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)Reuse(リユース:再利用)Recycle(リサイクル)(画像:iStock)
環境の3Rの原則はReduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)Reuse(リユース:再利用)Recycle(リサイクル)(画像:iStock)

提言その4、ReuseできないならRecycle(リサイクル)

3Rの2番目である「Reuse」も難しい場合は「Recycle(リサイクル)」する。動物のえさ(飼料)や植物の肥料(堆肥)などにリサイクルする。複数のスーパーマーケットがすでに実施している。

提言その5、消費者は、早めに食べるものは棚の前から取る

スーパーマーケットやコンビニエンスストア、食品メーカーに勤めている人でも、誰もが「消費者」だ。今日食べるつもりの菓子パンや、今、飲むジュースであれば、今日の(賞味期限の)日付でも構わないだろう。棚の前から取る。そうでないと、日付の迫ったものが店頭に残ってしまい、消費者が原因を作っているのにコストをかけて処分するのはスーパーマーケットだからだ。

スーパーマーケットで商品を選ぶ人(画像:iStock)
スーパーマーケットで商品を選ぶ人(画像:iStock)

食品ロスは、社会全体で生み出している。どんな立場にある人も、食品を消費する「消費者」だ。まずは「提言5」を実行していきたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事