賞味期限論争:「年月」表示化に異を唱える人が知らない業界の裏事情とは?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

食品業界では、まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」を減らす取組みが進んでいる。その一つが、賞味期限の「年月日」表示を「年月」表示にする動きだ。年月表示にすることで、これまでは、月の途中で賞味期限が切れてしまって、食品としては流通・消費できない「廃棄物」になってしまっていたのが、月末までしっかり「食品」として流通・消費することができるようになる。

読売新聞2017年11月1日付の朝刊全国版政治・経済面でも『「食品ロス」削減 動く各社 賞味期限表示「年月日」から「年月」へ』と題して報じられた。イオンは、2018年4月をめどに、PB(プライベートブランド)商品の一部で、年月日表示を年月表示化する。味の素は2017年2月から3品目で年月表示化、8月には70品目以上で年月表示にしている。キリンビバレッジやサントリー食品インターナショナルなど、飲料業界では、2013年から年月表示化を進めている。

味の素株式会社の「年月日」→「年月」表示化(出典:味の素株式会社公式サイト)
味の素株式会社の「年月日」→「年月」表示化(出典:味の素株式会社公式サイト)

これに対し、「よい動き」と賛同する声がある半面、「消費者にわからないようにして買わせる魂胆では」「年月表示化はかなり不安」など、否定的な声がある。

食品メーカーを悩ます「日付の逆転」問題

実は、食品業界では、前日に納品したものの賞味期限より、今日納品するものの賞味期限が一日でも古いのは許されないルールがある。これを関係者は「日付の逆転(問題)」「日付後退品」などと呼ぶ。たとえばペットボトル飲料は1年以上の賞味期間があるが、前日に飲料メーカーがスーパーなどの小売店に納品したものの賞味期限が「2018年11月11日」で、今日持ってきたものが「2018年11月10日」となれば、小売店は納品を拒否する。きのう納品したものより一日(日付が)古いからだ。

消費者がスーパーやコンビニでペットボトル飲料を買うときには、賞味期限など見ないだろう。だが、業界関係者は、在庫や出荷を日付単位で管理しており、基本的には「先入れ先出し」が原則となっている。実際「日付の逆転」という語句で検索してみると、日付の逆転を防止するためのさまざまな事例がヒットする。

ペットボトルも年月日表示(右)から年月表示(左)へ移行中(筆者撮影)
ペットボトルも年月日表示(右)から年月表示(左)へ移行中(筆者撮影)

たった一日違いを無くすため、全国のトラックが動き、車輛や人手やガソリンが消費される

筆者は、この「年月日」表示から「年月」表示へ移行する件については、清涼飲料水が動き出した2013年から追跡してきている。2013年には、清涼飲料水の業界団体がリードし、主に大手5社を中心に、2リットルサイズのペットボトルの飲料水で年月表示化を進めてきた。翌年には500mlなど、小さいサイズのペットボトルも追随してきている(切り替えは、まだ充分ではない)。

年月日表示で起こるデメリットの一つとして、「日付の逆転」が起こらないために、一日単位で、全国でたくさんのトラックが動くことになることが挙げられる。車輛が要る、ドライバーが要る、ガソリンが要る、トラックが動けばその分、二酸化炭素が発生する・・・・・

一年以上の賞味期間がある食品に対し、はたして、一日でも「日付の逆転」が起こらないようにする必要はあるのだろうか。とはいえ、賞味期限日付は、古いものから新しいものへと順々に在庫が回転していくのがよいのには変わりはない。

賞味期間が3ヶ月以上あれば日付の省略は法的に可能

日本の法律では、3ヶ月以上の賞味期間があるものは、賞味期限の日付表示を省略することが可能である。だが、現状では、3年の賞味期間がある缶詰や乾麺、1年以上のレトルト食品などでも、日付まで入っているものが多い。そして、「日付の逆転」が起きてしまうと、納品できず、食品メーカーは困ってしまう。

実際、最近、わたしが出逢った事例では、「日付の逆転」が起こってしまったがために、賞味期間が残っている食品が10トン以上、売り先を失ってしまった・・ということがあった。まだ充分に食べられる、にも関わらず、このような業界の商慣習によって、納品できなくなる。売り先を探しても見つからない場合、どんどん賞味期限は近づいてくる。あまりに残りの期間が少ないと、今度は「3分の1ルール」といって、賞味期間のうち、残り3分の1より少なくなると、「販売期限」が切れてしまう。たとえば6ヶ月の賞味期間のものは、残り2ヶ月の時点で「販売期限」切れとなる。となれば、もう、廃棄せざるを得なくなる。

「日付を抜いてしまったら、もし異物混入などで回収しなければならないとき、どうしたらいいの?」という疑問が出てくる。また、製造者としては、在庫や出荷の管理もあるし、トレーサビリティ(追跡可能性)を保たなければならない。私の勤めていた食品メーカーでは、長らく「年月表示」にしている。そして、製造日や製造ラインなどの詳しい情報についてはアルファベット表記にしている。こうすることで、年月表示にしながら、詳細情報も管理することが可能となる。

賞味期限表示がなくてもOKな食品も

アイスクリームは、基本的にマイナス18度以下で保存するので、劣化が遅く、賞味期限表示は省略できる。ただアイス最中など、パリッとしたテクスチャー(食感)が、保存中に変化してくるので、アイスクリームの製造会社は、在庫がたまり過ぎないよう、天候などのさまざまな要素をにらみながら、製造量や出荷量などを日々調整している。

マイナス18度以下で保管するアイスクリーム類は賞味期限表示が省略できる(筆者撮影)
マイナス18度以下で保管するアイスクリーム類は賞味期限表示が省略できる(筆者撮影)

ガムも、水分量が少ないので、基本的には賞味期限表示はされていない。一部、特定保健用食品(トクホ)のガムは、トクホの表示のルールにのっとって、賞味期限表示がなされている。

また、砂糖や塩、一部のアルコール類など、賞味期限表示が省略できる食品は、ほかにもある。

賞味期間は2割くらい短くなっている

食品メーカーは、さまざまなリスクを考慮した上で、食品検査の結果から賞味期限を設定している。国は、リスクを考慮するための安全係数として「0.8以上」を推奨している(義務ではない)。たとえば10ヶ月の賞味期間がある食品であれば、0.8を掛け算して、8ヶ月が賞味期間として表示されることになる。

食品ロスを削減するための具体的な取組みは、この「年月表示化」以外にも、さまざまなものがある。背景として、食品メーカーが小売店に納品するとき、一日たりとも「日付の逆転」が許されないという、食品業界の商慣習があることを知っていただけると、「日付を入れないのは消費者をだますためではないか」と思っていた人も、見方が変わってくるのではないかと思う。