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現地記者に聞く、レアル・ソシエダが久保建英を獲得する理由

小澤一郎サッカージャーナリスト
マジョルカ時代にレアル・ソシエダと対戦した久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 久保建英のレアル・ソシエダ移籍が秒読みに迫っている。7月17日(日)、スペイン大手スポーツ新聞の『AS』は10面で「久保がレアル・ソシエダへ行く」と報じた。

 同紙の報道によるとレアル・ソシエダは完全移籍で久保を獲得し、2027年までの5年契約を結ぶ予定。しかし、現所属のレアル・マドリーも久保の将来性を高く買っているため、完全移籍での放出を認めるものの、50%の保有権と買い戻しオプションの権利を残す契約となる模様だ。

 契約の詳細は明らかになっておらず、現在交渉中のようだがレアル・ソシエダが50%の保有権を500万ユーロで買い取る形での合意、移籍発表がなされる流れとなっている。

 7月15日(金)、『AS』でその記事を担当し、大手ラジオ『Cadena SER』でもレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏にオンラインで久保のレアル・ソシエダ移籍について話を聞いた。

左がロベルト・ラマホ記者(画像は7月15日の取材時のもの)
左がロベルト・ラマホ記者(画像は7月15日の取材時のもの)

 まずラマホ記者には15日時点での久保のレアル・ソシエダ(以下、ラ・レアル)移籍に向けた現状について質問した。

「日に日に(ラ・レアルへの移籍が)近づいています。ただ、相手がレアル・マドリーほどのビッグクラブですので簡単なオペレーションではありません。根底には両クラブが同じことを考えています。それは久保がラ・レアルでプレーすること」

 レアル・マドリーの来季に向けたチーム編成上、EU圏外枠は昨季まで同様、ミリトン、ヴィニシウス、ロドリゴのブラジル代表3選手で埋まっており、夏のプレシーズンをレアル・マドリーで過ごしている久保の移籍は確実(マスト)な状況だ。

 近年、ラ・レアルとレアル・マドリーの関係は選手間の移籍オペレーションを数多く手掛けていることから良好で、それゆえにラマホ記者も「両クラブが同じことを考えている」と久保のラ・レアル行きに太鼓判を押す。

 しかし、ここまで交渉は思うように進んでいなかった。それは両クラブ共に、久保の才能と特に将来性を高く買っており、契約形態の思惑に溝が生じていたからだ。

 ラ・レアルは安定したチーム作りと編成上の観点から完全移籍での獲得にこだわった。一方のマドリーもまだ21歳の久保をこのタイミングで手放すことは考えておらず、ローンでの移籍にこだわった。その溝が埋まらないまま時間が経過していたものの、ラマホ記者によると歩み寄りの時期がこのタイミングで来たのだという。

「鍵となる時期が今週で、マドリーは米国ツアーに行きます。おそらく、というより間違いなく、我々が把握している情報によると久保はその米国ツアーの遠征リストに入らず、米国遠征には行きません。それもあって両クラブが交渉で歩み寄りを見せて合意に達する時期は今週となるでしょう」

 ラマホ記者によればラ・レアルは過去2年に渡り久保の獲得に動いたのだという。

「実は久保の補強についてラ・レアルが検討しているのは3年目なのです。2020年夏にウーデゴール(現アーセナル)がマドリー復帰を果たした時期がありますが、当時のラ・レアルは彼のマドリー復帰を望んでいませんでした。

そのため、ウーデゴールのマドリー復帰に対する補償として久保のローン移籍がクラブ間で話されていましたが、実現しませんでした。昨年夏もラ・レアルは久保のローン移籍を目論みましたが、選手はすでに在籍したマジョルカを選びました。結果として2年連続でラ・レアルは久保の獲得に失敗したのです」

 しかし、3度目の正直として今夏も、今回は完全移籍でラ・レアルが久保の獲得に動いている理由はウーデゴールとの類似点にある。

「ラ・レアルのフロントにおける久保の評価は、質が高く、輝かしい未来を持つ選手という評価ながらまだ本領発揮しておらず、そのための環境をラ・レアルで提供できると考えています。ウーデゴールはまさにラ・レアルで覚醒しました。ここに来て必要な愛情や環境を与えられ本領発揮したのです。

クラブは今の久保についても同じような視点を持っています。ただ、ウーデゴールとの違いはチームの未来を保証するためにも久保を完全移籍で獲得したいということです」

 その上でラマホ記者は15日の取材でこう付け加えている。

「今後数日以内に起こり得るのは、マドリーが何かしらの譲歩をするということです。なぜなら、彼らにはそれ以外のオプションがないからです。移籍というのは最終的に選手がプレーしたい場所に落ち着くものです。今回、今夏に関して言うと、久保はラ・レアルのオプションを好んでいます」

 そして取材翌日の16日、実際に事態と交渉は進展した。

 所属元のレアル・マドリーは久保を完全移籍の形でレアル・ソシエダへ送り出す譲歩をした。しかし、譲歩する替わりに100%の完全移籍ではなく50%前後の保有権と買い戻しオプションを含むクラブ間合意をレアル・ソシエダ側に求め、ラ・レアルはそれに応じた。

 ラマホ記者によれば、すでに2クラブ間でも、レアル・ソシエダと久保(選手側)の間でも基本合意がなされているため、7月18日(月)以降数日以内に久保建英のレアル・ソシエダ移籍が発表されることになる。

 ラ・リーガの中で3年連続EL出場権を獲得し、2019-20シーズンにはコパ・デル・レイ優勝も果たすなど、安定した成長と成功をおさめ今や「中堅クラブ」とは呼べない存在に飛躍するレアル・ソシエダ。

 攻撃的かつ魅力的なフットボールでスペイン国内のみならず欧州での評価も高く、久保建英にとって理想的なクラブ、土地であることは間違いない。

 正式発表を待つまで、サインが完了するまでサッカー界では何が起こるかわらないという言葉はあるものの、ローンではなく完全移籍という形でラ・リーガ4年目、勝負のシーズンを迎えることになる久保建英のラ・レアルでの成長と躍進に期待したい。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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