「決まらないシュートは打たない」、同志社大が示した思考のアップセット

関西学生1部リーグの開幕戦でいきなり優勝候補の阪南大を0-2で撃破した同志社大

「シュートは打たなければ入らない」

「とりあえずシュートを打っておけ」

 長年に渡り「決定力不足」が叫ばれる日本サッカー界の指導現場ではいまだにシュートの理論と論理的指導へのアプローチが少なく、それゆえに冒頭のような声が監督、コーチから飛び交う。そのためか、日本にはシュートが外れてもチームメイトから打った選手に「ナイスシュート」なるかけ声(なぐさめ?)も出るのが常識となっている。

 そんな常識を真正面から覆すような取り組みを行なっているのが、大学サッカーで今年関西1部リーグに復帰を果たした同志社大学だ。

 4月9日(土)に開幕した2016年度 第94回関西学生サッカーリーグ(前期)1部リーグ第1節で昇格組の同志社大学は、昨年度のリーグ戦とインカレ(全日本大学サッカー選手権大会)で準優勝している全国区の強豪・阪南大学を破るアップセットをいきなり起こした。

 確かに阪南大からすれば主力選手が複数名ケガや不調で先発を外れた点は一つの敗因だったかもしれないが、両チームの選手層やスポーツ推薦の数を比較すればそれを差し引いても阪南大はこの対戦で「格上」と判断できるチームであった。

 実際、シュート数(阪南大:同志社大)は「15本:10本」、コーナーキック数も「9本:1本」と阪南大が相手陣内で試合を進めていた展開が数字としても出ている。

 しかし、勝ったのは同志社大であり、スコアは0-2だ。

 シュートコースをDFに閉じられた状態でも闇雲にシュートを打って次々とシュートをブロックされていた阪南大に対して、同志社大の選手たちは「決まらないシュートは打たない」という選択肢をきちんと持っていた。

 同志社大に雑なシュートがなかったわけではないし、決定的なシュートを外したシーンもあったが、選手たちには「決まるシュートとは何か」、「決まるシュートのシチュエーションに持っていくにはどうすればいいか」という明確なロジック(論理)があった。

 彼らが確かなシュートの理論と技術を手にすることができた理由は、屈辱の2部落ちを経験した昨年度からテクニカルディレクター(TD)を務める同大OBの元Jリーガーで現スポーツジャーナリストでもある中西哲生氏の存在があってのこと。

開幕戦の同志社大のベンチにも入った中西哲生TD
開幕戦の同志社大のベンチにも入った中西哲生TD

 現役引退後に監督業を営んでいるわけではない中西氏ではあるが、プロのサッカー指導者以上に「決まるシュートとは何か?」を様々なアプローチによって突き詰め、一つ一つのシュートを理論として構築するのみならず、技術に落としこむためのトレーニング(ドリル)メニューもきちんと作って指導現場に立っている。

 その中西氏は常々、「日本サッカー界には『決定力不足』という言葉がありますが、日本には物事を抽象化してしまうマジックワードの弱点が幾つかあって決定力不足もその一つ。私は絶対そこから逃げないし、『全て論理にする』という覚悟を持って取り組んでいます」と話している。

■鶴崎「ホンマに狙い通りのシュートでした」

 阪南大戦の49分に先制点を奪った同志社大MF鶴崎光は中西氏の指導を受けて「突破力あるドリブラー」から「点を獲れるドリブラー」に進化を遂げた選手の一人だ。ペナルティエリア外から利き足ではない左足のインカーブでGKの頭上を越して右サイドネットに決めたシュートについて鶴崎は、「あの角度と場所から打つ時には、哲さん(中西氏)からインカーブで巻いて落とせばGKの頭を越えると言われていますし、それを意識して自主練からやっているのでホンマに狙い通りのシュートでした」と振り返る。

 実際、鶴崎がゴールを決めたシュートがもしインステップによる強いシュートであればゴールになっていなかった。事実、同志社大の取り組みにおいては「強いシュートが決まる」という曖昧な考えも「幻想」としてはっきりとシュート時の選択肢から排除している。

 物事を抽象化してしまう日本人の特性に加えて、日本サッカー界ではいまだ「何となく頑張る」ことや定義が曖昧な「ハードワーク」が善とされ、ゴール前では闇雲に思い切り打つ強いシュートを「打っておけ」と指導される傾向にある。

 大学サッカーは育成年代の中でも注目度の低いカテゴリーだ。それゆえ、同志社大の取り組みや結果が日本サッカー界に与えるインパクトは現時点でそれほど大きくないが、阪南大を破った開幕戦とその開幕戦で決まった2ゴールが「バタフライエフェクト」となる可能性を感じている。