初優勝を狙う國學院久我山の司令塔、名倉巧のタレント性

國學院久我山のエースナンバー「14」を付けるMF名倉巧(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「あのサイズなのでなかなかプロのハードルは高いと思いますが、ゴールが獲れる選手になればそこが見えてくるのではないか」

1月11日に決勝が行われる第94回全国高校サッカー選手権大会で初優勝を目指す國學院久我山(東京A)の清水恭孝監督は準決勝の青森山田(青森)戦後、チームの司令塔であるMF名倉巧(2年)について上記のコメントを残した。

清水監督や選手たちからは基本的に「パスサッカー」という単語は出てこないが、テクニックと状況判断を重視しながらボールを大切に扱い、相手の出方に応じてポゼッションもカウンターも使い分ける國學院久我山の柔軟なサッカーを支えているのがトップ下の名倉で、準決勝でも優れた判断とボールコントロールから次々に決定機を作り出した。

■「名倉は上に上がれなかった子」

身長167センチ、体重58キロの名倉はFC東京U-15深川の出身だが、ユース昇格できなかったことで高校サッカー(國學院久我山)の進路を選択した選手だ。清水監督も「うちの名倉や山本研(3年/横浜F・マリノスJY)は上に上がれなかった子たち」という前提を示した上で「Jクラブにいれば早く(トップチーム)デビューをさせるなど私たちでは絶対に経験させてあげられないことができる」とJユースの存在意義と育成年代においてはまずプロクラブが有望なタレントを抱えている現状について説明する。

決勝で國學院久我山と対戦する東福岡のMF藤川虎太朗(2年/サガン鳥栖U-15)のようにJユースへの昇格を自らの意思で蹴って高校サッカーの門をたたく選手も強豪校には出始めているが、それでも現在行われている『選手権』という舞台で活躍するタレントは「ユース年代トップの層」ではない。

つまり、高校年代のトップ選手はJユースにいるという前提を省略した形で名倉のような選手のタレント性を議論することはできないということ。そこを踏まえて名倉はどこまでのタレントなのか。一つ言えることは、冒頭の清水監督の言葉にもある通り、「小柄なテクニシャン」というだけではプロになるのは厳しいということ。筆者自身も大会中の記事で名倉の活躍を評するべく「柔よく剛を制す」という言葉を用いたが、一方で彼のような小柄で軽量級の選手が日本サッカーの目指すべき育成選手像だとは考えていない。

■「スペイン人は小柄」ではない

これまで日本サッカーの生きる道として「小柄な選手が多いスペインやメキシコ」の国名が挙がることが多かったのだが、スペインでU-14の指導現場に立ったことのある筆者からすれば「勘違いも甚だしい」と感じる。当時セカンドコーチを務めていた13、14歳年代のチームには180センチを超える子どもが3選手もいて、他のチームを見ても日本で言う中学1、2年の年代にして180センチ以上の大柄な選手がゴロゴロいた。だからこそ、日本のチームがスペインに遠征に行くと基本的には一つ下のカテゴリーと間違われる。(例えば、高校のチームは中学生だと思われる)

もちろん、サッカーはサイズで勝負するものではないし、それは選手評価にしてもしかり。実際、準決勝で國學院久我山は先発の平均身長差「6.5センチ」、平均体重差「6.3キロ」も開きがある青森山田に逆転勝ちをおさめ、チームとしてもこの5年フィジカルコーチの下でフィジカルやボディコンタクトから逃げない一貫性ある取り組みを行なっている。

ただし、高校サッカー選手権は1回戦から試合が地上波でテレビ中継され、大会期間中はまるでプロレベルのスター選手かのような「選手ありき」の報道が盛んに行われるため、活躍が目立つ選手やプロ内定選手にとって「勘違い」を生みやすい大会だ。名倉のように見る者にロマンを与えやすい「小柄なテクニシャン」ともなればなおさら危険である。

連日大勢の取材陣に取り囲まれる中、名倉は大会前と変わらぬ謙虚な姿勢と低いテンションで淡々と取材に応じ、清水監督は「ダメなことはダメとはっきり言う」と厳格な指導で慢心の芽を摘んでいる。もし今日の決勝で名倉が大活躍をして國學院久我山が優勝したとしても名倉が勘違いすることはないと見ている。

■本田圭佑、中村俊輔のように再チャレンジできるのが高校サッカーの良さ

清水監督は高校サッカー、選手権の存在意義について「本田圭佑、中村俊輔もそうでしたが……」と前置きした上で次のように話す。「名倉のようなJユースに上がれなかった子どもたちは、高校サッカーがあることによってもう一度チャンスをつかむことができています。本当にそういうところから這い上がってくるというか、再チャレンジできるのが(高校サッカーの)いいところだと思います」

高校入学の時点で、そしておそらく現在もプロのスカウトから「このサイズではプロは厳しい」と評価されているのが國學院久我山の名倉巧であり、彼のような小柄なテクニシャンの活躍にロマンはあっても日本サッカー、選手育成の未来はない。少なくとも、同世代トップレベルのタレントでも年代別代表の主力でもない名倉に過度な期待をかけるべきではない。

ただし、同世代のタレントからするとワンランク、ツーランク評価の落ちる名倉が高校サッカーという舞台でもう一度チャンスをつかみ輝きを見せている姿、大柄で重量級の相手と対峙してもテクニックと状況判断で局面を打開していくサッカーというスポーツの醍醐味は今日(1月11日)の決勝で多くの人に感じ取ってもらいたい。