【連載1】「決定力不足」の言葉を打ち消す可能性を秘めた”大儀見メソッド”

今や世界が注目するストライカーで女子W杯得点王候補の一人でもある大儀見優季

「プレー中に思考しない。無意識に体を反応させる」

大儀見優季は女子W杯前から自らの準備におけるキーファクターをこう説明してきた。ゴールという結果が全てのストライカーにあって「ゴールを決めたいという意識を消すことがポイント」とまで言ってのけるなでしこジャパンのエースストライカーであり、今大会の活躍と得点によってはバロンドール受賞候補にもなりえる資質を持つFWは、今や独自のストライカーメソッドを確立しつつある。

1-0で辛勝したスイスとの初戦ではゴールこそなかったが、特に前半の大儀見の体の反応スピードとプレーの判断スピードは「異次元」、「驚異的」といった表現を選択したくなるほどのレベルにあった。PKにつながるシーンでFW安藤梢に出したパスはもちろんのこと、その27分のシーンより前に大儀見は2度安藤に対して「見て、判断する」という通常のプレープロセスを省略させたパスを通しており、PKのシーンは「三度目の正直」となるラストパス。

■3プロセスを一体化させてプレースピード上げる

日本の指導現場ではまだ感覚的に「周りをよく見て、いい判断をしよう」といったコーチングがなされるが、スペインで指導現場に立つ坪井健太郎氏が著書『サッカーの新しい教科書』の中で紹介している通り、サッカー選手がプレーをする時には通常「認識→分析→決断→実行」というプロセスを経てアクションが起きている。しかし、スイス戦前半の大儀見は認識から決断までの3プロセスをほぼ一体化してプレースピードを上げていた。頭の中の処理速度だけ言えば、大儀見は欧州チャンピオンズリーグのようなハイスピード&ハイクオリティのゲームでも問題なくプレーできるだろう。

スペインのコーチングスクールで定義されているプレーのアクションプロセス
スペインのコーチングスクールで定義されているプレーのアクションプロセス

大儀見自身が「感覚的には非常にいい感じで入れた」と振り返るように、初戦から頭脳におけるインテンシティの高さ(=回転数の速さ)が効果的なプレーとして現象を引き起こしていた。それに加えて、チームとして、攻撃陣として「大儀見の反応、判断スピードに付いていく」意識が出ていた点もカメルーンとの第2戦以降の攻撃への期待を大きくふくらませる。大儀見も「自分の判断スピードに周りも反応してついてきてくれていた部分があったので、すごくいいリズム、いいテンポでやれていた」と手応えをつかんだ上で、カメルーン戦では「結構スペースもあると思うので、ワンタッチ、ツータッチのリズムのみならずボールを持つ時間も増やしたい」と語る。

女子W杯前最後のテストマッチとなった5月28日のイタリア戦(1-0)で宇津木瑠美からのクロスに素早く体を反応させて押し込んだ後半7分のゴールがわかりやすい例であるが、今の大儀見の反応の速度や感度はイタリア戦よりもさらに上がっている。今年に入って以降、大儀見優季というストライカーのゴールをとるためのプロセスに注目しているのだが、今大会の彼女のピッチ上でのパフォーマンスと照らし合わせることによってこれまで何となく「嗅覚」、「感覚」といった言葉で語られてきた“ゴールをとる”スキルについて言語化できる可能性を感じている。

■本当に日本サッカーは「決定力不足」なのか?

大儀見優季は「決定力不足」や「ストライカーは育たない」といった言葉や議論が踊る日本サッカーの現状について次のように持論を展開する。

「『決定力不足』という言葉が出てくること自体おかしいと思います。『決定力』が何なのかを説明できる人がいるのかどうか?また『決定力』と『得点力』の違いをどう説明するのか? 日本は個人の責任を曖昧にする文化があるので、そうなると確かに日本ではストライカー、FWというのは育ちにくいポジションではあると思います。ただ、考える力や思考する能力は世界の中でも絶対に高い方だと思っているので、それを活かしていけば必然的にゴールを生み出すFWは育つと思いますし、私はストライカーも育成できると思います。身体能力には世界と差があると思いますし、そこはどうしても生まれつきのもので埋められないものなので、それ以外のところ、例えば判断スピードであればいくらでも上げることができます。それ以外の工夫のところで外国人選手たちを上回れる要素はたくさんあると思います」

最高峰のワールドカップという舞台で世界基準を上回る判断スピードでゴールや決定機を安定的に供給するであろう大儀見優季というストライカーと彼女が完成に近づけている“大儀見メソッド”をここカナダでウォッチしながら連載として取り上げ、ゴールをとるためのスキルや思考法、最終的には日本のサッカーが世界で勝つための方法論を考えていきたい。