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二足のワラジで夢追う独立リーグ・福島レッドホープス岩村明憲代表取締役社長兼監督の衰えぬ情熱。

一村順子フリーランス・スポーツライター
野球解説者としてキャンプ地訪問。古巣レイズの新戦力・筒香選手を激励。(筆者撮影)

 

 「ヘーイ!アキ!」。2月22日(日本時間23日)。野球解説者の仕事で、岩村明憲氏(41)が11年ぶりにフロリダ州ポートシャーロットの古巣・レイズのキャンプ施設に足を踏み入れると、あちこちでサプライズの歓声があがった。昔馴染みのコーチや球団スタッフ、往年の担当記者が、次々と駆け寄ってハグ。現役当時は、同地区のライバル球団レッドソックスの控え捕手として対戦したキャッシュ監督も、懐かしそうに出迎えた。設立以来、最下位常連球団が、悲願のリーグ初優勝を達成した2018年に貢献した日本人二塁手の記憶が、レイズの歴史から色褪せることはない。久しぶりに会った岩村氏は、昔と変わらず、エネルギッシュで、話し上手で、元気いっぱいだった。

 肩書きは、どう呼べばいいんだろう。社長で、監督で、解説者。二足ならぬ三足のワラジを履く男は、笑った。

「皆にはね、背広を着てる時は社長、ユニフォームを着てる時は監督と呼べ、って言ってるんですよ」

 2017年を限りに現役を引退。日本プロ野球で13年、メジャーで4年、独立リーグ・福島レッドホープスで監督兼選手として3年。計21年の輝かしい現役生活に終止符を打った。2018年は監督業に専念したが、経営不振に陥った球団を事業譲渡される形で、同年オフに代表取締役社長に就任。負債を抱えた球団の運営は、まさに「マイナスからの出発」だった。

 「来年の運営をどうこうする前に、まず、借金を返さなきゃいけなかったから。とにかく、営業。ようやく、スポンサーが付くようになりました」

 地元の有力企業はもとより、商店街を地道に回って、一口10万円から協賛を募って資金を集め、まずは借金を返済した。震災の爪痕残る福島の復興への願いがこめられた球団名「ホープス」(希望)を改名。岩村氏のイメージカラーで情熱を意味する「レッドホープス」とした。ロゴ・デザインにも加わり、新しい球団ロゴは「Red」のRに古巣・レイズのロゴ文字を使っている。社員は6人でスタート。「ウチは研修する暇がないから、即戦力が必要だけど、なかなか、経験者はいなくて。人を育てるのは難しいね」。ユニフォームを着た監督業でも、世代のギャップを実感する日々だ。「メジャーでフライボール革命が流行ると、今の若い選手は高めのボールでも打ち上げようとする。アドバイスすると、『監督とは打撃理論が合わないので辞めます』と言ってきた(苦笑)。情報だけは沢山あるから、指導するのは、大変ですよ」。

 日本代表としてWBC連覇に貢献。日米球界を通じて陽の当たる場所を歩いた現役生活から一転、監督及び経営者としては、独立リーグの厳しい現実と向き合っている。その活力を支えているのは、唯一つ、福島への熱い思いだけだ。「他の球団だったら、やらないですよ。福島だから。やりましょう、と」。東日本大震災から、ようやく復興が進みだした昨年11月には、再び台風による洪水被害を受けた。「やっと復興の手応えがあった矢先の水害。あれで、また、傷ついた人が多い。心が折れそうなんです」と、訴える。175センチの決して大きくはない体から迸るパッションは、現役時代から少しも変わらない。

 一方で、今季から古巣に入団した筒香嘉智外野手の入団に関して、「小規模な(資金)中でやりくりしているチームが、あれだけの金額を出したのは、かなりの期待があるから。そういう部分、筒香選手もやっているうちにおいおい分かってくると思う。あの時こうだったのか、と」。低予算チームをやりくりする経営者の目線で語ったのが印象的だった。

 フロリダ州とアリゾナ州を巡るメジャーキャンプの視察が終われば、福島に、震災から9度目の春がやってくる。4月の開幕に備えて、3月15日からは福島でレッドホープスのキャンプ・イン。背広を脱ぎ、ユニフォームに袖を通して「岩村監督」となる日々がもうすぐ始まる。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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