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首位レッドソックスに潜む不安。「勝利の方程式」は、どこまで乱用に耐えうるか。

一村順子フリーランス・スポーツライター
5日、ブルージェイズ戦が行われた本拠地フェンウェイパークのスコアボード

6月4日(日本時間5日)時点でア・リーグ東地区の首位に立つレッドソックスは、3年ぶりのワールドシリーズ王座奪回に向けて順調に試合を重ねている。5月1日に単独首位に立つと、ブラッドリーが29試合連続安打、ボガーツが26試合連続安打、今季限りで引退を表明している主砲オルティスが同日現在打率342、16本塁打、大リーグ最多の打点53と大活躍。チームは大リーグ最多となる36試合で2桁安打を放ち、総本塁打数52、総得点332、打率295、出塁率360などで両リーグの頂点に立っている。

そんな中、敢えて、チームに潜む不安な影を指摘しておきたい。それは、ズバリ“無理あるブルペン起用”だ。レ軍は昨オフ、抑えのキンブレルを獲得。田沢純一と上原浩治の日本人右腕コンビが、新守護神にバトンをつなぐことが、新しい「勝利の方程式」となった。だが、開幕から約2ヶ月。田沢、上原を負けている展開でも起用するパターンが目に付く。打線が好調だから、僅差なら常に逆転のチャンスはあるのは分かる。上原、田沢の2人には実績と信頼もある。本拠地試合なら同点で勝ちパターンを注ぎ込むのは定石だろう。だが、プレーオフ進出が掛かった9月の試合ならともかく、1点差のみならず、2点差でも「田沢&上原」が投げることが普通になれば、もはや、「勝利の方程式」とは呼べない。公式の乱用で正解が導けるほど、メジャーの戦いは甘くない気がするのだが。

前日3日のブルージェイズ戦。上原は1−3から登板して2ラン本塁打を浴びた。試合後の会見で米国メディアから「コージの調子はどうなのか。年齢による衰えか?」という質問が出て、「スプリットにいつものキレがなかった。年齢は関係なく、きょうはいつもと違って制球が悪かったということだ」とファレル監督は答えていたが、そのやりとりに見当違いな印象は拭えなかった。問題は上原が一発を浴びたことより、負け試合で今季最多の30球を投げたことだ。もし、翌日からの試合で競った展開になったら、上原は使えるのか。万が一、連投はできても、3戦目も上原が必要な展開になったらどうするのか。 

「もう何点差でも(出番が)あるなと思わないといけない。正直、今はどこで投げるか、わからないので」と上原が言えば、田沢は「こういう試合が続いているので、自分で(出番を)決めつけないようにしています。行けと言われたら、しっかり抑えるのが僕の仕事なので」。百戦錬磨のベテランでさえ、先が読めない流動的な起用法にアジャストする大変さを感じていることが伺える。

5月末、敵地でのブルージェイズ3連戦は、そのリスクが顕著に出たシリーズとなった。初戦の27日に1点差で追う七回から田沢を投入。その裏味方打線が同点に追いつき、“注ぎ込み作戦”は一瞬成功したかにみえたが、八回に上原が2失点で今季2敗目。翌28日も接戦となり、連投の疲れがみえた田沢は2失点。ここで、前日20球投げている上原を使わず、抑えのキンブレルが回またぎするも、救援失敗。米メディアは「鉄壁ブルペン陣が、まさかの崩壊」と書きたてたが、無理使いが重なれば、こういう事態を招くことは、ある程度予想できる。これまでの蓄積がボディブローのようにジワジワとスタミナを消耗させ、ついに、肝心な場面で“しわ寄せ”となって露出した試合のように感じられた。

田沢の場合は僅差の負け試合だけでなく、大量点差で勝っていても出番がある。5月12日のアストロズ戦では、8−1で迎えた七回二死から救援。同21日のインディアンス戦では4−0で迎えた七回二死二塁から救援し、その裏味方打線が5点を奪って9−0となっても回またぎのマウンドに送られた。同25日は10−3で迎えた九回から救援。登板間隔が極端に開いた場合の「調整登板」は理解できるし、田沢&上原以外の中継ぎに今一つ信頼がないとも言えるが、ブルペンで複数回に渡って肩をつくった挙句、登板がないケースも多く、もう少し、勝ちパターンを大事に使う配慮があってもいい。

「それは、僕に聞かれても…。監督に聞いて下さい」と上原と田沢は口を揃える。その通り、選手の立場で起用法についてのコメントは難しいだろう。2103年以来、身を粉にしてレ軍ブルペンの屋台骨を背負ってきた2人だ。基本、使って貰えることは選手にとって喜びだし、ユニフォームを着て試合に出ている以上、「行けるか?」と聞かれれば、「はい」というのが選手というもの。だからこそ、ベンチの配慮、意思の疎通が大切になる。ある大リーグ関係者が匿名で「ファレル監督は投手出身。07年優勝チームの投手コーチで、13年の優勝監督。そういう人に、ブルペン起用法を進言するのは、難しいかもしれない」と言ったのが心に残る。

3年ぶり王座奪回の期待高まるボストン。フェンウェイパークは今日も満員だ。
3年ぶり王座奪回の期待高まるボストン。フェンウェイパークは今日も満員だ。

負け試合に田沢、上原を注ぎ込んでも、打線が応えれば、その甲斐もある。だが、打線が必ず得点する保証はない。注ぎ込み作戦が失敗した時は、翌日からの試合に響く。公式戦162試合の全試合に勝つことはできない。プレーオフ進出を95勝に設定しても、70試合前後は負けるのだ。捨て試合という呼び方は好ましくないかもしれないが、名将と呼ばれる監督は、その70試合前後の負け試合をより良く負けるためのマネージメントに長けている。より良く負けるとは、肉体的にも精神的にもダメージを残さない負け方である。自信を喪失させたり、ベンチに不信感が芽生えたり、疲労を蓄積させたりしない負け方だ。更には、敗戦の中でも、敗戦処理の投手が仕事をこなし、控え選手が役目を果たし、若手が自信を掴んだり、ベテランが休養したりする収穫が見出せる負け方だ。

「コージはブルペンの中で最も休んでいたし、あの場面ではまだ我々に勝つチャンスがあったので、回の頭から起用した。コージを使い過ぎているとは思わない。我々はブルペン陣を酷使しないよう、しっかりモニターしている」とファレル監督はいう。なるほど、同日現在で田沢の24試合登板はリーグ25位タイ、上原の23試合登板は34位タイと上位17位までにレ軍の選手はいない。だが、問題は目に見える数字ではなく、流動的な起用にブルペンが徐々に消耗していることである。条件に満たない展開で「勝利の方程式」を注ぎ込むことを、ベンチが”禁断の起用”と認識していないところである。翌4日の試合は6−4の場面から、バーンズー田沢でキンブレルにつなぎ、上原の連投を避けつつ、チームは逃げ切り勝利。幸い心配は杞憂に終わったが、展開次第で延長戦にもつれ込んだら、前日の上原起用が悔やまれたかもしれない。

ベンチの指示と待機する側の思惑が一致した時、選手は落ち着いた心理状態で試合に入り、最高のパフォーンスを発揮するもの。先発陣が六回を投げ切れない試合が多く、新加入の中継ぎ右腕、カーソン・スミスが右肘靭帯再建手術に踏み切った背景もあり、地元紙は「中継ぎをもう1枚トレードで獲得すべき」という論調だ。シーズンはまだ3分の1が終わったばかり。過去2年は夏場以降、ブルペン陣の疲労が指摘されるレ軍だけに、首位とはいえ、懸念が禁じ得ない今日この頃である。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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