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時間短縮を目指す大リーグが新ルール導入。試行期間となった今キャンプでの様々な反応。

一村順子フリーランス・スポーツライター
マーリンズのキャンプ地球場に現れた液晶デジタル時計。2:25からカウントダウン。

今季の大リーグは時間短縮を目指して新ルールを導入。オープン戦と4月の移行期間を経て、5月から本格的に実施することを発表した。投手は12秒間に投球動作に入る。打者は打席を外してはいけないし、片足残さないといけない。監督はベンチからビデオ判定を求める。攻守交代は「2分25秒以内」(全国放送の試合はCM時間確保のため2分45秒)となった。

現在アリゾナ、フロリダの両州で行われているキャンのオープン戦では各球場内にこの「2分25秒ルール」を厳守させるためのタイマーが設置されている。

5日(日本時間6日)、オープン戦初出場のイチロー外野手(41)が所属するマーリンズの球場では、バックスクリーンのスコアボード下に液晶表示のデジタル時計がお目見えした。3アウトを取った瞬間からカウントダウンが始まる。

「2分25秒」の間も秒単位の決まりがある。残り40秒で打者がアナウンスされ、登場曲が流れる。投手は残り30秒までに投球練習を終了。登場曲は残り25秒までに止まる。残り20秒から5秒で打者は打席に入り、残り20秒から0秒の間に投手は投球動作に入る。

試合ではタイマーが0になる寸前に投球動作に入る投手もいたが、レドモンド監督は「皆、よく対応したと思う。ウチには元々時間の掛かる投手はいないし、大丈夫だろう。これが1、2分じゃなく、大きな時間短縮に繋がって欲しい」と話した。

一方、前日4日のマイアミ大との親善試合で内角球に後ずさりするシーンがあったイチローは「ここ(内角高め)に来たら、ちょっと外してしまうよね」と語った。胸元をえぐられるボールに上体を仰け反らせた後、少し打席を外してリズムを整えるのは遅延行為というより、本能的な部分。「意識しないとできない、ということは、それなりに神経を使う。頭で考える作業は、こんなスレスレに来たら、無理だもんね。(中略)シーズン中はそういうのがない方がいい。しばらくはみんな意識することになる」と普段打席を外さないタイプでも神経を使っていたようだ。

あからさまな嫌悪感を示したのは、レッドソックスのオルティス内野手(39)。1球ごとに手袋に唾を吐きながら打席周辺を歩くのが特徴の同選手は新ルールを「クソッタレ」と呼んだ。「俺が打席を外すのは、次の球を考えているからだ。打者が考える時間は唯一打席を外す時しかない。それがダメだと言われたら70%アウトになる。考える時間がないんだから。これが違反なら俺は500ドル払うよ。財産を使い切ってしまうかもしれないけどね(苦笑)。俺は自分のリズムを変えないよ」。機構批判ともルール無視とも解釈されかねない発言に、ファレル監督が「彼はルールを尊重するし、我々もルールを支持する。ただ、野手であれ投手であれ、選手にはルーチンがあり、それが自然な流れになっている」と事態を収拾。同僚のペドロイア内野手も「それも野球の一部。打者の立場で言えば、それこそが勝負なんだ。野球はドライブスルーじゃない」と庇った。オルティスは6日、フォートマイアーズで行われたマーリンズ戦に先発。1球ごとに完全に打席を外していたが、特に審判から何かを言われることはなかった。

ルールの解釈を巡って、大リーグの選手会はキャンプ地を巡り、新ルールをレクチャーしている。7日にマーリンズの選手とミーティングを行ったトニー・クラーク選手会専務理事は「ルールの精神は、近年試合時間が長期化してファン離れが進むことを食い止めようということ。内角球にのけぞったりするのは、セーフ。打者も手袋をはめ直したり、屈伸したり、ルーチンをやっていい。ただ、極端に15フィート(約4・5メートル)離れるのではなく、片足打席に残せばいい。投手にも打者にも、パフォーマンスにネガティブな影響を与えることは本来の意図ではない」と語った。

さて、この新ルール。実際に試合の中で投手や打者のパフォーマンスにどのような作用を齎すのだろうか。メジャーでも屈指の投球テンポの良さを誇るレッドソックスの抑え・上原浩治投手(39)は「自分のリズムでそのままなげればいいので、全然気にならない」と言い、中継ぎの田沢純一投手(28)は、「(タイマー時計が)あるのは、試合中に確認しましたし、ルールはルールなので、できる限り従っていきたい」とレ軍の両日本人投手は、それ程、神経質になっていない様子だ。

大リーグは2011年に1試合平均2時間52分、2012年は2時間56分、2013年は2時間59分、昨シーズンは3時間2分と年々試合時間が伸び続けている。新ルール効果がどれほどの時間短縮を実現させるか興味深い。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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