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中継ぎ投手は正当に評価されているか。セットアッパーという“縁の下の力持ち”を考える。

一村順子フリーランス・スポーツライター
今年も、抑え・上原につなぐ大車輪の働きを担うレッドソックスの田沢

5月。田沢が月間自己最多となる15試合に登板した

今月も投げに投げた。レッドソックスの田沢純一投手(27)が、自己最多となる月間15試合に登板した5月。31日の試合は7−1の快勝。「田沢ー上原」の勝利の方程式を温存した快勝で、00年の長谷川滋利(エンゼルス)の月間16試合登板に並ぶ機会はなかったが、チームは10連敗後の6連勝。ジェットコースターのような1ヶ月を締めくくった。

「行けと言われたら行くだけなので。使って貰えるのは、いいこと。連投で疲れてバランスを崩すこともあるので、日によってトレーニングを軽目にすることもあります。登板が多いと後にどう響くか分からないので、しっかりケアをして準備をすることを心掛けています。やることをやって怪我したら、それはそれでしょうがないと(苦笑)」

田沢は、今季27試合計25イニングに投げて1勝0敗、防御率は2・16。22被安打6失点6四球23奪三振。20日のブルージェイズ戦以来8試合連続で失点していない。その間には、1日の休みを挟む2度の3連投、つまり1週間で6日登板の荒技も。ファレル監督の「困った時のタズ」采配は去年から変わらない。自己最多の71試合に投げた昨年を上回るペースで登板を重ねている。

昨年、リーグ優勝決定戦の勝負所でのリーグ最強打者カブレラ斬りなど、田沢は中継ぎ投手の重要性を再認識させる存在感を示した。プレーオフ進出を占う分析などでは、得点力や先発の層と同様、中継ぎ陣の質が論議の対象になる昨今だが、では、実際に中継ぎの評価は高まっているかというと、話は別のようだ。

中継ぎ投手の年俸は妥当か

米スポーツ記者・ジンニッチの著書によると、「セットアッパーは総じてクローザーより年俸が低く、その大多数はメジャーの平均年俸より低い」とある。プロスポーツ年俸などの情報を提供しているサイト「Spotrac.com」によると今季の最高年俸はグリンキー(ドジャーズ)の2800万ドル(約28億円)、フィリーズのリーとハワードが2位タイで並び2500万ドル。上位は各球団の先発陣と主砲が占める。トップ50位にブルペン陣は皆無だ。リリーフの最高額は68位タイに入ったフィリーズの抑えパペルボンの1300万ドル。セットアッパーの最高額はドジャース・ウィルソンの1000万ドルで、全体の106位タイだった。いかに中継ぎの年俸が抑えられているかが分かる。

ちなみに、日本人のリリーフでは、03年のマリナーズ佐々木主浩の年俸800万ドルが最高だ。リーグを代表する守護神・上原の年俸は500万ドル。12年の高橋尚成(エンゼルス)が年俸420万ドル、07年の大塚晶文(レンジャース)が300万ドル。日本球界の中継ぎよりは遥かにいい契約だが、黒田の1600万ドル、田中の2200万ドルと比べるとその差は歴然だ。

コスパ重視のブルペン補強が成功した昨年のレッドソックス

昨オフ初めて年俸調停権を得た田沢は、46万ドル増の年俸127万5000万ドルで契約。働きぶりからすれば格安感は否めないが、FA取得前の中継ぎ投手の相場では妥当という声も聞かれた。交渉相手となったレ軍のチェリントンGMは「過小評価とは思わない。確かに、中継ぎ投手の市場価値は最近、よく議論されるテーマだ。実際、強い中継ぎなしにリーグを戦うことは難しい。それは十分認めるが、我々フロントは、先発投手は年間200イニング投げるという認識がある。中継ぎは毎日準備して大変だが、年間70イニング前後。その差が年俸に現れているのだと思う」と語った。レ軍は、昨年守護神で獲得したハンラハンが戦列離脱したが、ベイリー、上原浩治、左腕ソーントンと、年俸が手頃で、なおかつ他球団で抑えの経験もある実力派中継ぎ陣を揃えて勝ち抜いた。“コスパ重視のブルペン”が成功した例となった。

「交渉は代理人に任せていましたし、悪くない契約だと説明を受けました。僕自身は、中継ぎのプレーが注目されて、少しずつでも評価が高まっていけばいいと思います」と田沢は言うが、年俸の限界に嫌気がさしてブルペンと決別した選手もいる。かつて岡島秀樹投手と共に勝利の方程式の一角を担ったバードは12年に先発転向したが、結果が出ず、マイナー降格。昨年9月に戦力外通告を受けた。連投、回またぎ、前の投手が残した走者を引き継いでの登板…。強靭な体力に加え、試合を読む力、メンタルの切り替えも問われる。メッツの松坂大輔投手も認めているように、簡単な役割ではないのだが…。

ホールド王・ペラルタの男気

市場価格だけではなく、活躍すれば見出しが躍る先発や打のヒーローに比べて、中継ぎはどんなに素晴らしい投球をしてもメディアの扱いも小さい。最近は中継ぎに妥当な評価を、という気運が高まり「ホールド」が付くようになったが、MLBは公式記録と認めていない。

この日の対戦相手、レイズの中継ぎ右腕ペラルタは、昨年リーグ最多80試合に登板して41ホールドを挙げた。それは”非公式”なメジャー新記録だったが、「中継ぎは地味な存在だから。去年俺が“記録”をつくっても、誰もそんなこと知らない」と右腕は笑う。過去3年連続で70試合以上に登板。メジャー10年間で500試合以上投げてきた。オフには故郷ドミニカ共和国に帰り、更に、ウィンターリーグで10試合前後投げるのが恒例というベテランは、12年オフにレイズと再契約、今季の年俸は300万ドルだ。

「38歳という年齢を考えれば、そんなには貰えないさ。自分ではフェアな金額だと思っている。リリーフで稼ごうと思えば、抑えにならなきゃダメ」

デビュー以来中継ぎ一筋。先発転向を考えたことはない。

「今までずっと中継ぎでやってきたから。毎日投げたいタイプの自分には中継ぎが合っている。登板間隔が空くのが嫌なんだ。中5日空くと制球が安定しない。むしろ3連投の方が調子いい。僕だって、そりゃ、中継ぎの重要性が正しく評価されて欲しいと願っている。でも、現状はそういうもんだよ。マウンドに出て、戦う。それだけさ」

自らの適性を認め、ベテランはいつも意気揚々とマウンドへ向かう。スポットライトを浴びることもなく、世間を驚かす大型契約を結ぶこともなく、来る日も来る日も、痺れる場面を任されて投げ続けるセットアッパーは、誇り高き“縁の下の力持ち”と言えるだろう。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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